「う〜〜ん。覚えることがたくさんあったけど、なんとなくわかった気がする」
世界はたくさんの「空間」で構成されていること。
「空間」はぎゅうぎゅう押し合っていること。
上記の力の源が元素で、元素がなくなると困ってしまうこと。
そして、それを防ぐために元素を封じ込めた宝玉があること。
ソラは一気にたくさんのことを教えてもらったので、授業よりも疲れました。
「ん? それで、私たちは今から何をするんだっけ?」
グロゥは呆れてみせました。
「その『光の宝玉』を治してほしいのよ」
今度はずっと説明していたリュードが質問しました。
「治すってどうするんだ?」
「あなたたちの元素を宝玉につぎ込んでほしいの」
「つぎ込む?」
ソラはリュードがこんなに質問しているのを、初めてみました。
「宝玉に封じ込められていた光の元素が薄くなってしまって、このままでは私たちは住めなくなってしまう。そして私達にとって大切な意味を持つお祭り――妖精の夜(フェアリー・ナイト)――が行えなくなってしまうの。本来は光の元素の持ち主につぎ込んでほしいけれど、アオイさん? は光の守護者だから魔界を離れるわけにはいかないのでしょう? だからあなた達が呼ばれたと聞いたわ」
「アオイさん……ディウォルナ先生が光の守護者? リュードくん、どういう意味……」
そう尋ねようとリュードの方を見ると、リュードが青ざめていました。そして、言葉の端を聞き取ったのか、ソラに言いました。
「今は……答えたくない」
ソラはそれ以上聞くことができませんでした。
「でもどうして私達なのかな?」
歩きながら、何気なくグロゥに尋ねると
「そんなこともわからない? 風の元素が光と闇の中立にあり、なおかつ光の元素と宿命が似ていて、炎の元素が光の元素の性質に最も近いからでしょ」
どういうことなのか、ソラにはよくわかりませんでした。
かろうじて、炎の元素が光の元素の性質に近いというのはわかったような気がします。人や動物、植物を照らしてくれる太陽は遠くにある炎で、それが光となって地上に降り注いでいるからです。
これ以上説明を求めても、頭がぎゅうぎゅうになったソラは理解できる気がしなくて、聞くことをやめました。
「もうすぐ着くわよ。宝玉の場所に」
グロゥはそう教えてくれました。
***
グロゥレイトは他の妖精とは違いました。
月の光を浴びてキラキラと輝く羽、朝露のように透き通った美しい羽……みんな「花の精(フロラリエール)」という言葉から人間が受け取るイメージにふさわしいきれいな羽を持っていました。けれどグロゥレイトはトンボの羽、どうして自分がトンボの羽を持っているのかもよくわかりません。皆は優しくしてくれるけれど、グロゥレイトはずっと気にかかっていました。
(どうして私は他のひとと違うのかしら、皆本当は私を嫌ってはいないかしら)
なんとなく優しくされてもそっけない反応をグロゥレイトは返してしまいます。
どこか、他のひとを信じきれない自分がいました。
***
「ここよ」
グロゥは洞窟の入口を指さしました。ソラは中がどうなっているのか覗こうとしましたが、なんだか嫌な感じがして覗くことをやめました。その様子を見たリュードが口を開きます。
「お前の判断は正しい、ここは結界が張ってある」
そっかだからかぁ、とソラがひとりで納得していると、グロゥがふたりの目の前に現れて言いました。
「ごめんなさい。私が案内出来るのはここまでよ」
「え、どうして?」
「私がこれ以上貴方達と一緒にいれば、私は足手まといになってしまうもの」
ソラが首を傾げると、ソラの疑問をリュードがかわりに問いかけてくれました。
「どうしてこれ以上はだめなんだ? 俺たちは初めてやってきた洞窟で放っておかれるのか」
「確かに迷路だけれど……きっと大丈夫よ。私が居ないほうがいいわ」
つんとすましてグロゥが答えると、リュードは不満そうに腕を組みました。
「答えになっていないんだが」
イライラしているリュードをなだめて、次はソラがグロゥレイトに尋ねます。
「どうしてだめなの? 足手まといってどういうことなの? 教えてグロゥ」
「……私が邪悪な妖精(アンシーリーコート)だからよ」
「アンシーリーコート?」
ソラは思わず聞き返してしまいました。たしか授業ではじめの方に教えてもらいました。
邪悪な妖精(アンシーリーコート)とは祝福された妖精(シーリーコート)と対になる妖精のことです。人々に対して友好的な妖精を祝福された妖精といいます。その逆に人々に対してひどい嫌がらせを行い、ときには人を殺すような闇に生きる妖精を邪悪な妖精と呼びます。
花の精(フロラリエール)は祝福された妖精なはずです。リュードも面食らった顔をしていました。