季節はもう夏です。日差しがさんさんと降り注ぐ中ソラは水泳の授業を受けていました。今は、パートナーであるリュードのタイムを計っていたのです。
ちょうどその時リュードの手がプールの端に触れました。ソラは失敗しないように気をつけながらストップウォッチのボタンを押しました。
リュードは水面から顔を出すと
「タイムあがったか?」
と聞きました。
「わ、上がってるよ。さっきフィネガンさんが出した記録よりずっと速いよ! 学年で1位だね」
「ほんとうか? まぁ、上がっていて当然だが、いくつ?」
はい、といってリュードにタイムを見せました。リュードは「まぁまぁだな」といいました。
「先生に言いに行くか」
とリュードが言うとソラは、チャンス! と思い
「いいよ。私いいにいく」
といいました。ですがリュードは
「サボろうたって無駄だ」
と見抜き、ディウォルナ先生のところに言いに行きました。
(ばれちゃったか)
と心の中でぶつぶつといっていると、いつのまにかリュードは帰ってきていました。
「ほら、はやく入れ。おまえ、まだ10mくらいしか泳げてないくせに。いや、おぼれてるくせに」
「うぅ、だって! おかしくない?」
「何が?」
ソラは思い切って
「だって、ここ魔法学校でしょ? なのにここ普通の屋外プールだし。学校のプールそっくりだし。何で魔法の授業とかじゃなくて水泳の授業なの?それに最近はやけに飛行術の授業があるし」
と思っていたことをリュードにぶつけました。お前はまた、とリュードはため息をつくと
「何で水泳の授業するか知らなかったのか?」
と聞きました。ソラは迷わず、知らない、教えて。答えました。
「もうすぐ七夕だろう」
「うん。それと何の関係があるの?」
そのソラの答えを聞くとリュードはまたため息をついて、お前の頭は帽子か何かか、とつぶやくと
「七夕の伝説は勿論知ってるよな」
と聞きました。ソラもさすがに「うん。勿論」と答えました。
「七夕で出てくる天の川。あの川は七夕の日にはどうなると思う?」
「橋ができる!」
「そう。それでその橋は誰が作る?」
「うーん……神様?」
「ちがう。俺たちだ」
「え!」
さすがにソラも驚いて後ろに一歩後ずさりしました。
「俺たちは魔法でその橋になることになってる。それでそこまで飛ばなくちゃいけないし、万が一落ちた場合泳げなくちゃいけない。そのための水泳の授業だ」
「知りませんでした」
「だから今教えてやった」
「うん」
「よし、分かったらとっととプールに入れ」
とリュードは先にプールに入りソラを手招きしました。
「えーっ! ここ深いんだよ。肩のちょっと上のほうまであるんだよ!」
とソラはまたまた後ずさりをしました。
「足はつく、顔は出る、外は暑い。いいから入れ。何のためにパートナーがいると思ってる」
「補習……とサボらないための監視」
とソラは答えました。
「補習はお前だけ。パートナーはおぼれたときに助けてやることにもなってる。ほら、入れよ」
「はーい」
そう答えるとソラは後ろむきでそうっとプールに入りました。
「とりあえず、もう一度、泳げるところまで泳いでみろ」
「はーい」
ソラはさっそくクロールで泳ぎ始めました。ですが、もう泳いでいるというより、おぼれているに近いのです。足もあまり動いていませんし、そのわりに手はばたばたと動いています。そしてやはり10mくらいのところで足がつき、立ちました。あまりの姿にリュードは言葉も出てきません。
「……おまえはまず、ふし浮きから始めようか。」
「え・・ふし浮きってあのぷかーんって浮かぶやつ?」
「そう。俺が手を持ってやるから、まずふし浮きからやろう。」
「はーい」
リュードの判断はあっていました。ソラはまずふし浮きからしっかりと出来ていなかったのです。
頭はぷかーんと出ています。まるで島のようです。そして足もまっすぐとは言いがたく、少し曲がっていました。
それにリュードが手を持ってあげているのに息継ぎもなかなか出来ないのです。それでリュードは頭が出ていたら「あたま」といいながら水の中に押し込み、足が曲がっていたら「足」と言い息継ぎが上手く出来ず沈んでいたら抱き上げてまで助けてくれました。
そんなこんなでソラは何とか浮けるようになってきました。
そして一時間目が終わりソラが待ちに待っていた自由時間になりました。 担当のディウォルナ先生とカゥル先生が「あまり強制していてはかわいそうだから」ということで自由時間を作ってくれていたのです。
「ライアちゃーん! ローアちゃーん!!」
「ソラちゃん!」
とローアが気づいてくれました。
「自由時間一緒に遊ぶ?」
とローアのすぐ近くにいたライアがソラに聞くと、ソラは「遊ぶ!」と答えました。
「は? ふざけんなよ」
と声がしてソラがおそるおそる後ろを向くとそこにはすごい剣幕でリュードが立っていました。ソラは迷わずプールの中に入り必死で泳ぎました。が、そんなソラに追いつくのはリュードにとって朝飯前でした。
「ふざけるなよ。おまえ、ノルマのクロール25m、できてないだろ?半分も泳げないくせに」
そうぶつぶついいながら、さっきソラと練習していた「泳げない人コース」まで戻っていきました。
「ふたりともーー!」
「ゴメーン! リュードの言うことにはあんまり逆らえないのー!」
とソラにライアが言い返していました。
そんな四人の様子を少し困った顔で見ていたのはディウォルナ先生とカゥル先生でした。自分たちで出したノルマとはいえ少しソラがかわいそうだったからです。
「エイク」
「なあに?」
ディウォルナ先生がカゥル先生に向かって
「なんかさ、ソラちゃんに対して……申し訳ないよね」
「うん。たしかに」
「でもどうしようもなくて、せめてパートナーがもう少し優しい人だったらとも思うけれど」
「まあ、うえの決定だしねぇ」
そんな複雑な心境をディウォルナ先生とカゥル先生はかかえていました。
星はきらめきをましもう七夕の日はすぐそこでした。