星のきらめくすばらしい夜でした。
「これより、そら高く飛び立ちます。橋を作ったあとも気を抜かないように! とくに天の川には注意してください! 先生方、何かありますか?」
カゥル先生がそう言うと他の先生は首を横に振りました。その先生の中にはカゥル先生もいます。
「じゃあ皆ちゃんとついてきてね!」
そう言うとカゥル先生は大きく息を吸いました。
「星はきらめく 月は微笑む きらめく星の天の川
今宵は星も輝きを増す 神が許した今宵こそ 願いを叶えんとする
では、呪文を唱えよう
ルナ・ウィ・レウィス ルナ・ウィ・レウィス リ・ルース・シェウィズ」
すさまじい黄金の光がその場にいた人を包みました――――――……
「ぼうっとするな馬鹿。ほら、さっさと持ち場に行くぞ。」
「え? あ、は〜い。」
リュードの声にはっとしたソラはリュードについて箒に乗って飛んでいきました。周りは漆黒の空に箒で浮かんでいる状態、下には星が黄金、青、赤・・さまざまな色の星が集まって川が出来てます。
「ぼさっとするな」
と怒鳴られてソラはリュードに遅れないよう必死でついていきます。そしてやっと持ち場に行ったときでした。
「もしもし、そこのお方。もしもし、そこのお方」
その声にソラが振り返りました。ソラは、「え……」と声をあげました。
「わたくしは、どちらにいればよろしいのかしら……?」
とてもきれいな人でした。
神秘的な雰囲気を持つ輝く髪、透き通った羽衣に白磁の肌の組み合わせは見るものを圧倒する力を放っていました。
「え……あのあの、ももももしかして、おおお……織姫様ですか?」
「はい、そのようによばれております」
私だけじゃ判断できない、と思ったソラはリュードに向かってジェスチャーで必死に(こっち! こっちにきて!)とほうきを掴んでいない、もう片方の手を振りました。
それに気づいてか、リュードは急いでソラのところに来てくれました。そして、来てみて一言。「なぜあなたがここに!?」といいました。
「俺じゃ判断できないな。」
ということで、リュードはディウォルナ先生を呼ぶと
「申し訳ないんですが、もう少し待っていただくしかないんです。その場でお待ち頂けませんか?」
「わかりましたわ」
「ソラちゃん、リュードくん! 織姫様をよろしくね」
との指示が下りたので、ソラとリュードと織姫様はその場に待機することにしました。
「あの、織姫様」
「なんでしょう?」
「織姫様は、どうして七夕の日にみんなの願いを叶えてあげるんですか?」
織姫様は黒く潤んだ目をまっすぐにソラに向けました。
「わたくしだけではなく、皆さんにも幸せになってほしいからですわ」
「織姫様は……“幸せ”?」
「えぇ、幸せですよ! たとえ、一年に一度しか会えなくとも。生きていると分かるだけで、幸せだと分かるだけで、大好きな人が笑っているだけで、どんな暗闇でだって一人で生きてゆけます」
その言葉にソラは感動して、ソラの瞳はキラキラと輝きました。
織姫様はすぐ近くにいたリュードをみて、懐かしむように、そしてどこか悲しそうに微笑んだあと
「そこの紅い目のあなた」
と呼びかけました。リュードが顔を上げます。
「大切なものを失うのは悲しいです。けれども、その方は――いえ、“あの方”はそのように悔やむあなたを見て、あなたより悲しいはずです。」
リュードはとても驚いた顔をした後、目を伏せて言いました。
「なぜあなたは、“それ”を?」
織姫様はやさしく笑うと
「昔、短冊に書いてありました……でしょう?」
「―――そうでしたね」
リュードの紅い目の色が赤黒くなったような、そんな気がソラはしました。でも、ソラが気になったのはリュードの目の色より、その悲しそうな顔でした。
その時でした。
(や、や、や、――やばい! 魔力が足りない!)
ソラはまたもやまっさかさまに落ちていきました。
***
気がつくと、やはりベッドの上でした。
「気がついたね!」
すぐ側にはディウォルナ先生がいました。
「まっさかさまに落ちたのは覚えてる?」
「……はい」
「あのあと、リュードくんが助けてくれたの。そして、運んでくれて……きょうは七夕の二日後で今は放課後だよ」
自分が寝ていたあいだに二日も経っていた、その事実にソラは驚きました。
「リュード君は……?」
「ものすごい自己嫌悪のモードに入ってて暗くて、誰も話し掛けられない感じだね。元気だよ」
なんでだろう、とつぶやいたあと
「ソラちゃんもう大丈夫? 歩ける?」
「はい」
「そうかよかった。自分の部屋で休んでて」
「はい! わかりました」
そう答えて、起き上がって出ていこうとすると
「そうだ。ひとつ、大変なことをいい忘れてた」
「え、なんですか?」
ソラが不思議そうに首をかしげると
「クリスマス休み、ソラちゃんとリュードくんは補修だからね?」
「え、ええええええええーー!?」
***
ソラはとぼとぼ歩きながら寮に向かっていきました。寮のすぐ近くまできたところで人影に気づきました。前にリュードがいます。
「もう大丈夫なのか……?」
「うん、というかそれより……」
と言うとソラはガクっと肩を落しました。そして大きなため息をついて
「はあ、どうしてよりによってあの日にかぎって、ああなったんだろう」
といいました。そんなソラに向かってリュードが
「あの日? 何か特別な日だったか?」
と聞きました。
「うん。だって、七夕の日は私の……誕生日だもん。」
「……そうか。それは災難だったな。」
「あはは……はあ」
リュードはそのままソラの方へ歩いてきました。
すれ違うとき、リュードが小さな声で言った言葉を、ソラは聞き逃しませんでした。
「ごめんな」