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 白髪のさらさらとした髪の毛に、真反対の褐色の肌。耳にピアスをたくさん付け、口にもひとつピアスをつけている。スーツを来ているが、チェーンを数本ベルトにつけているため、彼が動くたびに金属がこすれる小気味よい音がした。なんというか、全体的にとても軽薄な印象を与える青年だ。歳は雪梛のふたつ下で、身長はルイよりも高い。

「よぉ〜〜フトシ! 雑用サンキュウ!」
「久しぶり〜フトシ」
「お迎えご苦労さまです、フトシくん!」

 桐也、雪梛、スーシェンが次々に大笑いしながら声をかけると、フトシと呼ばれた白髪の青年は、下を向いて肩をふるふると震わせてから顔を上げる。

「だぁかぁらぁ、フトシって、呼ぶな〜〜〜!!」


 フトシはロクを見つけると、ロクの目の前に座り込んで、目線を合わせた。

「よう! お前がロクか、話は聞いてる。俺は本部でIT関係のシステムとか、ハッカーの侵入を防いだりとかシステム構築とか……うんまあ、パソコン関係のことで組織を支えてる人間だ! 俺のことは敬意を表して、スカルとかヘッドって呼んでくれていいんだぜ!」

 そう自己紹介して、フトシはにっこりと優しくロクに微笑みかける。温かい微笑みだ。その様子から、彼が子どもの世話が好きで、本部でもそういったことを請け負うことが多いのだろうなということが伺える。

「ああわかった。フトシだな。おぼえたぞ」
「なんでみんな俺のこと本名で呼ぶの!? ねえなんで!?」
「フトシってどんな『かんじ』なんだ?」
「話聞いてた!?」

 フトシが頭を抱えてうわああ、日本支部のやつ全員俺のことフトシって呼ぶよななどとうめきはじめたため、スーシェンがため息をついて、ロクを抱きかかえる。

「『太』いという漢字に『志』という文字を書きますよ。ね、フトシくん?」
「お前の嫌味くさいとこほんっと変わんねえな! そうだよ、俺の名前は太い志で太志だよ! よろしくな!?」


 ***


 フトシの車に乗せられて、五人はイタリアのどこともわからない森のなかを進んでいく。この時代ではかなり珍しくなってしまった舗装されていない、山道を登って、辿り着いたのは古いけれど格式があるのだろいうことが伺える教会だ。ここが、カルマディオが組織を結成するまで長く世話になって過ごした場所であり、彼の葬式会場らしい。森のなかに突然現れる白亜の教会は、薄汚れてこそいるものの、美しいステンドグラスがあることから、昔はそれ相応の信徒が居たのだろうということが伺えた。
 葬儀はかなり進んでおり、雪梛たちが参加するのはちょうど出棺のみということだった。会場に入るとちょうど間の休憩だったらしく、ミケが猫を抱きかかえて雪梛たちの到着を待っていたらしい。

「ああ、直接会うのは久しぶりだな。半年ぶりか?」
「そんなものだろう」

 ミケと桐也が挨拶を交わした後、雪梛、スーシェンと挨拶を取り交わし、フトシを労った。ロクはミケと初対面であるため、桐也がよく会議通話をしている人物だということは分かったらしいが、彼の鋭い眼光のためか、怖がってスーシェンの後ろに隠れた。
 その様子を見たミケが、フトシがロクに挨拶した時のように、ロクの前に座り込む。

「初めまして。一応日本語で挨拶しようか。俺はドイツ出身の、レインハルトだ。こいつら――日本支部の面子――はミケと呼ぶから、まあそれでもいい。本部では雑務や事務処理、連絡といったことをほぼすべて担う部署をまとめている。よろしく頼む」

 ロクは彼の鷹のような鋭い目に怯えを隠しきれず、スーシェンの足にぎゅっとつかみ、すがった。そのまま震えているロクをスーシェンが撫でて大丈夫ですよ、と声をかける。そんなロクにミケが抱えていた三毛猫が擦り寄ってきた。
 にゃあ。と猫にしては少し野太い声で鳴いてから、大あくびをして、その場で眠り込んでしまう。おそらく初めて実物の猫を見たのであろうロクは戸惑いを露わにする。その様子を見かねた桐也が猫をつつきながら、ため息をついた。

「おいミケ。そのデブ猫、ちゃんとしつけとけよな」
「うるさい! 少し、丸いくらいのほうが可愛いだろう。馬鹿かお前は、この可愛さが分からないのか。それにデブ猫じゃない、この子の名前はフェリシアだ」

 ミケはそう言うと、フェリシアを抱き上げて、喉をなでた。フェリシアは気持ちよさそうに喉を鳴らすと、そのままミケの腕から降りて、どこかへ行ってしまった。

「で、ミケ……ルイは?」
「ルイか、あいつは塞ぎこんでる。部屋から出てこようとしないんだ」

 桐也が尋ねるとミケが答えた。それを聞いた雪梛が心配そうに一歩前に出る。

「どう、したの?」
「まあいろいろあったんだが……」
「何があったの?」

 雪梛が静かに尋ねると、ミケがため息をついて低い声で言った。

「ルイが次のボスに選ばれたんだ、死に際でパパがそう言った。証人は俺以外にもいるし、まあとにかく間違いない。本人はまだその現実が受け入れられず、部屋に引きこもってる」

 ミケの言葉を聞いた桐也がひゅうと口笛を吹く。

「これであいつらにも牽制出来るわけだ」

 それを聞いたロク以外の人間は重々しい表情をした。一気に空気が重くなる。ロクにその雰囲気が重くのしかかり、不安になって、スーシェンのズボンをぎゅっと掴んだ。

「桐也、その言い方は良くないぞ」

 ミケはそう言ったきり、葬儀の準備があると言ってその場を後にした。





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