花梗と亜陀と吸血鬼

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「ねえ、お前さぁ、だれなの?」
 ルアはその声を聞いて顔を上げる。髪の量が多くて鬱陶しくなり、再度ピンで止めなおす。日差しが強くて吸血鬼であるルアは眩しくて目を細める。
 ルアに声をかけた主はどうやら宙に浮いているようだ。魔法でも使っているのだろうか。
「えーっとごっめぇん……俺さぁ……眩しいの苦手で……降りて来てくれない?」
「はぁ? 僕がぁ? しかたがないなあ……やなやつ」
 声の主は渋々空中から降りて来て、ルアの前にすとん、と立つ。
 日差しを受けてより輝く金の髪、白磁の肌に、色素の薄い金の瞳は光を持っている。髪が長いその少年をルアは凝視した。眩しいのでよく見えない。
「えーっとさぁ、お前だれ? ここはどこなんだ?」
 ルアが気が付いたらここにいたという旨を付け加えると、少年ははぁ? と大きな声を上げた。不機嫌なのかぶつぶつとなにか言っている。
「お前から名乗れよ! なんで僕が名乗らなくちゃいけないの? 意味分かんない!! お前あれだろう、その服装は北国のものだ……スパイだろ!」
「スパイ? 違う違う。えーっと、俺はルアで〜〜………………眩しい」
 ルアはそこまで言い終えるとバタリと倒れてしまった。
 そうして、ルアは意識を手放した。

 

 目が覚めると、見たことがない場所だった。いつもの店の奥のベッドではない。ここはどこだろうと見回すと、異国の部屋だった。見たことがない装飾品がたくさん置いてある。
「目が覚めたのね」
 そう声をかけてくれた少女は黒髪をひとつに高く結いあげていた。黒真珠のような瞳が印象的な少女だ。歳は十六かそこらだろう。
「亜陀(あた)……彼が貴方を見つけたの」
 少女が指さした先には、先ほど出逢った金髪の少年がぶすくれた顔で立っていた。名前は亜陀というのか。変わった名前だとルアは驚いた。
「聞きたいことがあるの」
 黒髪の少女はじっとルアを見つめる。ルアへ向き直った拍子に、髪飾りがしゃらりと音を立てて揺れた。
「貴方はどこから此処に来たの? 調べてみたけれど、入国履歴に貴方と特徴が一致する人がいないの」
「ああ〜〜う〜〜ん……えっとぉ、わかんない」
「は?」
 ルアはにっこり笑ってみせる。
「気がついたらあそこにいてさぁ〜! そしたら声かけられて、んで倒れちゃったんだよねえ」
「はぁ!?」
 少女は驚いて声を上げる。
「花梗(かきょう)、そいつ嘘ついてる!! 絶対嘘!! そんなやつ殺しちゃおうよ? そんな奴に構ってないで僕に構ってよ……」
「うるさい」
 花梗と呼ばれた黒髪の少女は、亜陀の言葉をぴしゃりと払いのける。
 はあ、と溜息をついて、再度ルアに向き直った。
「とりあえず、どうしようかしら」
 花梗は何やら考えこんでいるようだ。【Fin.】



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