「この石を使うにはわしだけじゃ魔力が足りんのじゃ。ふたりとも、この石に手をおいてくれんか。そしてそこから魔力を注ぎ込んでくれ」
ソラとリュードは手を石の上に置いて「せーの」の掛け声で力を注ぎ始めました。
すると石は光り輝き明るさを増しました。
サンタさんはそれを持って目を閉じて呪文を唱えました。
「この世に たくさんの幸せを」
そういうとあたりが一面眩しくなり目を閉じました。
「サンタさん、いまのって……?」
「いまのはのぅ、昔、ある少女からもらった不思議な石での、プレゼンとをほしがらない子にはこれをあげるんじゃ。だからソリはきらきらと輝くんじゃよ」
「そのきらきらって?」
「これはのぅ、“奇跡”じゃ」
「“奇跡”……?」
ソラもリュードもきょとんとしてしまいました。
「“奇跡”はのぅ、本当に信じ、行動し続ける者の前にしか起きんのじゃ。でものぅ、この聖なるクリスマスだけはそれが起きる“可能性”を与えるんじゃ。とくに大人が多いかの」
サンタさんは悲しそうにため息をつきました。
「大人になるにつれて人というものは“希望”を、“光”を失ってしまう。そこから“夢”を失うんじゃ。でものぅ、わしは“奇跡”を“夢”を信じてほしいんじゃ。そのためにわしはずっと昔から三代目サンタクロースとしてがんばっとるんじゃ」
「そうなんだ」
ソラが言いました。
「サンタクロースはのぅ“夢”を与えるためにおるんじゃ。サンタクロースの国家資格は簡単にはとれん。つらくてやめたいと思うような訓練がたくさんある。トナカイが言うことを聞いてくれないこともある。わしも自分を責め続けて生きてきたんじゃのぅ……。でものぅ、どうしても、サンタクロースになりたかったんじゃよ。ソラちゃん、リュード君」
「私の名前知ってるの?」
「もちろんじゃとも。なんどもプレゼントをあげたしの」
「サンタさん……ありがとう!」
ソラはお礼を言いました。
「ありがとうはわしのほうじゃ。いつもわしは子供たちから“夢”をもらっとる。なかにはわしにプレゼントをくれる子もおるのぅ。クッキーもミルクも大好物じゃからつい食べてしまうんじゃ」
「そうなんだぁ」
「さぁ、もう暗くなってきたしのぅ。そろそろ帰ったほうがいいぞよ」
「うん! ばいばい! サンタさん!」
サンタさんはソラを寮まで送ってくれました。
「おぅぃ、まっておくれや、リュード君」
「なんだよ。サンタのジジイ」
サンタさんはリュードのところに歩いてきました。
「君に教えてあげたいことがあるんじゃ」
「は?」
「あの子は……君を責めとらんよ。」
リュードの顔が真剣味をまして、サンタさんを睨みつけました。
「――姫様のことか?」
吐き出された声はとても低く、目の色は紅黒くなっていました。
「君は、自分を苦しめていくつもりかの? そんなことをしてもあの子は泣くだけじゃ」
「知るか」
「クリスマスは“奇跡”が起きる日なんじゃ。あきらめちゃいかん」
「起きねぇよ……“奇跡”なんて。“あの時”も“あの時”も起きなかったんだ」
「君は信じて行動をしたのかの? 君は逃げとるだけじゃ。苦しもうとしているように見えるが周りの人間を巻き込んでただ逃げているんじゃよ」
「黙れ!」
リュードの目には怒りと憎しみが見受けられました。
「おれはあの人のために生きるんだ。そのために生まれてきたんだ!!」
リュードはそういうと背を向けて帰って行きました。
***
「一目会えてよかったわい。あの少女が……ソラ・フローレイ」
サンタさんは少女のこれからを思い、目を瞑りました。
「光の道の導きに 炎の灯火があらんことを 闇をまとう少年の中に 風の香りのあらんことを」
願いを込めて呪文を唱えました。
少しでも、未来が明るくなるように。