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 案内された先に赤くて大きな花が咲いていました。名前は知りませんが、どこからどう見ても普通の花です。

「クリムズン、紹介するね! 私の友達のソラちゃん」

 ローアは赤い花に向かって話しかけました。ソラは何をしているのかよくわかりませんでしたがローアにならって

「はじめまして! ソラ・フローレイです!」

 と自己紹介をしました。

『ローアのお友達? 素直でいい子ね!』
「え」

 いま、どこからか声がしたような気がします。ソラはあたりをキョロキョロと見まわしましたしました。

「今喋ったの誰……? ローアちゃん? それとも」
『わたしよわたし!』

 間違いありません。
 赤い花――クリムズンが話したのです!

「え、え、え? クリムズンは魔法のお花なの? だから話せるの?」

 ソラが困惑しながらもローアに話しかけると、ローアは首を横に振りました。

「ううん。リュードの言ったとおりソラちゃんには声が聞こえたのね」
「う……うん」
「クリムズンは魔法なんてかかってない、普通のお花よ」

 ローアが説明してくれました。

『ローア、ローアが友達を連れてきてくれるなんて嬉しいわ』
「本当? 私もクリムズンに友達を紹介できて本当に嬉しいわ」

 クリムズンはただ風にそよいでいるように見えます。ソラは困惑しました。

「リュ、リュードくんも聞こえるの?」
「いいや、俺にその花の声は聞こえない」

 リュードは首を横に振って答えてくれました。


 ***


 どうして花の声が聞こえるのか、ローアがクリムズンとの会話を終えたあとに説明してくれました。

「私達、木の元素の持ち主は植物と会話ができるの。リュードみたいにほかの元素を持っている人は、植物と会話できないのよ」
「俺には本当に何も聞こえないし、何も感じないしな」

 ローアは悲しそうな顔になりました。

「植物と会話できるのは……木の元素の持ち主だけ。ほかの人から見たらよっぽど変よね、花とお話をするなんて。だから普段は秘密にしてるの」
「木の元素の人って、みんなそうなの? 周りの人に理解は……」
「詳しく説明すると難しいから、簡単に言うと……魔界に木の元素の持ち主って全体の一割もいないの。
ソラちゃんの風の元素ほどではないけれど、比較的に珍しい元素なんだよ」
「そっか……」

 ソラはやっとリュードの申し訳なさそうな表情や、ローアが悲しそうな顔をしていた理由がわかった気がしました。
 ソラからすれば植物と話ができるなんてとても素敵なことなのに、それをおかしいと後ろ指差す人もいるのでしょう。
 ローア自身、嫌な思いをしたのかもしれません。そうだとすると、話すことをためらってもおかしくはありません。

「ん? でも待って、私は木の元素じゃなくて風の元素だよね?」
「そう……お前は本当に、特別な人間らしいな」

 リュードが暗い表情で説明を続けてくれました。

「風の元素の持ち主の中で……歴史上でも片手の数ほどしかいない、特別な才能を持っている奴がいる」
「特別な才能?」

 ソラは首をかしげました。リュードは言いにくそうに口を動かします。

「百年に一人、いるかいないかのとても稀少な才能……『万物の声を聞く才能』」
「なにそれ?」
「少しでも魔力があれば聞こえるんだ。全ての人間の言葉を聞き取れるし、読むこともできる。全ての生物と無生物の言葉を理解できる」
「えっと……どういうこと?」

 その質問にはローアが答えてくれました。

「つまりね、木の元素の持ち主じゃなくても植物とお話ができるし、どんな動物とも石とも水ともお話ができるんだよ」
「え! すごーい! なんだか楽しそう」

 ソラの明るい声を聞いたリュードが苦虫を噛んだように顔を歪めました。

「お前が知っている人物だと……魔界創世記に登場する、リウルス・フローレイ。ほかにも『万物の声を聞く才能』の持ち主は歴史上名を残す偉人ばかりだ」
「へえ……。本当にすごいね」
「お前もそのひとりなんだぞ」

 リュードの言葉にソラは驚いて言葉を失いました。
 つまり、ソラは百年に一人の『万物の声を聞く才能』の持ち主だから、植物の声が聞き取れたのでしょうか。
 リュードは空中から魔法で羊皮紙とペンを出すと何かを書いてソラに渡しました。
 ソラにはちんぷんかんぷんな文字です。日本語ではないし、英語に似ているけど違います。

「なんて書いてあるかわかるか?」
「え〜!? う、う〜ん。全く知らない文字だけど、これ」

 ソラは呆れた顔になりました。

「『お気楽能天気バカフローレイ』って書いたの?」
「なんでわかったんだよ、残念だな」
「リュードくんひどい! ほかにもっとないの!?」

 ソラの怒りをリュードは受け流しました。

「事実だろ。それに……間違いない」

 リュードは大きく息を吐きました。

「さっきから、リュードくんはどうして悲しそう、なの?」

 ソラは話しかけてからリュードの顔を覗き込みました。
 リュードの瞳がいつか見たように赤黒く濁っていました。

「それほどまでに強い風の元素を持っているお前は……自由に未来が選べない、だろうな」
「魔界では、元素の強い人の行動を監視したり、制限したりするの」

 リュードの言葉をローアが付け足しました。

「どうして?」

 ソラはあまりにも無知だったので、この時リュードがどうしてこんなに悲しそうな顔をしているのか、ちっともわからなかったのです。

「政府は……『守護者』なんて響きのいい言葉を使ってるけど、この魔界は『人柱』によって支えられているからな」
「リュード! その言い方は……!」

 いつもおとなしいローアが声を荒げました。

「でもそうだろ! こいつはもうこれで『守護者』確定なんだ」

 リュードが低い声で絞り出すように言いました。
 目の色はとても濁っていました。

『守護者』とはなんなのか、ソラは気になって尋ねましたが、リュードに聞いてもローアに聞いてもそれ以上は教えてくれませんでした。




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