04

しおり一覧へ |しおりを挟む


 ワタルにエキシビションマッチの仕事が入った。
 今回は、ガラル地方で行われるらしい。
 相手はあのダンデと聞いてワタルの胸が高まった。
 なんでも、ダンデがチャンピオンを後進に譲るにあたり、バトルタワーのオーナーに就任したらしい。そのバトルタワーの開会式にワタルは呼ばれたのだ。
 エキシビションマッチが開催されるのはシュートスタジアムということで、ワタルはティアリスを連れてシュートシティを訪れていた。

「ワタルさんにはこっちから入場してもらって、ここでライトが当たります」
「なるほど」
「その後に上から……」
 そう、ワタルが説明を受けているのを、ティアリスは黙って聞いていた。

 ワタルさん、私はどうして連れてこられたんですか。と聞かないまま。


「それで、この方が今回のエキシビションの演出家で――」
 ワタルにそう紹介されているのは、有名な演出家だ。確か、ポケウッドの新作映画「あの日見たコイキング」の演出家として一躍有名になった人物だ。ティアリスもあの映画は見たけれど、夕日の使い方や雨の描写が見事だった。
 私、ここになんでいるんだろう、こんなに有名な演出家がいるなら、私はいらないよね……。
 そんな気持ちを吐き出せず、ただティアリスはワタルを見ていた。

「ああ、そうか。でもおれには専属の演出家がいてな。彼女だ。おれへのライトや音響の使い方は彼女に聞いてくれないか?」
「えっ」
 ティアリスは、驚いて言葉を失いかけたが――それでもなんとか挨拶をした。
「ティアリスです。ワタルさんに専属演出家として働かせてもらっています――」



「良かったんですか?」
「何が?」
「私を、エキシビションの演出家にしたこと」
 そう彼女が尋ねれば、ワタルはニヤリと笑った。
「いいに決まっている。おれの指示を的確にわかってくれるのは君しかいないんだから」
 ワタルはそう言って、ティアリスの頭をくしゃりと撫でた。

 こんなふうに言ってくれる人は、ティアリスの周りにはいなかった。みんなティアリスの実力を認めてはくれても、一緒に仕事をしたくないと言われていた。だから、心のどこかでワタルも自分より優れた演出家に出会えば、自分はまた新しい職を探さなければいけないと思っていた。
 でもワタルは違った、最後までティアリスを選んでくれた。

「そうですね、スモークがないとライトが見えないことも分からないワタルさんには、私がいないと」
「はっはっは、そうだな……っておい」

 彼女は言っていた。自分は言葉がキツいと、そして人と協力することが苦手だと。
 しかし、ワタルはそう思わない。彼女はあれだけポケモンたちと力を合わせて演出することが出来、ワタルの意見も綺麗にくみ上げて完成させてくれる。

 そして、一度は手折られてしまったのに、またひとりで強く上を向いて咲いた。その様はとても美しく、誇り高い。
 彼女は彼女の仕事をやり遂げようとしているのだ。

 ワタルは、そんな彼女をとても好ましく思っている。






 ワタルが、一人暮らしをしているティアリスに、契約結婚を持ちかける話はまた別の機会にでも。



【Fin.】


◇◇◇


▼ティアリス(Tialys)
 一流の演出家を目指す女性。持ってるポケモンはバチュル、バニプッチ、ドッコラー、スワンナ。
 サバサバしており、おしゃれにあまり関心がないため髪も無造作に結んでおり、普段から黒のTシャツにズボン。休みの日は多少おしゃれをするものの、スッピンでいることが多い。
 名前の由来は7/3の誕生花、ヒメユリ(Starlily)
 花言葉な『誇り』『強いから美しい』など……
 身長160cm、50kg少し痩せ気味。
 好物:演出、スルメなどの干物
 苦手:ガム(舞台にくっつけるバカがいるから)


▼ワタル
 セキエイリーグのチャンピオン。時系列は謎。
 ティアリスの顔は好みなので、女性としても気になっているのでそのうち進展するかもね。




prev | back | next
Atorium