翌日、桐也が珍しくはやく正午になる前に起きた。なんだか、夜中にものすごい物音で起きてしまい、寝付きが悪いという旨のことを言われて、雪梛は苦笑いして流した。
昼食を食べ終え、普段なら、仕事もないためゆっくりと読書でもするところなのだが、言葉に出来ないような不安があり、心がざわついてそういう気分になれず、雪梛は窓の外の雪を眺めてぼうっとしていた。
そのときに、携帯端末が振動したので、雪梛は慌てて端末を取り出した。電話の相手はルイだ。なぜだろう、どうかしたのだろうかとなんだか心に暗雲が立ち込める。ルイが普段通話をかけてくるのは夜中だ。ちょうど本部では夕食の準備をしている時間である。それ以外の時間はなんだかんだと忙しく、通話のための時間が取れないらしい。
だからこそ違和感を覚える。おかしい、今日本は正午過ぎ、イタリア本部は早朝のはずだ。
いいようのない不安を覚えながら、雪梛は通話に出る。その様子に違和感を覚えているのだろう。桐也とスーシェン、ロクもこちらを気にしているようだ。
「どうしたの? ルイ、こんな時間に……」
『あのね、雪梛、落ち着いて聞いて欲しいんだ』
端末越しに聞こえるルイの声は、いつものような明るさがなく、どこか暗い。そして、その声の調子から、雪梛は彼が言おうとしていることがなんなのか、なんとなく察してしまった。
『つい……さっき……』
彼らしくもない。言いづらそうに、口をもごもごと動かす。とにかく先程から、言葉の歯切れが悪い。
『パパが、帰天した』
その言葉に、雪梛はその場で座り込んでしまう。腰から下の力が抜け落ちて、床にストンとへばり付くように座り込んでしまう。そのまま、端末の電源を切ると、手に力が入らなくなったためか端末を取り落としてしまった。
「おい! 雪梛!? どうしたんだ!」
雪梛の真っ青な顔を見て、真っ先に駆け寄ってきたのは桐也だ。
雪梛は真っ白で、ぐちゃぐちゃになってしまった頭を、どうにか動かそうとするが、彼との思い出が走馬灯のように駆け巡って、マフラーを掴んだまま何も言えずに俯いてしまった。
「雪梛!? おい! なにか言え! 言わないと分からない!」
桐也は強い口調で雪梛の肩を揺さぶり、声をかける。
ほんの少し、ショックから立ち直った雪梛が、桐也を直視して言った。
「パパが、ついさっき…………死んだって」