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「僕の能力の反動は、一時的な視力の喪失です。全く見えなくなります。以前計算したところ、一秒間能力を使用すれば六十秒間見えなくなります。使用秒数×60のようです。その間僕、能力がら命を狙われることが多いので、部下に守ってもらっていました。ちなみに、能力を使うときは事前に能力を使用する時間を決め、使用終了を知らせるタイマーと反動時間の解除を知らせるタイマーをふたつ用意して、セットしますね?。結構面倒です」

 スーシェンの透視能力にはやはり大きな反動がつきものなのだ。雪梛は強い衝撃を受けたような感覚に襲われた。ロクもそうだが、大きな能力の反動はとても大きい。
 スーシェンの一時的な視力の喪失というのは一見軽そうに聞こえるが、そんなことはない。スーシェンの口からも出たが、彼は命を狙われることが多いという。おそらくは、スーシェンに見られたくはない、不利な情報を抱える組織、彼に不利益な情報を見られてしまった組織が彼の命を狙うのだろう。情報が漏れる前に消す、もしくは見られてしまったために消すといったところか。
 命が狙われている人間が、一時的にほとんど無防備な状態になるのだ。銃もろくに扱えないし、逃げようとしても逃げ遅れてしまうだろう。そう考えると本当に大きな反動だ。諸刃の剣ともいえる。

 雪梛は、なんだかとんでもないことを聞いてしまったという気分になった。
「G.G」であっても、能力について、仲間内でも詳しくは教えあうことはない。命につながるもっとも重要な情報だからだ。中には、自分が能力者であることそのものを隠し通している人間もいるほど、慎重になるべき情報である。それほど、仲間内でも知らない。
 雪梛が詳しく知っている能力者なんて、ミケと桐也、ルイ、カルマディオ、ロクくらいだ。他の人間が能力者かどうかさえ知らないこともある。例外的に、組織に所属する者はすべてカルマディオに報告する義務があるから、彼であれば知っている。また、読心術やそれに類する能力者でもない限りは知ることなどない。

「スーくん……それ、私に言っちゃって良かったの?」

 雪梛は恐る恐る――もうどうしようもないのだが――聞いた。すると、スーシェンはあっけらかんと笑って言い放つ。

「いいんですよ。僕、雪梛さんのことはこの組織の中で一番信頼出来ると思っているので」


 そう言われて、はあ? と雪梛は首をかしげ、半ば呆れてしまった。

「スーくん、根拠が分からないわ。なにそれ。ごめんなさい、ちょっと意味がわからないわ。信頼してもらえることは嬉しいけど、脈絡が無さ過ぎて……」
「ああ、いいんですよ。そのうち、雪梛さんにもその理由がわかります」

 そう、とても楽しそうに、小さないたずらをする子どものようにスーシェンが笑うので、雪梛はいよいよ何も言えなくなってしまった。

「……私の能力も伝えたほうがいいわよね。等価交換が安心できるでしょう?」

(まあ、スーくんが言った能力のことが、全部本当ならね)

 雪梛がそう付け加えると、スーシェンに笑い飛ばされた。

「あっはは、いいですよ! この間の事件を通して、雪梛さんの能力のことはばっちり全部知っていますから!」

 明るくそう言い放たれ、そういえばそうだったと、雪梛の脳裏に苦いものが横切り、ため息をついた。





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