「ごめん……あまりおぼえていないんだ。ちゅうしゃをうたれたり、てんてきとかへんなくすりとか……あとは、わるいことをしたらでんきがながれるイスにすわった」
思い出したくないことを思い出してしまったのか。見た目にはそぐわないくらい顔でうつむいてしまった。
「つぎはおれだな。せつなときりやはなにをしているんだ?」
「普段の活動ってこと……?」
「うん」
桐也が雪梛に促したので、その質問には雪梛が答えた。
「私は普段、データの処理ね。先輩が嫌がった仕事をやったりとか……先輩は寝て起きて街に行ってナンパして酒を飲んでお金をばら撒いて帰ってくるわ」
雪梛の悪意を慣れた様子で受け流した桐也に、ロクは言葉を失った。
「じゃあ次は俺達の番」
桐也は――とてもめずらしく――真剣な表情でロクに質問をした。
「お前は誰か、その施設に関する人間を覚えているか」
「うーん、やくにたたないとおもうぞ。あいつらぎめいでよびあってたし。かおはかくしていたから……」
「そうか」
桐也はため息をついた。雪梛もこれまでか、と窓の外を見た。今日は珍しく雪が降っていない。
「おれからのしつもんだな。おまえたちは……なにものだ」
舌足らずな声に、真剣味が伺える。
「俺と雪梛は……組織に所属している。その組織のトップである“パパ”の意志のもと……ある組織を追っている」
「そのそしきが、おれとかんけいあるんだな」
雪梛は目を見開いた。なんて聡い子供だろう。
「追っている。といっても私達の組織はその活動を表沙汰にはしていないわ。普段はまた別の顔で働いているの」
雪梛は桐也の説明を補足した。そして声のトーンを上げ、続けた。
「普段は親をなくした子供のために、施設を作って。そこの資金を稼ぐために傭兵をやっているわ。まあ、本部はそのくらい規模も人もいるけれど。私達日本支部はせいぜい……要人のボディーガードってところかしらね」
雪梛が説明し終わると、タイミングよく「ぐう〜」と腹の虫が鳴いた。
ロクは申し訳なさそうな顔をしたあと、笑った。
「ごめん……おなかすいてたみたいだ」
「ふふっ。ごめんね、なにか探してくるわ」
雪梛は冷蔵庫を漁ったが、タイミングよく食材が切れていた。
「ごめん……これしかなかった。少ないかもしれないけど、我慢してね」
雪梛はロクにメロンパンを手渡した。スーパーの特売で買ったものだ。
「これ……なんだ? パン?」
「そうよ、美味しいから食べてみて。なんなら、毒味をしましょうか?」
「いやいい……そこまでうたがっていないよ。おれをころすつもりなら、もうそうしていたはずだし」
最後に小さい声で付け加えてから、ロクは袋をやぶってパンを食べた。
「あまい……おいしい! はじめたたべた!」
「あら、そんなに喜んでもらえて嬉しいわ!」
「腹が減ってりゃなんでもうめえよ。牛乳がゆだってそうだろ」
「先輩!」
桐也は雰囲気をぶち壊すようなことばかり言う。
***
「おれ……これからどうしよう」
ロクのつぶやきに雪梛は答えた。
「私達の組織においでよ! 歓迎するわ」
「……ほんとうに?」
「ええ。というより、最初からそのつもりだったのだけど」
ロクはうつむいた。
「おれがいて、めいわくはかからないか?」
「そんなことないわよ。というより、ロクにも仕事を手伝ってもらう気でいるから」
「……わかった! おれにてつだえることなら、なんでもするよ」
ロクはどうやら、心を開いてくれたらしい。ふわりと笑っている。
「まあ、体に異常がないか調べたり、一週間は病院に箱詰めだとは思うけれど……」
雪梛は区切って、また続けた。
「ようこそ、歓迎するわ! 私達の新しい家族! 『G.G』へようこそ!」
いつか自分が聴いたその言葉を、雪梛はロクに向かって使った。