「I have a bad feeling about this.」
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『みなさんこんにちは。B級ランク戦2日目昼の部、実況を担当します真野隊の目黒です。よろしくお願いします』

2月5日、B級ランク戦2日目。私は昼の部の上位チーム東隊、王子隊、香取隊、弓場隊の四つ巴の戦いを解説していた。
解説の相手は三輪隊の古寺君で、理知的で穏やかな性格の為、非常に落ち着いて解説ができそうだった。
まことも実況で一緒に入っている為、尚のこと安心だ。


『解説は三輪隊の狙撃手スナイパー古寺隊員と真野隊の宮木隊員です』
『『よろしくお願いします』』
『さて、まもなく隊員の転送が始まります。今回のMAPは香取隊が選択した市街地Aです』

香取隊は隊長の香取ちゃんに攻撃手アタッカーの三浦君と銃手ガンナーの若村君の3人だ。
オペには染井ちゃんがいる。


『一番標準的なMAPですね。広い場所もあり、狭い場所もあり、平坦な地形です。狙撃手視点で言うと、狙撃しやすい高いビル等は限られているので、見つかりやすい地形ではあります』
『今回狙撃手は2人、東隊の東隊長と弓場隊の外岡隊員ですね。さて、全部隊チーム転送開始!』


古寺君の話にまことが補足をする。
弓場隊は隊長で銃手の弓場さんと攻撃手の帯島ちゃん、狙撃手の外岡くんの3人だ。昨シーズンまでは私と同学年の神田君が所属していたのだが、大学受験を機にボーダーを辞めてしまった。オペレーターにはののさんがいる。


隊員達が転送され、戦闘開始となった。
まず全員の転送位置が表示された画面を見る。ほどよくばらけて転送されたようだ。やや弓場隊が近いか。


『これは王子隊は狙撃手狙いですね。東隊長でしょうか?』
古寺君が最初の各隊の動きをみて言う。
王子隊は隊長の王子君、同じクラスで高校の生徒会長もしている蔵内君、樫尾君の3人だ。オペレーターに羽矢さん。


『先ほどの話にもありましたが、MAP的に見つかりやすいところではありますよね」
『はい、王子隊はそれぞれ探しているようですね、東隊長もそれを察知したようです』
まことの振りに古寺君が答える。
王子隊の3人はそれぞれバッグワームを起動しており、MAP選択権はなかった王子隊だがあらかじめ決めていたような動きだ。
足を使って、バッグワームを使っている東さんの隠れそうな場所を探す。


『王子隊長は考えながら動ける人なので、東隊長との読み合いですね』
王子君のことを話す。王子君は同い年なので比較的よく知っている方だ。

『転送位置はだいたい等間隔なのでレーダーに映らなくても予想がつきます。他にバッグワーム使っているのが狙撃手の2人だけで、今回は4チームと人数が多く、MAPで抜けてるところを探せば良いので、わかりやすいはずです』古寺君の話に頷く。


『弓場隊は弓場隊長と帯島隊員が合流して動く。外岡隊員は狙撃位置についたようです』
香取隊はやや転送位置が悪かったようで、まだ合流できていない。

『弓場隊、香取隊長を強襲する!』
1人の香取ちゃんを狙って弓場隊が攻撃を仕掛けた。


『香取隊長はエースなので、合流前に叩こうと言う考えですね。香取隊長は攻撃手なので相手にもう少し近づきたいところ。今は弓場隊長の間合いです。三浦隊員と若村隊員は合流を急ぐ』
まことは的確に状況を説明している。


『東隊長をカバーするために奥寺、小荒井両隊員が動きました。下手に動くと王子隊が察知して東隊長の位置がバレるかもしれません。注意して……』
『これは王子隊長が東隊長を捕まえますね』
古寺君が言う。

『王子隊もそれぞれが別行動をしているので、狙われたら危ないですが、問題なさそうですね』
『と、いいますと?』
まことが私の話を掘り下げる。

『東隊長に逃げられないように四方を敵で囲むようです』
『樫尾隊員が三浦隊員と遭遇!戦闘になります。三浦隊員、合流を阻まれた!蔵内隊員も弓場隊、香取隊長の戦闘を横撃する形で、追尾弾ハウンドを放つ』
『王子隊の作戦です。引っ張ってくるんだと思います』

私はそう考えた。
三浦君と樫尾君はそれぞれ近距離で切り合っているが、樫尾君は少しずつ引いて戦っているので、三浦君は気付かぬ間に移動させられている。
会長の射程は近距離有利の3人には部が悪いから近づこうとする。
若村君は三浦君と香取ちゃんを助けようと近づいてくる。
そこに奥寺君と小荒井君も参戦する。


『確かに気がつけばMAP中央に隊員が集まってきています。乱戦の予感です』
王子隊は東さんを最初から狙って動いていたことがわかる。東さんに仕事をされると厄介だからだろう。
東さんがいる事に気がついた香取隊と弓場隊は狙いを東さんに切り替える。

王子隊の作戦に乗った形だ。
それだけ各部隊東さんを危険視していることがわかる。


『東隊長緊急脱出ベイルアウト!次いで三浦隊員も緊急脱出!』
滅多に緊急脱出しない東さんが敵3チームに集中攻撃を受けて落とされた。
しかし、東さんもタダでは落とされない。
王子君の足をしっかり削ったし、
香取隊の三浦君を奥寺君・小荒井君をうまく使って落とした。
最後は弓場隊の弓場さんが東さんを落とした。


次に狙われたのは香取隊だった。
三浦君が抜けた穴を突くように、弓場隊が中距離戦を仕掛けた。


『そして、次の狙いは香取隊だ!』
『香取隊は1人落ちて、火力で負けてますからね』
私は当然だと考える。


『ここはなんとか流れを変えたい』
『香取隊長が動くしかないですね、これは』
火力で押し負けそうになり、香取ちゃんが戦況を切り開こうとして動いたときに外岡君の狙撃が決まる。

『ここで、外岡隊員の狙撃!』

香取ちゃんに致命傷を喰らわせ、止めを刺そうかと言う時に、トリオン漏出により緊急脱出。

『香取隊長緊急脱出!弓場隊の3人で取った!』

狙撃をしたため位置を知られた外岡君が今度は東隊の2人に狙われた。
そこに王子隊も加わり、また乱戦に。
次々と隊員が緊急脱出していき、最後は弓場隊の弓場さんと王子隊の王子君と樫尾君の2人になる

『さぁ、弓場隊と王子隊の戦いになる!お互い手の内はよく知っている』

『これは弓場隊長が有利ですね。王子隊長は足が削られてるし、樫尾隊員も片腕がない』



古寺君の予想通り、最後は弓場さんが勝ち、生存点をもぎ取った。


3チームの強襲に流石の東さんが落とされた後、
東さんがいない中、奥寺君と小荒井君の奮闘に成長が感じられた。前に見た時よりよく考えて動けていたと思う。
大規模侵攻の経験が生きてるのかもしれない。


今回の戦闘の振り返りで、私はそうコメントし、ランク戦2日目の解説が終わった。



「お疲れ様でした」
「お疲れ様!」
「お疲れ様。古寺君のお陰で解説なんとかなったよ、ありがとう」

私はそうお礼を言って古寺君と分かれ、まことと二人作戦室へ戻ろうと廊下を歩く。



「尚美先輩、この後どうします?夜の部見ます?」
「もちろん!東さんが解説だもん」
「じゃあ、ランク戦室で見ます?……って、先輩中位グループの方見るんですか?」

まことが信じられない、と言う表情でこちらを見る。

「うん、そうだよ?なんで?」
「先輩そう言うところですよ……」
「うん?」


がっくりするまことを首を傾げながら見て、歩いていた。




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