片翼の天使と悪魔狩り

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初めに
片翼の天使は人間の男の子に逢いたくて……

◇◇◇

大好きな夜戸星の絵をもとにガツガツ改ざんして小説にしてみました。
アドリーとルシオのお名前は友人提案。

−−−−−−−−−−−−−−−−−

「本当に……本当にそれでいいの?」
 穏やかなハープのように心地の良い声を持つ、碧色の瞳の天使は戸惑うようにそう尋ねました。
「うん」
 片翼の天使はにっこり笑って答えました。
「主(しゅ)もお許しくださった」
「でも、二度と天界には戻って来られないかもしれないんだよ?」
 碧色の瞳の天使は念を押すように、声を抑えて言いました。
 友人が、ほんの気の間違いで、もう二度と出会えなくなるかもしれないという恐怖を必死に隠して、そしてどうか、留まってほしいという気持ちも押さえれ。
「大丈夫! それでも構わないよ」
 片翼の天使はそう告げると、その場を去ってしまいました。
 片翼の天使も、彼が何を心配しているのか、そして今から自分が何をしようとしているのかは十分にわかっていました。
 それでも、片翼の天使は良いと決めたのでした。

「あーのバカ神父〜〜っ!」

 少年は低い声で怒りを表しました。
 大荷物を抱えていてとても重そうです。パンや野菜が見えるので食材の買い出しでしょうか。

「俺一人でどうやってこの量を持って帰れって言うんだよ! お前も買い出しについて来いよ!」

 周囲に人がいないとはいえ大声で毒づきました。
 少年は黒い短髪に白い肌、それと対比するような青い瞳はまるで星空を映したようにとても綺麗です。ハイネックの上に革のジャージ、革の手袋、ズボンと身につけていますが、全て黒で統一されています。
 疲れていて、休息がほしい少年は早足で家路につきました。



 教皇様がいらっしゃる中心部を離れた、静かなレンガ造りの街。その街の一角に古びてはいるけれど、大切に手入れされている小さな教会があります。
 少年はこの教会で育ち、今でも「家」と呼んでいます。
「ただいま」
 大きな木の扉を開けると、低い声でつぶやくように言いました。
「おかえりアドリー!」
 少しのんびりとした返事を返しながら、男性は振り返りました。
 白い服に首から下げたロザリオで、この男性が神に奉仕する人――神父――だとわかります。
「重かったんだが」
「そうかそうか。なんせ全員分だからなぁ」
 少年――アドリーの嫌味はさらりと流されてしまいましたが、アドリーも慣れている様子で呆れ顔を浮かべました。
「アドリー兄ちゃんおかえり!」
 奥の方からひょっこりと、男の子が顔を出しました。
「ああ、ただいま」
「今日のごはんはなあに?」
 男の子の横から同い年くらいの女の子が顔を出しました。
「うーん、ジャガイモのスープとパンかなあ」
「わあい!」
 二人は嬉しそうに飛び跳ねました。
 それを見たアドリーは
(重かったけど……まあいいか、喜んでくれるなら安いもんか。よかった)
 心からそう思いました。
 アドリーと二人の子供達も含め、この教会で生活している未成年は全員で二十人程度、皆家族を事故で亡くしたり、親に捨てられてこの教会に引き取られました。
 最初は警戒していましたが、今ではすっかり家族なのです。
「あ、アドリー! ちょっとお使い頼まれてくれないか?」
「はぁ? なんだよ」
「三軒隣のおばあちゃんがに野菜を届けてやってくれ」
「……わかった」
 アドリーは三軒隣のおばあちゃんが、前よりも足が悪くなっていたことを思い出しました。きっと外出も難しいでしょう。
「じゃあ頼んだぞー」
「はいはい」
 買ってきた野菜の中でもとびきり新鮮なものを選び、アドリーはまた出かけて行きました。
(暗くなる前に帰らないと)
 この街の夜はとても危険だから。


(元気そうでよかった)
 おばあちゃんはまだしっかり世間話もできるし、にこやかに笑っていました。
(さっさと帰らないと――ん?)
 左側の通路の奥から、助けを呼ぶ声がします。
(まだ出るには早すぎるよな……?)
 考えるのをやめて、アドリーは声の方へ駆けて行きました。


「返してください! それは、僕の、大切なもので」
「嫌なこった! こちとら金に困ってんだよ!」
「そうだそうだ! こんな金目のモン持ってるほうが悪いぜ!」
 二人の野蛮そうな男に金髪の少年が囲まれています。
「おいお前ら何してんだ。警吏に突き出すぞ」
 アドリーは大きな声を出して男たちの注意を引きつけました。
「何だガキ」
「一丁前に『正義』でも気取ってんのかぁ?」
「はっ」
 アドリーは吐き捨てるように言った後、腰に提げたポーチにつけているバッヂを手にとって見せました。
「手に持ってるモン、返してやれ」
「ひっ……ひぃぃっ……!」
 男たちは血相を変えて闇路に消えていきました。
 手に持っていたモノ――金のネックレスを残して。
「情けねえ奴ら……ほら、お前のモンだろう?」
「あっうん。ありがとう」
 金のネックレスを受け取った金髪の少年はアドリーを見上げてお礼を言いました。
 暗い街灯の下なのでよくわかりませんが、それでもきれいな顔立ちをしているようです。
「あっ……! あああ!!」
「何だよ? 俺の顔に何かついてるか?」
 少年が突然嬉しそうに声を上げたので、アドリーは驚きました。
「お前家は? 見かけない顔だが、どうしてこんなところにいるんだ?」
「えっ……えっと」
 少年は悲しそうに俯いて、語尾を濁らせました。
(ワケありか……聞いちゃまずかったかな)
 アドリーは自分の失敗を責めました。
「行くあてがないなら、俺の家に泊まるか?」
「家?」
「ああ、ついてこいよ」
 アドリーは座ったままの少年に手を差し出しました。


「ここ? ここが君の家?」
「そうだけど」
 少年は驚いているようでした。
「まあ、とりあえず入れよ。外ももう暗いし、あぶねえから」
「うん」
 アドリーが少年の手を引いて、木の扉を開けたその時
「おっそいアドリーー!! はよ晩飯作れ!! 腹減った!!」
 神父の飛び膝蹴りがアドリーの顔面に命中しました。
 アドリーは顔を手で覆って黙りこくっています。
 少年はさっと血の気が引きました。
「だ、だいじょう……」
「クッソ神父〜〜〜!!」
 アドリーのまわし蹴りを華麗に受け止めた神父は涼しい顔で言いました。
「おや、アドリーのお友達かい?」
「先に謝れよ!!」

「もう大丈夫なの?」
「ダイジョーブ」
 少年がアドリーに心配そうに尋ねました。
「すっごく、痛そうだったし」
「いつものことだから」
 その一言で片付けられてしまう出来事なのでしょうか。
 アドリーは息をつくと
「ほら、席に座れよ。せっかく作ったのに、冷めちまう」
 エプロンを脱ぎながら、料理が並んだテーブルを指さしました。
 テーブルの上には決して豪勢とはいえないけれど、美味しそうな料理が並んでいます。
 少年がおそるおそる席に座ると、その横にアドリーが座りました。
 他の子供達も席について、晩餐が始まります。
「罪深い私達に日毎の糧を与えてくださる、私達の主に祈りを捧げましょう」
 神父の言葉で全員が食事前のお祈りをはじめました。
 お祈りが終わった頃に、アドリーがぼうっとしていた少年に声をかけました。
「もう食っていいぞ」
「う、うん」
 少年は最初、困惑しているようでしたがスプーンを持って食べ始めました。
「美味しい……!」
「当然、料理上手の俺が作ったんだから」
 アドリーがジョークを言うと、少年が目を瞬かせて
「うん、お料理上手なんだね」
 と笑いました。
「あれを見ろ」
 アドリーが指さした先には、パンに大量のジャムを付ける神父がいました。
 ジャムをつけすぎて、パンを食べているのか、ジャムを食べているのかよくわかりません。
「ジャム好きにもほどがあるよな」
「ふっ……ふふふ」
 少年が笑ったのを見て、アドリーも微笑みました。
「よかった、やっと笑ったな。緊張の糸がほどけてきたか?」
「うん、少しは」
 少年があまり話そうとしないのを、アドリーは
(さっき、変な奴らに襲われていたし。何か理由があるのかもしれない。緊張しているんだろうな)
 と考えていました。少しでも、少年が笑ったのでアドリーは質問を投げかけてみました。
「お前の名前は?」
「えっと……」
 しかし残念ながら、さっきと同じ反応。
「言いたくないなら答えなくてもいいぞ。……名前も言えないのか」
「ごめん、言えない」
「そうか」
「でもね、僕は僕だよ」
 名前も言えない、とはどういうことでしょう。
 アドリーは首を傾げましたが、自分の弱い頭では考えていても仕方がない気がしました。
「僕からも、アドリーに聞きたいことがあるんだけど、質問してもいい?」
「どうぞ」
「僕を助けてくれた時、男たちに見せていたものはなに?」
「ああ、これね」
 アドリーは腰から先ほどのものを取り出しました。
「ハンターライセンスだよ」
「ハンターライセンス……? 何を狩るの?」
「悪魔」
 少年の顔から血の気が引きました。
 悪魔といえば神に逆らった天使が地獄に落とされたもの。
 日が落ちると人にとり憑いて、悪事を働く堕天使です。
「アドリーは悪魔を狩る人なの?」
「そう。このへんではハンターって呼んでるけど、他ではエクソシストって呼ばれてるな」
 でも、どうしてハンターライセンスを見せただけで、男たちは逃げていってしまったのでしょうか。
 その答えを聞いてはいけない気がした少年が黙っていると、代わりにアドリーが教えてくれました。
「ハンターは呪いを受ける、なんて迷信があってそれを真に受けてる奴もいるってことだな」
「アドリーはどうしてハンターに?」
 少年は恐る恐る尋ねました。
 悪魔と戦うことは非常に危険なことですから、何かしら理由があると思ったのです。
「報奨金のためだな。このへんは悪魔の出現率が高いし」
「お金のために、ハンターを? 自らを危険にさらして? それでいいの?」
 少年が答えを求めて声を出しました。
 アドリーは何度も尋ねられたその質問をもう一度自分の心に投げかけました。
 スープを美味しいと言いながら食べている自分の「家族」の様子を見て、言いました。
「当然、金のためだからな」
 次の日になっても、少年がアドリーのそばを離れようとしなかったので、アドリーは少年と一緒に買い出しに出かけました。
「アドリー……ぴったりの名前だね」
「俺の名前が、なにに?」
「君に!」
 少年が突拍子もない事を言ってきたので、アドリーは驚きました。
「アドリー……英雄って意味でしょう?」
「ああ、そうだっけ」
 アドリーは両親を知りません。春が終わりに近づいた頃、教会の前に捨てられていました。
 それを神父が発見して、名前までつけてくれたのです。
(金のためにハンターやってる奴が英雄ねえ……)
 悪魔を倒すことができる武器――聖別された武器――の一つ、腰に下げた白銀の銃を見てアドリーは苦笑しました。
「ほら、さっさと必要なもん買って帰るぞ。日が暮れる」
 なんだか嫌な予感がしたアドリーは少年を急かしました。
「そうだね! 早くしよ」

 しかし、アドリーの嫌な予感は当たってしまったのです。

 休日だったせいか、人が多くて必要な物を買うのに時間がかかってしまいました。
 もうとっくに日暮れです。
「……もう少し早く歩け。俺が少し持ってやるから」
「ううう……ごめん」
 少年の荷物を手に持とうとしたその時でした。
「伏せろ!!」
 アドリーの大声に弾かれて、少年とアドリーは地に伏せました。
「あら残念、どうしてわかったのぉ?」
 頭上を黒い衝撃の刃が走りました。
「くそっ……悪魔か!」
「せいか〜〜い?」
 背丈は少年と同じくらいの、黒いフードをかぶった女がいます。普通の人間とは全く異なったオーラを発しており、手には黒い大鎌を持っています。
 黒いフードをかぶった女、いえ悪魔はフードを脱ぎ捨て赤い髪と黒いドレスを露わにしました。
(くそっ……分が悪い! 今夜は月が明るいし、俺しかいないし!)
 普通、ハンターが悪魔を退治するときは日を選びます。
 満月が近い頃ほど、悪魔の力は強くなるので、できるだけ新月の日に行います。
 それでも、強い悪魔に抗うには、聖別された武器を持つハンターが数人がかりで襲うのです。
 ですが今は、新月ではないし、アドリーしかいません。
 情報通信技術が発達していない現代では、仲間のハンターを呼びに行くしかありませんが、そうやすやすと人間を悪魔が取り逃がすとも思えません。
 アドリーは体勢をたてなおして、銃を撃つと少年に向かって大声で言いました。
「早く逃げろ! 俺が引き止める!」
「でも!」
「いいから!」
 少年は逃げようとしません。
(僕がアドリーの邪魔になっているのはわかるけど……アドリーは)
 このままだと、助からないでしょう。
 ***
「ねぇ、貴方一人で私と戦う気なの?」
「あったりまえだろ」
「あはは! 馬鹿なのかしら! 馬鹿なのね!? いいわ、殺してあげるから??」
 鎌を避けながら、距離をとっては銃を撃ちます。
「ハズレハズレ!」
 ですが、銃を撃ってもなかなか当たりません。
「くそ!」
 それでも、すれすれで鎌をかわし、銃を構え撃ちますが、やはり当たりません。
「もーーらった!」
 アドリーの体勢が崩れたところを狙って、悪魔は鎌でアドリーの首をはねようとしました。
「ちっ」
 ですがアドリーは体をそらし、避けましたがそれでも額を切りました。
「あー、惜しいなあ」
「なにしてるんだよお前!! 早く逃げろ!!」
 少年は、ここに来る前の出来事を思い出していました。


「主よ、これは」
「お前が下界から戻るときに使いなさい。一つだけ奇跡を起こすことができる」
 少年は金のネックレスを見つめました。
「大切に使いなさい。決してなくしたりしないように」
「はい!」


「僕は……僕は」
 少年は金のネックレスを握りしめ、神様に祈りを捧げました。
「主よ、哀れな僕にお力を」
 少年が光りに包まれました。


「何が起こったんだ……!?」
 あたりが突然明るくなったので、目をつぶった後、アドリーはまた目を開けました。
 さっきまで戦っていた悪魔が倒れていて、不気味なオーラを感じることができません。
「あいつは……」
 少年を探して見つけたとき、アドリーは自分の目を疑いました。
「今まで隠していて、ごめんね。もうその悪魔は祓ったから大丈夫だよ」
 少年の背中には、片方だけ翼(はね)が生えていました。
「おま、え、は……」
「僕ね、天使だったんだ」
 だった、という言葉に引っ掛かりを覚え、アドリーは首を傾げました。
 
「僕はもう、後数分でただの人間になるんだ」
「どうして」
「そういう約束で、アドリーに会いに来たから」
「は?」
 片翼の天使は微笑みました。

 生まれたての天使は翼が少ししか生えていません。
 成長するにつれて翼は成長していくのですが、その天使はどうしてか片方の翼しか成長しませんでした。
 そんな出来損ないの天使は性格も暗くて、なかなか友だちができませんでした。
 ある日、天使は一人ぼっちだったので、悲しくなって下界を覗いてしまいました。
 天使は下界を覗くことを禁止されています。
 天使は、人間に対して公平でいなくてはいけません。下界を覗きこんで人間に思いを寄せるようなことがあってはいけないからです。
 それは、不幸だったとも言えるでしょう。
 片方しか翼が成長していなかったために、天使は下界に落ちてしまいました。
 天使は人間に天使であることがバレると堕天してしまいます。
 堕天使となれば、道は二つ。下界で人間として生きるか、地獄で悪魔として神に害をなすか。
 天使は真っ青になって、自分の翼を隠すために、近くに落ちていたフードをかぶりました。
 天使は一人寂しく、街角に座り込んでいました。
「主よ……どうか哀れな僕を、はやく御心にとめてください」
 そんな天使に声をかけてくれたのは、小さい男の子でした。
 黒い短髪に白い肌、それと対比するような青い瞳はまるで星空を映したよう。
「おまえ、はらでもへってるのか?」
「えっと……おとうさんとはぐてちゃって」
 天使はごまかしました。
「みつからないのか? じゃあそれまでおれがいっしょにいてやるよ」
 男の子は天使の隣に腰を下ろしました。
「おれは、アドリー! よろしく!」


「日暮れ前に僕は見つけられて、天界に戻ることができた」
 アドリーは呆然と立ち尽くしていました。
「全くそんなこと覚えていない」
「そうだろうね。……アドリーの記憶は消されちゃったみたいだから」
 下界にひょっこり落ちてしまった天使に逢ってしまった人間の男の子は、神様の意思によって記憶が消されてしまいました。
 けれど天使は、男の子――アドリーのことをずっと覚えていました。
 少しずつ、天使の友達はできたけれど、寂しくなっては下界をこっそり覗いてアドリーを探していました。
 人間の男の子にもう一度出逢いたくなった天使は神様にお願いしました。
「お願いです、僕をもう一度だけアドリーに会わせてください。そのあとは記憶が消されてしまっても構いません」
「本当にそれでいいのか」
「はい」
 神様は少しの間だけ、天使が人間になることをお許しになりました。
 ――そのあとに記憶を消してしまうという条件付きで。
 神様は金のネックレスを天使に渡されました。


「本当は、天界に戻るために奇跡を起こす道具なんだけど、僕はもう使ってしまったから」
「じゃあお前は」
「だから、天使じゃいられなくなる」
 片翼の天使の羽は少しずつ、少しずつ散っているようでした。
「でもこれでよかったんだ。だって、これからはずっとアドリーと一緒にいることができる!」
 片翼の天使は微笑みました。
 そんな天使を不思議な気持ちで見つめていたアドリーでしたが、天使に尋ねました。
「お前の名前は、なんていうんだ?」
「ルシオ、ルシオっていうんだ」
 アドリーはずっと知りたかったその答えを聞いて微笑みました。
「ルシオ……光という意味の名前だな。天使を連想するから言えなかったわけか」
「うん」
 片翼の天使――ルシオは微笑みました。
 直後、強い光に包まれました。
「ルシオ……これからもよろしく」

 翼はすべて散ってしまいました。
 もうルシオは天使ではありません。


「あ〜〜美味しい! アドリーってばお料理上手ね!」
「うっせぇ! さっさとお前は自分のこと思いだせ!」
 あの晩、悪魔に取り憑かれていた少女は記憶を失ってしまったので、いくあてもなく、今は教会で暮らしています。
「僕もね、アドリーはお料理上手だと思うよ」
「ルシオ、お前も洗い物手伝え」
「ごめんごめん……」
 天使だった少年は、幸せに古い教会で暮らしています。
「おいバカ神父! てめえまたジャム使いきりやがって」
「いいだろ別に」
「よくない!」
 天使はもう、空をとぶことはできません。
 それでも天使は幸せそうに微笑んでいました。

 野の花が神様の愛に包まれて、今日も美しく笑ように。
 飛べない天使も美しく笑うのです。

【Fin.】

 あとがき・解説
 初めましての方もどうぞよしなに。
 今回は大好きな海羅のイラストをモチーフに小説を書いてみました!
 登場人物や設定も初期の段階で決まっていたし、内容も半分以上決まっていたのですが
 宗教的な部分のバランスや、悪魔の設定をどこまで細かく決めようかとか、そもそもこれクライマックス盛り上がるのか?
 などなど考え考え、執筆が遅れてしまいました。海羅ごめんね〜〜!

 アドリー、ルシオという名前は海羅に提案していただきました!!
 もらったイメージがそのままでいい感じだったので、採用
 物語でもちらほら出てきますね。

 自分の作品を自分で解説というのは非常に……おう……と心にダメージが来るので普段はしないのですが
 海羅含め、最悪の場合海羅のファン様も見ているわけで……
 今回はキリスト教的な部分が多めでしたのでちょこっと解説。

 ◇◇◇

 まず、アドリーの表現。
 夜空を映したよう

 夜空というのは私が好きな表現だから使ったというのも有るんですが
 やはりマリア様を想起させるようにしています。
 マリア様、神様は北極星として表されることがあります。
 地球の軸の真上にある北極星はいつの時代も人々を導く目標でした。

 聖別:ミサなんかで使うカリスがそうですが、神様のために使う道具として祝福されたもの、されたことを指します。

 ルシオのセリフ
「僕は僕だよ」

 ルビを振るなら「ぼくはぼくだよ」なわけですが、読み方を変えると
「ぼくはしもべだよ」
 ルシオはこの時点で自分は下僕=神に仕える者であることを示しています

 神様が何者なのか、神様にある預言者が尋ねると神様はおっしゃいました。
「I am who I am(本来はラテン語ですが英訳)」

「私は私である」

 この部分も想起していただければな〜というかんじ。

 ◇◇◇

 閲覧有難うございました!
 イメージイラストを提供してくれた夜戸星には更に特別な感謝を! 

 2014〜の作品だと思うんですが、私もこのお話お気に入りです。
 サイト移転にあたり掲載許可をくれた夜戸星ありがとう〜!



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Atorium