「はーい、今日の最後の問題だ。フローレイ、答えてみなさい」
魔法薬学のジェイク・レイアス先生が言いました。ソラは「はい」と言って立ち上がると
「えっと、何か効果がある場合は夢の中でお告げがあります」
と言いました。
「はいよく出来ました。夏休みは暗号学の宿題しか出ない。というわけで他の教科もおろそかにされがちだが、しっかりと予習と復習をすることが大切である。あと一組は私語が多いなもっと静かにしろ。これで今学期の授業を終わりとする。」
「ありがとうございました!!」
と全員で一礼しました。
レイアス先生は他の先生より厳しいところがあります。たとえば
「黒板が汚い。もっと綺麗に消せないのか、他のクラスはもっと綺麗だぞ」
「学級委員が決まっていない?そうか、ならば君がやりなさい」
など他の先生だったら
「じゃあ次からは気をつけてくださいね」
というところを生徒に任せるところがありました。
確かに、最初はひどいと思っていましたが、でも授業を受けていると、先生がたまに面白いことを言って皆を楽しませてくれることがありました。そんなレイアス先生を見てソラはもしかしたらすごく優しい人なのかもしれないと思うようになりました。
***
「よいしょ、よいしょ」
ソラは南塔の一階を掃除していました。なぜかというと前の期末テストで
赤点を取ってレイアス先生が怒り、「南塔一階掃除」と罰を与えられたからでした。
「リュード君てばひどいよねえ」
とソラはぶつぶつ文句を言っています。
リュードは魔法を使って、パッと掃除を終わらせると、最後の片づけをソラに任せて、本を読んでいるのでした。前も今もそうですが、掃除の魔法はDランクの魔法なのでまだ少し難しいのです。
最近、ソラは気になっていることがありました。
気のせいなのかもしれませんが、リュードが七夕の日以来ソラを避けるようにしている気がしました。
ソラの頭の中にはあのなんともいいがたいリュードの顔が浮かびます。
(どうしたんだろう)
そんな思いがあたまを横切りました。
そしてソラが感じている不安がもう一つありました。
それは、もうすぐ来る夏休みを、ソラはどこで過ごせばいいのでしょうか。家に帰るのでしょうか。それとも、寮ですごすのでしょうか。ソラはとても不安です。
***
そして、一学期の修了の言葉が終わり、部屋に帰り荷物をまとめました。ローアやライアは両親と家族旅行に行くそうです。
でも、ソラはどうしようかと迷っていました。というよりも何をすればいいのかわかりません。
そうして先生を探していると、やっとの事でディウォルナ先生を見つけました。
先生はいつもソラのお世話をしてくれる人で、同じ人間界の日本。しかも、同じ九州の出身でした。ディウォルナ先生は福岡県、ソラは長崎県の出身だったのです。
「先生!ディウォルナ先生!」
「どうしたの、ソラちゃん」
「先生、わたしは夏休みをどう過ごせばいいんですか?」
「あぁ! ごめん言い忘れてたね」
と思い出したようにディウォルナ先生は続けました
「リュードくんの家で夏休みとか冬休みは過ごすようになってるのよ。」
「えええええーーー!!」
どうしてですか、と混乱しているソラに後ろから
「はやくこいよ、探しただろう。この馬鹿」
とリュードの声がしてきました。
(夏休み、どうなるんだろう)
とソラは混乱し続けていました。
***
「リュードは貴族の出身なんです」
というシリルさんの言葉をソラはやっと理解した気がしました。
おとぎ話に出てくるのではないかという夢のような豪邸、大きな二つの階段は勿論磨かれた綺麗な透き通る石に、赤いふかふかの長いカーペット、そして目がまわるような大きな部屋がたっくさん!
ソラはただ呆然と立ち尽くしました。
そして正気に戻ってから
(冒険のしがいがありそうだなぁ)
と思いました。
勿論の事ながら、大きな庭――いえ、これは庭というより大きな公園でしょう。ブランコも有ります。噴水も勿論の事ながらあります。車がソラが見つけだだけで5台。どれもピッカピカです。そして大きなプールもありました。学校のプールとあまり大差はないでしょうし、どちらかと言うとリュードの家のほうがプールが綺麗でした。
そして、こんなにすごい豪邸が、シリル家の別荘だということはさらにソラを驚かせました。
でもリュードはそんなことは一切気にせずメイドの一人に荷物を預けるとソラを目で呼びました。そしてソラも荷物を置いてリュードについていきました。
その日はまだ部屋の準備が出来ていないから、とのことで、リュードの部屋(勿論大きくて部屋中がピッカピカ)の片隅にベッドを置いてそこで寝ました。ソラはその時生まれてはじめて広い部屋で天蓋ベットで寝たせいか、綺麗なお姫様になった夢を見ました。
ソラはこの後に起こることをまだ知らずにいました。
***
「こんにちは! アオイ=アリウス・ディウォルナです」
「先生!」
階段の上からソラが手を振っています。
「おお、ソラちゃん」
「せんせー!」
「宿題終わった?」
「はい! リュード君に手伝ってもらいましたけど」
「そっか」
そして先生は少し考え込んでから
「なら、ちょっと、手伝ってもらいたいことがあるんだけど」
と言いました。