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 大好きなあの人、その人をいつも目で追っている。
 そうすると、邪魔な人間が映りこんでしまう。
 どうしてあの人は、私の前以外で笑うの? 昔は、そんなことなかったのに。

 あの、邪魔な人間……あいつのせいなの?


 ***


 ソラはいつもよりも早い時間に目が覚めました。
 季節は冬。雪が積もっていて周りは一面銀色。
 緑色の草もすっぽりと白い雪をかぶっていました。
 まだこの時間だと朝食の時間まで余裕です。二時間はあります。

「よぉ〜し! 探検しよう!」

 ソラは冬用の少し重たい制服を着ました。そしてその上に暖房の魔法をかけたローブを着ます。

 ローブは夏も冬も同じものを着ますが、魔法をかけかえるので涼しくなったり暖かくなったりします。
 ちなみに普通は自分でかけるんですが、ソラは自分ではうまくかけられなかったのでリュードにかけてもらったのでした。
 その時からでしょうか? いえ、もっと前からだったような気がします。
 誰かから、見られているような気がするのでした。

 中庭は誰かの足跡がありました。
 その足跡をたどっていくと、黒いローブを着た少年が大きな鳥、鷹でしょうか?その鳥を飛ばしたりして運動させているようでした。ソラはその少年が誰なのか分かりました。

「リュード君! おはよう。何してるの?」

 リュードはこっちを向きました。

「あぁ。早いな」

というとこっちに向かって歩いてきました。ソラは

(リュードはやはり顔立ちが良くてみんなが言うようにかっこいいなぁ)

と思いました。身長は高くスラリとしていて、雪と同じかそれより白く透き通っている肌。
 そして深紅の色の目。肌と目の色を引き立てる漆黒の髪。顔立ちも本当に整っています。

「運動させてたんだ」
「えっと、このこを?」
「こいつはリース。鷹だ」
「たか? おっきいね。なんだかちょっと怖いや」

 ソラが触ろうとした時でした。リースがすごい勢いでソラの頭をつついてきました。

「痛い痛い痛い痛い……! やめて〜」
「気をつけろ……って遅かったな。リース、やめろ」

 そういったとたんリースはつつくのをやめました。

「おれは何も悪いことはしてないぜぇぃ」

 と声がリースの口から聞こえたような気がしました。

「リュード君も言うの遅いよぉ〜!」
「悪かったな」

 とリュードはいいました。

「こいつ、俺の言うことしか聞かねぇんだ」
「やっぱり私、怖いよ」

 朝からそんな話をしていました。


 ***


 午後の授業は魔法史の授業でした。

 習うところは「魔界創生時代」です。
「魔界創生記」という書物の原文がそのまま教科書に載っています。
 前の授業でそれを現在の文章になおして今日はその内容について詳しく習うのでした。

「はーいよく聞け、今日は先生がお休みなので代わりに俺が授業を担当する。ジェイク・レイアスだ」

 レイアス先生が言いました。
 するとカリス・フィネガン君が手を挙げて

「先生、何で休みなんですか?」

 と聞きました。

「風邪だそうだ。お前たちも気をつけろよ」

 と手短にレイアス先生は答えました。

「前を向け。まず、この魔界ははじめは“無”だった。そこから創造されたんだ。では魔界を創世した、八人のうち四人を挙げてみろ。じゃあ、ローア・クゥロ」
「はい」

 とローアは立ち上がって答えました。

「レイウス・フローレイ、リウルス・フローレイの双子の兄弟とグライグ・ゼジルス・シリル、アイリスリアリ・ディウォルナ……です」

 ソラは聞きました、「リウルス・フローレイ」という言葉を。
 自分のご先祖様であるリウルスが双子の兄弟であったことも初めて知りました。
 なにせ、現代語訳はほとんどリュードに手伝ってもらったので、ソラは理解できていなかったのです。
 そして気になったのは「グライグ・ゼジルス・シリル」と「アイリスリアリ・ディウォルナ」という名前でした。
 その二人の名字はリュードとディウォルナ先生と同じだったからです。
 そして、レイアス先生は聞きました

「この中にその大魔法使いの直接の子孫がいる。立ってみろ」

 そういうとリュードがたちました。

「お前もだ」

 と言われたのでソラも立ちました。

「そう、リュード・シリルとソラ・フローレイこの二人が直接の子孫だ」

 ソラはびっくりしました。まえから自分が有名な魔法使いの子孫だということは知っていましたが、まさか、魔界を作った十人の大魔法使いの一人だということはこの時初めて知りました。
 ご先祖様がすごい人だ、とは聞いていたけれど。まさか魔界を創った人だったとは。

「ほかにも、直接の子孫は先生たちの中にもいる。アオイ=アリウス・ディウォルナ先生もそうだ」
「先生、質問!」

 ソラは手を挙げました。「何だ」と先生がソラを当ててくれました。

「何でそういうのがわかるんですか? リュード君は分かるけど、何で私もそうだって?」
「元素の濃度だ」

 と先生は答えました。

「元素は遺伝、ここにいる全員何らかの元素を持っている。それは親や、もっと前の祖先からの遺伝だ。そして元素の濃度で高いものを持っていたのが大魔法使いの十人だ。」
「よくわからないけど。わかるんですね」
「あとは自分で理解しろ」

 と先生から言われました。




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