「フローレイ、お前ほんと頭は悪いし全然成長しないな……」
「ひどーい! 確かにそうだけど、そんな言い方しなくても!」
リュードが補修中に突然そんなこと言ったのでソラはとても驚きましたし、怒りました。
一方、リュードは目を丸くして驚きました。
「事実だろうが」
「確かにそうだけど……!」
さっきよりリュードが目を丸くしたところで、ソラは異変に気がつきました。
「リュード君……どうしたの?」
「なんでお前、俺の言った言葉がわかったんだ?」
「え?」
ソラは困惑しましたが
「なんでって……わかるよそりゃあ」
「もう魔法の効果は切れてるはずなのに」
「魔法……?」
ソラは思い当たる節を考えてみました。
「あ、あのえっと『月の雫』?」
「そう」
リュードは考え込んでいるようでした。
「あの魔法は長くても半年だから、もう切れているはずなんだが」
「まってまって!? それどうしてもっと早く教えてくれなかったの!? もうとっくの昔に切れてるよ!?」
「そう、だから……」
リュードはディウォルナ先生を例に話を始めました。
「アオイさ……ディウォルナ先生は、魔界に来て半年で薬が切れたが、その頃には本人の語学力で補っていたのと、魔力の発達が著しかったから言葉が聞き取れていた」
「うん? 魔法の発達が著しいって?」
ソラは状況がつかめず、リュードに質問を投げかけました。
「魔力の強い人間は、英語でも日本語でもフランス語でも聞き取れる。でもお前はそこまで魔力が強く発達したわけでもないのに……」
「た、確かにその通りだけど。ちょっとひどいよ〜!」
リュードの説明をまとめるとこういうことでしょうか。
初めにライアの英語が聞き取れなかったので、魔法の薬の効果で聞き取れるようにしていた。
魔力の発達が著しくはないソラは魔法の薬の効果が切れた時点で言葉を聞き取れないはずなのに、今もこうしてリュードと会話している。
「本当は魔法の効果がディウォルナ先生みたいに切れているはずなのに、なんでお前は俺の言葉を分かるんだよ。」
「そ、そんなこと私に聞かれても……」
リュードは少し考えてから困惑した様子でソラに言いました。
「もしかすると……」
「なに?」
リュードの顔が少し青ざめて見えるのは気のせいでしょうか。
「ローアのところに行こう。今の時間帯なら……植物園にいるんじゃないか」
「うんそうだね。ローアちゃんよく植物園にいるから」
ローアは植物が好きで普段から花の水やりをしています。
ソラもローアに花束を分けてもらったことがあります。
「嫌な予感がする。頼むから当たらないでくれ」
リュードのつぶやきをソラは拾うことができませんでした。
校内は広くて移動しているあいだに日が傾いてきました。夕日が赤くキラキラと輝いています。
植物園は透明な丸い建物で、何度か授業でも訪れたことがあります。
「ローアちゃーん!」
「ソラちゃん! リュードもいる。珍しいね」
「ああ、ごめんな。突然押しかけて」
「気にしないで、とっても嬉しいよ。……どうかしたの?」
リュードは少し言葉にためらってから、ローアに言いました。
「フローレイが……『声を聞く』才能の持ち主かもしれない」
「え!」
ローアはとても驚いたあとに、ソラをじっと見つめまいした。
「そっか……ソラちゃんは風の元素だったね」
「もしそうなら、と思って」
「そっか。だから私に会いに来たんだね」
ソラはリュードとローアが話している内容が全くわかりません。「声を聞く」才能とはなんのことでしょうか。
「ローアにとって……話しづらいことかもしれないが」
「ううん。全然平気! ソラちゃんのためだし」
申し訳なさそうなリュードにローアは優しく微笑みました。
「ソラちゃん。ソラちゃんは……私のこと嫌いにならないでね?」
ローアが悲しそうな顔をして言いました。
***
「ソラちゃんは、私がなんの元素を持っているか知ってる?」
「え、知らない!」
ソラは風の元素、リュードは炎の元素……でも、ソラは今までローアの元素を聞いたことがありませんでした。
「私の元素は……木の元素。植物を司る元素だよ」
「そうなんだ……! なんだかローアちゃんっぽいなあ」
ローアはいつも優しくてとっても頭がいい。学級委員として毎時間黒板を消したり、仕事も真面目にこなしています。
ふわふわしていてとっても柔らかいローアには花や植物が良く似合います。
「もしかして、ローアちゃんって木の元素を持っているから、植物が好きなの?」
「うん。そんなところかな、小さい頃から好きなの」
そこまで話すとローアの顔が陰りました。そんなに話しづらいことなのでしょうか。
「ソラちゃん、こっちにきて! あのお花はよくおしゃべりしてくれるから」
「おしゃ……べり?」
ソラは首をかしげましたがローアについていきました。