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 ソラたちが出かけていった後、フレアンブレに青い羽を持った妖精が尋ねました。

「あの黒髪の少年から、以前『宝玉』を治しに来たグライグ・シリルの末裔と似た魔力を感じました。フレアンブレ様は何かご存じですか?」
「ええ。今回来た彼は前回来てくれたルーゼス・シリルの弟さんよ」
「まあ、そうだったのですか」
「前回来た光の守護者――アオイにそう教えてもらったわ」

 その言葉を聞いた妖精たちは驚いて、心配そうに言いました。

「グロゥは大丈夫かしら……」

 フレアンブレはにっこり笑ってこう言いました。

「グロゥを信じましょう! きっと大丈夫です」

 妖精たちはグロゥの無事を願って歌を歌い始めました。


 ***


「ねえ、グロゥ! 聞きたいことがあるんだけど……」
「なあに?」
「『光の宝玉』ってなあに?」

 予想通りの質問にリュードはため息をつきました。

「光を司る宝玉のことよ」
「宝玉?」

 ソラは知らない単語を聞いたので、答えを求めました。

「宝玉っていうのは、元素を供給するためのものよ」
「元素を供給?」

 ソラはわからないことだらけです。
 リュードは長い長い説明をするために、大きく息を吸いました。

「俺達のいる場所はどこだと思う?」
「うーんと……妖精界だって先生が言ってた」
「そう、妖精界。学校やシリル家の別荘がある魔界――魔法界――とは別の場所だ、というのはわかるか?」
「うん。なんとなく」

 ソラは頭の中で整理してみました。
 ソラがもともと住んでいたのが人間界。
 ルーさんに連れて来られて、学校があるのが魔法界。
 そして今いるのが、グロゥたち妖精が住む妖精界。

「『世界』にはたくさんの空間が存在する。お前が知っている、人間界、魔法界、妖精界の他に悪魔界、天界と言った具合だ」
「悪魔界には悪魔が住んでいるの?」
「そうだ」
「天界は?」
「それはよくわかっていない。ただ、死者の魂は天界に帰ると言われている」

(つまり、悪魔界は地獄みたいな場所で、天界は天国かな?)

 ソラが納得したような表情を見せたので、リュードは続けて説明してくれました。

「『世界』は限られていて、『空間』同士はつねに押し詰められている。お互いがお互いの『空間』世界に影響をあたえることも有るんだ」
「押し詰められている、ってどういうこと?」
「ぎゅうぎゅうだってことだよ。おしくらまんじゅう……って言えばわかるか?」

 ソラはぽわんと想像してみました。
「世界」という土俵の中に人間界や魔法界のような「空間」という名の力士がたくさんいて、皆でおしくらまんじゅうをしているということでしょうか。

「『空間』世界は『元素』によって構成されていて、様々な生物から少しずつ『元素』を分けてもらうことで成り立っている。元素はその空間内から流れ出ることはなく、地球上の資源のように循環している」
「あっ! 『元素』って私達が魔法で使う?」
「そうだよ」

 ソラの脳内劇場はまだまだ続きます。
「空間」という力士達は「元素」というパワーの源をたくさんの食べ物から少しずつ分けてもらうことで元気に過ごしています。けれど「元素」には限りがある。

「まってまって、じゃあその『元素』が足りないとどうなるの?」
「『空間』世界は他の『空間』世界に押しつぶされて消えてしまう」
「え、もしかして……」
「珍しく理解が早いな。『空間』世界が押しつぶされて消えてしまえば、その『空間』世界に住んでいる生き物は次元の狭間に消えてしまう」

 ソラは真っ青になって、息をのみました。

「つまり、その『空間』世界の生き物が死んじゃうってこと……?」
「そういうことだ」

 リュードはいつもよりも低い声でぼそりとつぶやきました。
 グロゥがうつむいたソラの前に飛んできて言いました。

「ここ――私たちの住む森――は妖精界の端で、特に光の元素が行き届いていないの。『空間』世界の端だから、『元素』が循環しづらいの。その状態をほうっておくと、ここは光の届かない場所になって、私たちは住めなくなってしまうわ」

 あとでリュードに聞いた説明を付け加えて詳しく言い換えると、「世界」は人間の体と同じように「元素」という血の循環があると考えればわかりやすいです。そして、手足の先ほど血が循環しづらいように、世界の端になるほど元素は届きにくくなります。
 例えば、魔法界で水の元素が行き届きにくい場所は砂漠になり、水不足で悩むことになるのです。

「そして、それを防ぐために太古の昔、アイリスリアリ・ディウォルナが光の『元素』を封じ込めた『宝玉』を置いてくれたのよ。『宝玉』によって光の元素は供給されて、私達はここに安心して住めるようになったの」

 ソラは、砂漠での出来事を思い出しました。
 砂漠で「水の宝玉」が封じられたとき、砂漠は水不足になりました。それは「水の宝玉」からの「元素」の供給が絶たれてしまったからだったということでしょう。




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