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「あー見つかったか……で、逆探知出来たか?」
「ごめんなさい。出来ませんでした」

 電話が切られた桐也がそう尋ねると、スーシェンはそう答えた。

「はああ……めっんどくせー」

 桐也は気だるそうに、ため息をついた。そんな大人二人の様子を見ていたロクが、桐也に尋ねる。

「きりや、なんでせつなは、ねらわれたんだ?」
「なんでって……雪梛の能力は利用価値が高くて、使えるからだろう。それに、雪梛の頭のなかにはうちの組織の機密情報もたくさん入っているしな」

 桐也は簡単に説明したが、それは大事ではないのだろうか、とスーシェンは考える。

「ええっとつまり、書類やデータに残しておけない機密情報を雪梛さんはたくさん覚えているんですか? そして、それ以外の様々な情報も……」
「そうだよ。雪梛はうちの組織の中でも重要人物だからな」

 桐也は先程から調子を全く変えない。慌てふためかないだけいいのかもしれないが、彼の態度に騙されてそれほど大事ではないかと錯覚しそうになる。しかしそんなことはありえない。雪梛がもし「G.G.」に渡ればと考える。雪梛を誘拐した犯人グループの詳しい目的は分からないが、その犯人たちが「G.G.」の組織の者、もしくは組織の依頼を受けた者であれば事態は深刻だ。追っている相手に、こちらの手の内をすべて明かすような真似になれば、最悪今までの苦労が全て水の泡になってしまう。「G.G」の機密情報というからには、それほどの脅威をも秘めているのでは、とスーシェンは考える。

「……はあ、今の状況って、かなりまずいのでは?」
「まずい」

 でしょうね、と呆れ気味にスーシェンは呟いた。妨害電波が働いている場所だったのか、逆探知はうまく行かなかった。雪梛に繋がる手がかりはないに等しい。
 雪梛を取り戻さなければいけないのに、手立てがない。スーシェンは大きくため息をついた。

「なあ、スーパーいってみないか。なにかわかるかもしれないぞ」

 ロクがそう言うと、スーシェンはあっとひらめいた。ロクの頭を撫でてやる。

「ロクくん、君って確かとっても鼻がいいですよね? 犬にも優るとも劣らないとか!」
「そうだぞ??」

 スーシェンの言ったことがよくわからない、というふうにロクは首を傾げた。


 ***


 侵入はあまりにも簡単で、この犯罪集団全体が素人なのだろうと感じざるをえないほど抜け穴だらけだった。特に手を焼くこともなく、ばっさばっさと敵を倒して、雪梛を捕らえて入れたという部屋に辿り着いた。

「おい。大丈夫か、雪梛!」

 桐也が鉄の扉を蹴破って中に入った。
 スーシェンはその事を意外だなと感じた。桐也が鉄の扉を蹴破れるほど屈強には見えなかったからだ。桐也はどちらかといえば細身で非力そうに見える。雪梛曰く、普段から筋力トレーニングはしているらしいが、それでも鉄の扉は蹴破れないと思う。

(やはり、桐也さんも能力者……なんでしょう)

 スーシェンはそう結論づけた。
 そうでなければ、彼の敵をなぎ倒していく強さや、身体能力の――異常なまでの――高さに説明が付けられない。スーシェンより先に部屋に入った桐也とロクは、すぐさま雪梛を拘束していたものを取り払った。雪梛は息苦しかったのか、ぜえぜえと呼吸を繰り返した後、三人に向き直って謝罪をした。

「ごめんなさい。私、組織の一員として失格だわ」
「あーあーもういい! 話は後だよ。とりあえず、ここを出るぞ」

 雪梛の言葉を桐也はピシャリと言いのける。雪梛はそう言われてすぐに切り替えたらしい、次に前を向いたときには目つきが変わっていた。

(ルイくんに聞いていた通り、頭のいい女性(ひと)だ。女性にありがちなうだうだと考えこむような愚かな真似はしないらしい。状況を理解して、自分を制御しているようにみえるなあ。見えるだけで、内心は違うのかもしれないけれど)

 スーシェンはそう思った。


 ***


 脱出も侵入と同じように、造作もなかった。
 このような荒仕事にもよく参加するスーシェンから見ても、てきぱきと犯罪集団を倒し、片付けていくのが分かる。ロクの身体能力の高さは――知っていたとはいえ――驚く。しかしそれ以上に驚かされたのは桐也だ。彼がかなりの――組織の中でも、上位に入る実力者なのは誰の目から見ても明らかだ。瞬間記憶能を持っている雪梛といい、桐也といい、なぜ小さくて今にも潰れそうな日本支部に残っているのだろう。そんな疑問がどうしても浮かんでしまった。
 桐也が、犯罪者たちにどうして雪梛を狙ったのか尋ねると、彼女を売り飛ばすつもりだったらしい。なんでも、彼女の能力――完全記憶能力とその希少さについて彼らに情報を流したものが居たようだ。

「で、そいつら誰なんだよ?」
「そんなこと言えるわけが……」

 渋る相手の目の前で、桐也が乱暴に床を蹴りつけた。蹴られた箇所は地割れのようにひびが入って、凹んでしまう。その様子に怯んだ相手は観念して、ぺらぺらと話し始めた。
 相手方の様子を聞くうちに、スーシェンは確信する。

「その、人身売買を持ちかけた……君たちの親玉? って、僕たちが追いかけている奴らと同じじゃないですか」





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