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(なに、先輩の態度。朝から特に何かしたわけでもないのに、疲れているの?)

 と雪梛は内心毒づいた。
 スーシェンは桐也の態度も笑って受け流している。客人なのに、家主にあのような態度を取れれて嫌な気がしないのだろうか、と雪梛は不思議に思った。

「で、変わらなかった。市街地の麻薬が何で俺たちに関係があるんだ。俺たちは自警団でも何でもないし、依頼がない限り住人には干渉しない。そうだよな?」
「ええ、僕たち――台湾支部も同じ見解です。市街地で麻薬が横行しようが、なにか様子がおかしかろうがその程度では干渉しません。しかし、干渉せざるを得ない事案が発生しました」

 ここから先のことは、資料のデータからは読み取れないことだ。資料が示している事実はスーシェンが今まで述べたことで終わりだから。

「僕たちの”家族”の中から、麻薬の被害者が出たんです。その子は十六歳の女の子でした。なんでもイマドキの洋服屋に立ち寄り買い物をしたところ、会計時に店員からあめをもらったそうなんです。それがまさに、麻薬でした。何度も何度も同じ店に通うので、なんだかおかしいと思ったら……ですよ。”家族”の中から被害者が出た以上、僕たちは無視することが出来なくなりました」

 桐也は煮え切らない顔をしている。ロクも首をかしげてうんうんうなっている。
 その様子を見たスーシェンは説明を続けた。

「警察が頑張っても解決できない事案ですから、僕たちは警察に任せておけず、自分たちで捜査を開始しました……といってもほとんど僕の情報ですが。そこでわかったのは、どうも警察が見つけられなかった密輸ルートがあり、それが主になっている……えーっと、僕たちは警察が分からなかった、犯罪の根を掴んだのです」

 首を傾げすぎて、横に倒れそうになっていたロクを見たスーシェンは、慌てて、わかりやすく言い換えた。説明を理解いたらしいロクは元に戻った。

「その根が日本にあるようなんです。しかも、日本支部の近くにあるらしい、と」

 スーシェンがそこまで説明をし終えると、雪梛が口を挟む。

「その口調だと、まだ具体的に断定することは出来ていないのね」
「ええ、残念ながら。でもここに来たからには、必ず見つけられると確信しています」

 力強く彼が言い切ったのを聞いて、雪梛は質問をぶつけた。

「それで、どうしてわざわざ、日本に来たの? 来ないでくれっていうわけではないけれど、その説明では不十分だと思うわ。だって、スーシェンさんの能力は地球の裏側だって見られるんでしょう。それなら、台湾に居たままでもよかったんじゃないかしら。ここに来る手間が省けるのならば、そのほうが合理的じゃない」

 雪梛が一息で言ってしまうと、スーシェンが苦笑した。

「ふふ……ひどい言い方だなあ、雪梛さん。ルイくんやレインハルトさんに聞いていた通り、自分の意見をはっきり伝える女性なんですね」

 ルイはまだいいが、レインハルト――ミケにもそう言われていたのか。と雪梛のまゆはぴくりと動く。そういえば初対面の時気恥ずかしい言葉で褒められたが、スーシェンの中で自分のイメージはどうなっているのだろう。

「言い過ぎたかしら、ごめんなさい」
「いえいえ、いいんです。もっともなご質問ですから」

 雪梛から色のない謝り方されて、スーシェンは噴き出した。雪梛にはどうして彼が噴き出したのかよくわからない。雪梛は自分の言い方が悪かったかもしれないが、笑われてしまうような事を言っただろうかと考え込んだ。

「ああ、本当に聞いていた通りだと思って、笑ってしまいました。ごめんなさい」

 スーシェンのにやりと笑った顔は悪意が潜んでいるような気がする。なんとなく雪梛はそう思ってしまった。彼の謝罪も雪梛と同じように、上辺だけの謝罪だ。本気で申し訳ないとは思っていない。

「雪梛さんのご質問に対してですが……そうですね、その通りです。でも僕の能力にも、ロクくんやカルマディオさんと同じように反動があります。僕は能力を使うのであれば、効率よく、確実性のある場所で使いたいのです。透視をするポイントを外したくありません。ですから、自分の目で実際に見て、確認しようとこちらに出向いたのです」

 スーシェンの話が終わると、桐也が大あくびをした後に大きくのびをした。そして、スーシェンに

「ああ、了解分かった。解決するまで、ここに自由にいてくれて構わない。俺が許可をするよ。まあ、お前も長旅で疲れたろうし、今日はもうお開きだ。部屋でゆっくり休んでくれ」

 そう優しい口調で言った。

「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて」

 スーシェンはそう言って頭を下げて退室する。ロクが後を追いかけるか、そわそわと迷っていたが諦めた。スーシェンの身体をいたわってのことだろう。

「よしよし、ロク、明日また遊んでもらえばいいわ」
「そうだよな……あしたたのんでみよう」

 しかしその翌日は、遊んでもらうどころではない事件が起きてしまった。




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