ワタルにエキシビションマッチの仕事が入った。
今回は、ガラル地方で行われるらしい。
相手はあのダンデと聞いてワタルの胸が高まった。
なんでも、ダンデがチャンピオンを後進に譲るにあたり、バトルタワーのオーナーに就任したらしい。そのバトルタワーの開会式にワタルは呼ばれたのだ。
エキシビションマッチが開催されるのはシュートスタジアムということで、ワタルはティアリスを連れてシュートシティを訪れていた。
「ワタルさんにはこっちから入場してもらって、ここでライトが当たります」
「なるほど」
「その後に上から……」
そう、ワタルが説明を受けているのを、ティアリスは黙って聞いていた。
ワタルさん、私はどうして連れてこられたんですか。と聞かないまま。
「それで、この方が今回のエキシビションの演出家で――」
ワタルにそう紹介されているのは、有名な演出家だ。確か、ポケウッドの新作映画「あの日見たコイキング」の演出家として一躍有名になった人物だ。ティアリスもあの映画は見たけれど、夕日の使い方や雨の描写が見事だった。
私、ここになんでいるんだろう、こんなに有名な演出家がいるなら、私はいらないよね……。
そんな気持ちを吐き出せず、ただティアリスはワタルを見ていた。
「ああ、そうか。でもおれには専属の演出家がいてな。彼女だ。おれへのライトや音響の使い方は彼女に聞いてくれないか?」
「えっ」
ティアリスは、驚いて言葉を失いかけたが――それでもなんとか挨拶をした。
「ティアリスです。ワタルさんに専属演出家として働かせてもらっています――」
「良かったんですか?」
「何が?」
「私を、エキシビションの演出家にしたこと」
そう彼女が尋ねれば、ワタルはニヤリと笑った。
「いいに決まっている。おれの指示を的確にわかってくれるのは君しかいないんだから」
ワタルはそう言って、ティアリスの頭をくしゃりと撫でた。
こんなふうに言ってくれる人は、ティアリスの周りにはいなかった。みんなティアリスの実力を認めてはくれても、一緒に仕事をしたくないと言われていた。だから、心のどこかでワタルも自分より優れた演出家に出会えば、自分はまた新しい職を探さなければいけないと思っていた。
でもワタルは違った、最後までティアリスを選んでくれた。
「そうですね、スモークがないとライトが見えないことも分からないワタルさんには、私がいないと」
「はっはっは、そうだな……っておい」
彼女は言っていた。自分は言葉がキツいと、そして人と協力することが苦手だと。
しかし、ワタルはそう思わない。彼女はあれだけポケモンたちと力を合わせて演出することが出来、ワタルの意見も綺麗にくみ上げて完成させてくれる。
そして、一度は手折られてしまったのに、またひとりで強く上を向いて咲いた。その様はとても美しく、誇り高い。
彼女は彼女の仕事をやり遂げようとしているのだ。
ワタルは、そんな彼女をとても好ましく思っている。
ワタルが、一人暮らしをしているティアリスに、契約結婚を持ちかける話はまた別の機会にでも。
【Fin.】
◇◇◇
▼ティアリス(Tialys)
一流の演出家を目指す女性。持ってるポケモンはバチュル、バニプッチ、ドッコラー、スワンナ。
サバサバしており、おしゃれにあまり関心がないため髪も無造作に結んでおり、普段から黒のTシャツにズボン。休みの日は多少おしゃれをするものの、スッピンでいることが多い。
名前の由来は7/3の誕生花、ヒメユリ(Starlily)
花言葉な『誇り』『強いから美しい』など……
身長160cm、50kg少し痩せ気味。
好物:演出、スルメなどの干物
苦手:ガム(舞台にくっつけるバカがいるから)
▼ワタル
セキエイリーグのチャンピオン。時系列は謎。
ティアリスの顔は好みなので、女性としても気になっているのでそのうち進展するかもね。