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 荷物を部屋において一息ついたスーシェンは、ロクに手を引かれて一階の居間に降りて来た。そして一階の客間では一方のソファに桐也と雪梛が、向かいのソファにスーシェンとロクが腰を下ろした。雪梛とスーシェンが話を切り出せずにいると、桐也が大きなあくびをひとつついたあとにそう言った。

「で、お前はいつまでフードをそんなに深く被ってるわけ」
「ああ、ごめんなさい。失礼ですよね」

 そう言うとスーシェンはフードを取った。
 予想通りの白髪は横上だけがほかと比べて長く、ふわふわとした髪質はわたあめを連想させた。右目が金で左目が青のオッドアイ。顔立ちは日本人に近いが、どちらかと言うと彫りが深いロシアよりの顔だ。

「僕は台湾支部長補佐、スーシェンといいます」
「俺は日本支部長、桐也だ」

 雪梛とロクの自己紹介は省いた、後でまたすればいい。

「さてさて、なんで突然日本にホームステイしに来たわけ?」
「そのことを話す前に、僕から話したいことがあります」
「何?」

 桐也が尋ねるとスーシェンがいたずらっぽく笑った。

「皆さんが気になっていることですよ。……例えばどこから入ってきたのか気になっている情報がありませんか?」
「あるわ」

 雪梛が身を乗り出すと、スーシェンがしてやったというように笑った。

「あの組織の支部が日本にあったこと、どうしてあんなにタイミングよく忍び込めてロクを助けられたのか。都合が良すぎて不気味だった。あの情報の出処を、スーシェンさんは知っているの?」

 雪梛が疑問をぶつけるとスーシェンはふわりと笑った。

「知っているも何も、あの情報の出処、僕ですし」
「え? どういうこと?」

 雪梛の驚いた反応がよほど気に入ったのか、スーシェンはニヤニヤとしている。

「あの情報を仕入れたのは僕です。支部の居場所を特定したのも、都合のいいあの時間を見つけ教えたのも僕です」

 そうだ、忘れてはいけなかったことだ。人体実験されていたということはスーシェンも何かしら能力を持っているということだ。それも雪梛たちとは違い、パパやロクはもっと強力な能力を持っている――もちろん代償も大きいが。今の話を聞く限りだと、スーシェンはなにか情報収集に長けた能力を持っているのだろうか。

「スーシェンさんの能力が関係あるってことかしら?」
「そうです。あれは僕の能力で仕入れた情報ですから」

 スーシェンは机の上に肘をつくと愉(たの)しそうに話し出す。

「僕の能力は……少しセンスのない名前ですが、僕は『千里透視能力』とか『超透視能力』と呼んでいます。『超透視能力』のほうが言いやすいので、そう覚えてください」
「どういう能力なの?」

 名前から察するに遠くのものを見、透視することができるのだろうか。
 しかしそれならば『千里眼』と呼ぶはずだ。名称が異なるから、なにか違うのだろう。


「僕はとっても遠いところのものでも、全てを透視することが出来ます」
「えっと、たとえばどういうことだ?」

 ロクがわからないと頬をふくらませて首を傾げる。

「そうですね、衛星がよりすごくなったという感じです。例えば、今現在地球の裏側で厚い封筒に密書を入れて、取引している人間がいるとします。僕はその密書の中身を一字一句違わずにここで読み上げることが出来ます」
「はあ!? それ……本当なの?」

 雪梛はほんとうに驚いた。何が何でも凄すぎやしないかと。

「本当ですよ」

 その反応がよほど嬉しかったのか、スーシェンはご機嫌だ。
 もちろん、雪梛は透視能力者を知っている。しかしそれは壁の向こうを見ることができるだとか、封筒を開けずに読み上げられるということであって、地球の裏側でも透視できるなんて聞いたことがない。

「ある程度場所が絞れたら、透視はどこまでもできます。僕はその能力を使ってあの組織の支部を割り出し、一番都合のいい時間帯を教えました」

 なるほど、敵の情報はスーシェンの前では筒抜けで、情報を守るための金庫も無いに等しいということか。
 ふとスーシェンの顔が暗くなる。

「皆さんは、なぜあのレモンという少女が殺されたかご存じですか?」
「レモン!」

 スーシェンの言葉に反応して勢い良く立ち上がったロクは、勢い余って膝をテーブルにぶつけてしまい、痛い、と小さく呟いた。ロクが膝を撫でながらもう一度座ったのを見て雪梛は思わずくすりと笑ってしまった。

「なあ、どうしてレモンはころされなくちゃ、いけなかったんだ?」

 ロクが時々桐也が咳払いするのを真似てこほんと乾いた咳払いをしたので、スーシェンは薄く笑った。ロクのことを面白そうに見つめていたが、真剣な眼差しに戻る。

「あの子にはマイクロチップが埋め込まれていました」

 雪梛はううんとうねって考えだす。マイクロチップということは生体に埋める特殊なタイプの――ペットに埋め込まれ、発信器付きの名札として使われている――ものということだろうか。それに近い気がする。

「そのチップには『G.G.』の重要な秘密が入っていたのです。例えば、国家軍事機密」

 桐也の顔が変わった。




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