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 突然ルイに呼び出されたときは何事かと思った。理由は言えないと簡単に説明され、メールに場所の座標が添付されていた。
 座標は空港近くのカフェに指定されており、なんとも寂れた雰囲気の店内で、雪梛はなにか危険なことではないかと気を引き締めた。メールに雪梛と桐也の二人を指定されていたため、連れて来られた桐也の方はとても眠たそうだった。
 二人でここに来い、と指定されたのだから、おそらく仕事の依頼だろう。
 店内は煙草の煙――だけではないのだろうが――で満ちており、小説でしか知らない十九世紀のロンドンを想起させた。

「なんだかおかしいのよね」

 雪梛が話を切り出した。

「普段、仕事がらみのことは専用のアドレスに連絡してくるでしょう? でもメールの宛先は私のプライベートアドレスなの」

 雪梛が疑問を口にしたのに、桐也はのんきにあくびをしている。

「さぁね、気まぐれかデートのお誘いじゃねぇの?」
「あのねぇ」

 いつもの調子で雪梛は怒った。

(ルイがこんなところをデートの待ち合わせに指定するはずがないし、なんで二人でって指定されるのよ!)

 この男はやはり戦闘以外であてにならない、そう決め込むと雪梛は一人で考え始めた。
 しかし、答えはすぐに訪れた。


 ***


 筋肉質でスーツ姿の、古い漫画にでも出てきそうな男たちがドアを蹴破って入ってきたからである。

(もしかして……)

 男たちが懐から銃を取り出そうとし、雪梛と桐也が身構えるより速く、男たちを蹴散らす黄色い閃光が走った。
 雪梛は何が起こったのかをすぐに理解し、顔をほころばせた。

 刀で刺し倒したらしく、汚しちゃった、と小さい声でつぶやいた青年に雪梛は声をかけた。

「ルイ!」

 そう呼ばれた青年が顔を上げてにっこりと笑った。

「雪梛! 久しぶり! ごめんね、余計な奴らがついてきちゃったみたいで」

 ルイは刀についた血を布で拭き取った。

「もういいよ、”パパ”」

 ”パパ”
 その単語で桐也の目が大きく開かれ、雪梛は時分の予想が正しかったことを確認した。

 190cmを優に超える長身の彼は身をかがめて店内に入ってきた。
 黒い外套に包まれ、帽子もかぶっているため表情がよく見えない。
 彼が店内に入り終わり、顔を上げた頃には、雪梛は彼に向かって走っていた。雪梛が彼に抱きつくと、彼は雪梛を少し抱き上げ、昔のように頭をガシガシとなでてくれた。太陽のように暖かい彼の体温、ごつごつとした大きな手の感触を雪梛は愛おしく感じた。

「ひっさしぶり〜雪梛! 見ないうちに、また綺麗になったね!」
「大好きよ、パパ!」

 ”親子”の会話が始まると、桐也の肩の荷が少し降りたような気がした。
 はたと気が付くと、桐也の横にルイは立っていた。

「桐也も抱きついてくれば?」
「勘弁してくれ」

 久しぶりに直接会った”兄弟”も笑いあった。

「ルイ、怒らなくていいのか? お前の婚約者が他の男に抱きついてるのに」
「うん、いいんだよ。今日はえーっと『ぶれいこう』だから!」
「多分その日本語、使い方間違ってるぞ」
「えぇ、そうなの? この前日本のドラマで見たんだけどなあ」

 ***

「せつなときりやと……あんたらだれだ?」

 四人を出迎えたロクの第一声がこれだ。

「おおお!!」

 進み出た長身の男に対してロクは明らかに警戒している。

「初めましてロクくん! 雪梛たちの父親で、組織を統括しているカルマディオです!」

 ”パパ”――長身のカルマディオは帽子をとって丁寧なお辞儀をした。
 ロクは彼の外見に驚かされた。
 カルマディオは白髪で、ロクと同じ右目が金、左目が青のオッドアイだったからだ。

「よろしくね〜!」

 カルマディオは身体を大きく曲げて、ロクに目線を合わせた。ロクは驚いて口を開いたままでいる。

「パパ、ダメだよ。怯えちゃっているわ」
「え、なんで?」

 雪梛が冗談めかしてそう言った。

「パパの顔が怖いからじゃないかしら?」
「えっ! やっぱり、パパの顔ってば怖い?」
「怖いわよ」

 雪梛がクスクス笑うと、次はロクの見知らぬ金髪の青年がロクの前に身をかがめた。

「初めまして、僕は直属護衛隊長のルイです」

 ロクは首を傾げる。

「ルイがつけてるピンはせつなとおなじものか?」
「うん。これ、婚約の証だからね」
「こん……やく?」
「将来結婚する約束をしている。婚約者(フィアンセ)ってことだよ」

 ルイが得意気に笑い、雪梛が頬を赤らめ、桐也はげんなりとしていた。

「ねぇ……ルイには答えるけど、パパにはなーんにも言ってくれないってことは、パパがそんなに怖いってこと〜?」
「パパ、うるさいからちょっと黙れよ」
「もぉ、桐也ってばひっどぉい!」

 カルマディオが雪梛の口調を真似てそう言うと、雪梛がカルマディオの尻を蹴り、カルマディオは前のめりに倒れこんだ。
 それを見てロクは笑い始めた。

(かおがこわかったわけじゃなくて、目のいろにびっくりしただけなんだけどな)

 ロクはなんだか申し訳なく思った。




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