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「ねえ、私はルイを呼んだんだけど」
『仕方ないだろう。仕事中なんだ』
「あっそう」

 雪梛のため息を聞いたテレビ会議の相手――ミケは話相手が自分じゃ不服か、と言わんばかりに口を開いた。

「ねえミケ、あの子の依頼主は誰なの?」
『言えない』
「はあ? なにそれ」

 雪梛は教えてもらえないと対策が立てられない、どうして隠しだてるのか、など質問攻めにしたがミケに流されて一言告げられた。

『とにかく重要な任務なんだ。それ以上は情報漏洩(ろうえい)を危惧して言うことはできない』
「……わかったわ。それにしてもよく『情報漏洩を危惧して』なんて難しい日本語知っているわね」
『お褒めいただき光栄ですよ、と』

 ミケは手慣れた様子で雪梛の嫌みを聞き流すと、電話を切った。
 雪梛はふくれっ面になったが、また冷静に考え始めた。

(待って、誰に対して「情報漏洩」なの?)

 その疑問の答えは数日後、桐也によって明かされた。



 ***


「ねえ、これどういうことなの」

 雪梛が桐也に答えを仰ぐと、桐也が面倒くさそうに答えた。

「そう、お前の予想通り、ロク達の居場所」
「……発信機つけていたの? 聞いてないわよ」
「ああ、教えてないからな」

 雪梛は憤りを通り越して呆然とした。

「私が怒ると思ったから? だから私には黙っていたの?」
「お前、『ロクに発信機つけたー』なんて言ったら怒るだろ」
「当たり前じゃない」

 雪梛は大きな声で答えた。ミケが言っていた「情報漏洩」とはこの事だったのだ。
 ロク――同居人――に発信機をつける。それではまるでロクを疑っているようだ。
 どこかに逃げ出してしまわないように、鎖で繋ぎ止めているに等しい。もう一ヶ月近く寝食を共にしてきた桐也にもわかっているはずだ。ロクは悪意のない、純粋な少年だということを。
 先ほど桐也は、「目を離した隙に誘拐された」とメールで告げてきたが、発信機をつけていたということは、わざとロクをおとりにして泳がせたのだ。
 桐也が雪梛の心中を察し、呆れながらも強い口調で言った。

「お前の気持ちはわかるよ、雪梛。だけどな、ロクは”家族”じゃない」
「”パパ”との面通しがまだだから?」

 雪梛の声が少し震えていることに気がついた桐也は、ため息をついた。

「それもあるが、それ以前にロクは監視対象だ」



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