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 入学から一ヶ月たった日の朝のことです。
 一ヶ月たったとはいえ、何とか授業にもついていけるようにはなりましたが友達はなかなか出来ませんでした。リュードとライアとローアそしてリュードの数少ない友人であるレリュット・アリザとも仲良くなりました。

「よし、髪はピンでとめたしOK!」

 鏡の前で身だしなみをチェックしたソラはバックを持ち、そして寮から出ると朝ご飯を食べ、一時間目の授業に向かいます。
 今日の一時間目の授業はディウォルナ先生担当の妖精魔法の授業でした。
 席に座るとすでにリュードは来ていました。
 少しするとディウォルナ先生が教室に入ってきました。

「おはよう」

 と皆に挨拶して、前の机の上に荷物を置くとさっそくかごを取り出しました。

(何が入っているんだろう)

 とソラは思い少し背を伸ばしてみますが、よく見えません。

「これ、なんだかわかる人」

 そう言うと、籠から鳥を出しました。その鳥は真紅の色をしていて瞳は黒真珠のようでした。

(もしかして)

 ソラは手を上げました。

「フローレイさん」
「不死鳥ですか?」
「正解。この子は不死鳥、またはフェニックスと呼ばれる鳥だよ。紅いから一発で見たらわかると思うけど。不死鳥の尾羽は有名だね。では、不死鳥の翼の羽根はなんに使う? カリス・フィネガンくんどうぞ。」

「俺!?」

 とカリス・フィネガンはうめいたあと

「強き願いを叶えるため、ですかね」
「正解、授業中に居眠りしないように」
「はい」

「不死鳥の特徴くらいは説明しなくてもいいね。不死鳥の翼の羽根は強い願いに使われることが多いからネックレスなんかが多いけれど、不死鳥が現れる次期はいつでどこ? では、リュード・シリルくん、どうぞ」
「夏の砂漠。めったに見かけることがないために、それだけ不死鳥の羽根は高値で取引される」

「正解。後日不死鳥についてレポートをまとめて各自提出してください。学級委員は移動教室の前に黒板を消しておいてね」

 礼をした後、ソラが今まで一番楽しみにしていた授業が来ました。飛行術の授業です。飛行術の授業は校庭で行います。


 校庭ではちょっとした小さな川なんかも流れていて、草や花がそよそよと風に吹かれてゆれています。
 ソラはほうきを持っていなかったのでライアからかしてもらった箒を持ちました。
 すると校庭のはしの方から担任のエイク・カゥル先生が出てきました。カゥル先生は陽気なひとで、茶色ふんわりとした髪の毛、目はアイスブルーで透き通るような綺麗な色でした。

「飛行術はとっても危険です。体調が少しでも優れない人は、見学してください。はい、それでは、各自箒にまたがってくださいね」

 そういわれ、皆ほうきにまたがりました。

「では、ここからが難しいですよ。箒でふわりと浮かぶ姿をイメージします。このイメージが弱いとなかなか上手く飛べません。イメージが出来たら地面を強く蹴ります。10メートルくらい上昇したらそのままゆっくりと降りてきてください」

(イメージが大切なんだよね、イメージイメージ……!)

 ソラは頭の中でゆっくり空を飛ぶ姿をイメージしました。

「はい蹴って!」

 ドン! と強く地面を蹴りました。怖くて瞑っていた目を開くと少しだけですが地面から足が離れています! そしてそのままゆっくりとあがっていきました。

(ちょっとずつ、ちょっとずつ……)

 そう思いながら10メートルくらい上がった頃でした。
 ソラのほうきがガクンと垂直に落下しはじめたのです!
 カゥル先生もその異変に気がつき、ほうきにまたがってソラのほうに向かってきます。


 ソラがおぼえているのはここまででした。
 ソラが目を覚ますと白い清潔なベットの上にいました。服からはやさしいジャスミンの匂いがします。

「あ……! 気がついたんだね! よかった!」

 とカゥル先生がベットの横に座ったまま嬉しそうに息をつきました。

「ここは……どこ、ですか?」
「ここ?  ここは保健室。ソラちゃんほうきごと落ちちゃったんだよ、覚えてる?」
「はい……いま何時ですか?」

 ソラは頭が痛くて言葉をつなぐのがやっとでした。

「いまはね四時間目の授業の終わりごろだよ」

 そうしてまた、なにか思い出したように先生は手を叩くと

「そうそう、四時間目が始まるぎりぎりまでリュードくんがずっと心配してお見舞いに来てたんだ」
「リュード……くんが?」
「うん!」

 素敵なパートナーさんだね! とカゥル先生が教えてくれました。

 落下していたソラを先生より早く抱きかかえて地上まで降ろしてくれたのはリュードでした。そして保健室でずっと心配そうにソラを見ていた、と先生が教えてくれました。

(あのリュード君が……)

 とソラは不思議でした。

「でもほんとによかった! 怪我ない? どこか痛いところは? 食べたいものは? のどかわいてない?」
「先生……はやいです」
「うわああ、ごめんね。怪我はなさそうだけど、痛いところは?」
「あたまが……」
「頭が痛いの?」

 ソラは小さくうなずきました。

「食べたいものとか、のみたいものとかはない?」
「ない、です」
「そっか、よかった! 何かあったらいってね。僕、今日はここにいるから」

 先生はふんわり笑うと、安心させるようんソラの頭をなでてくれました。
 その日は、ソラは寮にまで戻れず、保健室で一夜を過ごしました。

「校内には防犯の魔法もたくさんかかっているから大丈夫だよ」

 とカゥル先生いわれ、安心して眠ることができました。


 次の日です。

「気がついたか?」

 リュードがソラのベットの横に座っていました。

「今……何時なの?」

 昨日よりもだいぶ調子がいいらしく、頭も痛くありませんでした。

「お前が落ちてから一日たった。ちょうど朝食前……さっきまでカゥル先生もいたんだけどな」

「授業の準備があるんだ」とか言って出て行った、と説明してくれました。リュードがさっとソラの頬をなでて

「熱とかはないな。まぁ、落ちただけだし」

 とつぶやきました。ソラは調子がいいので立ち上がろうと体を起こそうとします。すると、リュードが手を出してソラの体を支えてくれました。

「もう、起き上がっても平気なのか?」
「うん。ご飯食べにいくよ」
「わかった。ちょっと待ってろ。先生に報告してくるから」
「ありがとう」

 リュードはそれを聞いて立ち上がりましたが、もう一度向き直って

「頼むから、無理をせず頼ってくれ。俺に気なんて、使わなくていいから」

 それだけ言うと保健室の奥の方に行ったようで、足音が聞こえなくなりました。

(私はもう元気だから、そんなに心配しなくても……)

 とソラは心の中でつぶやきました。ですが、一晩保健室で眠っていたわけですし、リュードに大変心配をかけてしまったのでしょう。ソラは心を痛めました。

 そのあと

「大丈夫だった!?」
「うん! もう大丈夫だよ」
「ほんとに!?」
「うん、へっちゃら!」
「ならいいけど……」

 皆が心配していたようで、その優しさがソラは少し嬉しかったのでした。

(ただ落ちちゃっただけなのかもな)

 その言葉をソラは心のなかで何度もつぶやきました。

(私ってもしかして才能ないのかも。前にリュードくんにも言われたし)

 ソラ以外にほうきから落ちた人はいませんでした。それを聞いて、補修中にいわれたことを思い出したのです。

 初めての飛行術の授業は波乱に満ちていました。



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