「I have a bad feeling about this.」
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14

「おい宮木!」
「諏訪さん……?」


B級ランク戦初日を終えた翌日、私は待ち合わせの為にラウンジに来ていた。
そこに、次回のランク戦の作戦会議をしているであろう諏訪隊の面々がおり、声をかけられ足を止める。
諏訪さんに手招きされ、待ち合わせの時間までしばらくあることから諏訪隊のテーブルに向かうことにした。


「尚美先輩お久しぶり〜体調どうですか?」
諏訪隊オペのおサノちゃんにいつも通り口に飴を咥えながら挨拶をされる。


「おサノちゃん久しぶり。だいぶいいよ」

「おまえ、昨日解説してたんだよな?どうだった?」
「玉狛第二ですか?記録……見ましたよね?あのまんまですよ」
横から諏訪さんに大雑把に聞かれて、何と答えたらいいのかわからず、はぐらかす。
どうだったって、何を聞きたいのか。おそらく次に当たるであろう玉狛第二の事を聞きたいのだとは思うのだが。


「昨日はあっという間に終わりましたから、私もそこまでわかってません」
「なんだよそれ、使えねぇ」
「……すみません」
「まぁまぁ、諏訪さん。宮木さんもごめんね」
堤さんが間に入って諏訪さんを席に座らせて落ち着かせる。諏訪さんとは入隊時からの付き合いだからもう慣れたからそこまでだけど、見た目が怖いので怒っていないとわかっていても少し心臓に悪い。基本的に口が悪いのだ。

「雨取さんは?同じ狙撃手スナイパーだよね?」
「はい。千佳ちゃんはまだ狙撃手初めて間もないですから、威力はすごいですけど、狙撃の腕はこれからですよ」

「三雲君はどうですか?」
笹森に必死な表情で前のめりに聞かれて、思わず後退りする。
「三雲君は射手シューターらしいけど、私も諏訪さん達が見てた風間さんとの模擬戦くらいしか……」


というか、解説者が1部隊に色々言うのは良いんだろうか……。
次もどこの試合かはわからないが、解説をお願いされてるので、あまり肩入れするのもダメだろう。
しかし、諏訪さんに上手くはぐらかして答えることが出来る自信はない。諏訪さんはそこらへん聡いのだ。


いろいろ考えてると、背中にポンっと手が当たる。

「なんや宮木ここにおったんか、探したわ」
「あ、水上君」
生駒隊の水上君。私の今日の待ち合わせの相手でもある。身長差があるので、後ろ向きで相手を見上げる形になる。
赤色の隊服に身を包んだ彼はいつものようにけだるそうな顔で頭を掻いていた。


「すんません諏訪さん。宮木もらってきますね」
「ん、ああ、悪かったな。宮木も」
まだ約束の時間には早いのに水上君が諏訪さんにそう声をかけて、私を連れて行こうとするので、慌てて諏訪さん達に頭を下げて別れる。

そのまま水上君に連れられて移動する。

「ごめん、探してくれてたの?」
まだ約束の時間には早いと思うけど、と相手の様子を伺う。
「イコさんがな、探して来いうるさいねん」
「なるほど」

水上君は隊長のイコさんの言う事には絶対服従なところがある。
いや、言うことを聞かないとイコさんがいつまでも横で駄々をこねるように言うから、それを思うと動いた方が早いと思っていそうだ。彼は無駄を好まない。



「お前は相変わらずモテモテやなぁ」
「本気で言ってる?話しかけやすいんだよ、きっと」
水上君の冗談に軽口で返した。モテモテなんて今までの人生で言われたことがないし、感じたこともない。
むしろ水上君ってお世辞を言うタイプだったんだと内心驚く。そういうのも無駄に感じてそうだ。


「…一人でおるとこ滅多に見ーひんけどな、いや、させてへんのか」
「え?」
「んーや、なんもないわ、はよいこ。イコさんが探しに来てまうわ」
なにかはぐらかされた気がしたけど、水上君はもう一度聞いても教えてはくれないだろう。
確かにイコさんに大声で探されても困るので、慌ててついて行くことにした。




水上君に連れられた先には隠岐君を除いた生駒隊のメンバーが揃っていた。

「尚美ちゃん、相変わらず可愛いな!」
イコさんにものすごい勢いで迎え入れられた。
オーラから歓迎されていることがわかる。
腕を広げてこちらに向かってくるけど、そこに飛び込む勇気はない。


「尚美ちゃん!久しぶりでーす!」
「こら海!先輩やで!」
南沢君がオペの真織ちゃんに叩かれた。真織ちゃんはうちの隊のまことと大の仲良しだ。良く一人で作戦室にも遊びに来てくれる。


「イコさん、相変わらずお上手ですね」
「いやいや、お世辞やあらへんよ!ほんま!可愛い!」
「いや、そんな…」
「ほんまほんま、可愛いよ」
可愛いと何度も言われて思わず照れてしまう。
こんなドストレートに好意を伝えられるイコさんがすごすぎる。きっと他の女子にも言っているんだろうな。

「イコさんそれぐらいにしてやって。宮木、限界です」
水上君が助けてくれなかったら私はこのままどうにかなってしまいそうだった。


「南沢君は好きに呼んでもらって良いから……」
呼び名には特にこだわりはない。実際みんな好きに呼んでいるし。実際年下で私を呼び捨てにしている強者もいる。


「ほらー!マリオ先輩!」
南沢君は得意げに真織ちゃんを見るが、真織ちゃんはジトッと見返していた。

「……あんまり調子乗ってると締められんで」
「え?誰?誰にですか?!」
南沢君は楽しそうに真織ちゃんに聞く。


「俺や!」
生駒がビシッと自分を指す。
「なんでや!イコさんほんまに知らんのか?!」
真織ちゃんがツッコんだ。うちの作戦室に遊びに来ている時は落ち着いているのに、生駒隊ではツッコミ役で大変そうだ。
滑らかに会話が進んでいく生駒隊の雰囲気にいつも圧倒される。


「すまんな、宮木」
「いや、賑やかなのは良いことだよね。生駒隊はいつも楽しそう」
「そーか?うるさいだけやで」
水上君はそう言ってはいるが、うれしそうだ。なんだかんだ自分のいる隊が好きなのだろう。


「けど、本当に奢ってもらって良いのかな?」
「ええよええよ、イコさんが言うたんやから」
水上君に促されて、イコさんと真織ちゃんの間に座る。


「尚美ちゃん!美味しいもん食べてはよ良くなって!」
「はい、ありがとうございます」
私が入院中にお見舞いに行けなかったのがイコさん的にショックだったらしく、それならご飯を奢る!と言われたのだ。きっと、私が入院中、真野隊が防衛任務に入れなかった間にフォローをしてくれていたんだと思う。
まだ私が生身だと長距離を歩くのが難しいので、それなら本部内でしようということになり、こうしてラウンジにいるわけである。ちなみにイコさんの連絡先は知らないので、全部同い年の水上君を通してやりとりは行われた。
連絡先を教えようとしても「俺は知ったらあかん顔やろ?」らしい

「なんでも、なんぼでも好きなん頼んで!俺買ってくるから!」
「はい、ありがとうございます」
イコさんの圧に若干押されながら何にしようかと考える。
「つか、なんでウチらまできたん?」
真織ちゃんがボソッと言う。


「そりゃ、2人きりやといろいろあかんやろ?なあ水上」
イコさんが水上君に話を振る。
「そうですね、確実にめんどくさい事になりますからやめてください」
「せやろ?尚美ちゃんと噂になってまうわ」
「それはないですけど、やめてください」
イコさんに対して、水上君の冷たい返しが続く。



「真織ちゃん、忙しいのに時間作ってもらっちゃってごめんね」
真織ちゃんには無理して来させてしまったかと謝る。彼女も忙しい身だ。

「いや、そんなこと……ウチは……」
真織ちゃんが先程までの話し方とは打って変わって、急に歯切れが悪くなる。
「マリオ先輩は尚美ちゃんの事大好きっすもんね〜!」
「バッ!海!余計なこと言いなや!」
南沢君が教えてくれて、私は真織ちゃんの顔を見る。

「え?そうなの?」
「あ、いや、えっと……はい」
真織ちゃんをみると恥ずかしそうに頷いた。
いつもまことに会いに作戦室に良く来てくれるけど、全然気づかなかった。

「そうそう、マリオは楽しみにしてたもんな〜」
水上君も囃し立てているところを見るに、本当の事なのだろう。


「……嬉しいありがとう」
真織ちゃんの好意に純粋に嬉しくなって思わず照れる。
「いえ、こちらこそ」
真織ちゃんも俯いて赤くなり、お互いが黙りこくってしまう。


「……何この可愛いの……可愛すぎん?」
「はいはい、可愛い可愛い〜」
水上君が適当に返事する中、イコさんは顔に手をやってテーブルに突っ伏していた。

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