「I have a bad feeling about this.」
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16

「じゃあ私も見に行こうかな、東さんの解説は聞きたい」
「私も!玉狛気になります!」
「みんな行くなら私もランク戦室行こうかな、千佳が気になるし」


その後作戦室に戻り、全員でミーティングをしている時にランク戦室で夜の部を見ると伝えた。
すると依織さん、カンナ、頼さんも一緒に夜の部を見に行くことになった。
まことはこれからオペの仕事が別件であるらしい。
4人の大所帯なので、早めにランク戦室へ向かう。




「おっ、真野隊!揃って観戦なんて珍しいな」
嵐山さんに声をかけられた。
藍ちゃん、時枝君も一緒だ。


「東さんの解説だからね、久しぶりにこっちで見る事にしたんだ。時枝と木虎も元気そうだね」
依織さんが答える。


「宮木退院おめでとう。体調はもういいのか?」
「はい、おかげさまで」
嵐山隊のみんなは入院中お見舞いに来てくれていた。広報活動で忙しいのにもかかわらず、優しい人たちだ。


「あれ?佐鳥は?」
頼さんが時枝君に聞く。

「佐鳥は仕事が溜まってて、作戦室で綾辻先輩といます」
「なるほど」


この間私とランク戦の解説をしていたが、それも仕事が溜まった理由の一つだろう。佐鳥君は女の子に優しいから、頼まれたら断れない。



「木虎ちゃん、今度ランク戦しよーよ!」
「紫先輩、私は忙しいんです」
藍ちゃんはカンナに冷たく返すが、カンナは気にせずぐいぐい話しかける。
私はそれをのんびり見ていた。



「尚美先輩!退院おめでとう!」
後ろから声をかけられる。駿君だ。

「駿君!そっか今日駿君解説なんだね」
「そうだよ〜!ちゃんと聞いててよ!じゃあね」
それだけ言って駿君は解説席の方に降りて行った。戦闘スタイルと同様身軽だ。

四人座れる席を見つけて座る。すると後ろに二人誰かが座った。


「あれ、真野隊の皆さんじゃん、珍しい」
先程の嵐山さんと同じような事を言われる。
「あ〜米屋!」

カンナが振り向いて話しかける。米屋君と古寺君が来ていた。


「古寺君、昼はありがとう」
米屋君の隣にいる古寺君に話しかける。


「お昼は尚美と解説ありがとうね。大変だったでしょ?」
頼さんも笑いながらお礼を言う。
「いえ、そんなこと……。宮木先輩とはやりやすかったです」
「そっか、章平は昼に宮木先輩と解説だったのか。俺中位の方見てたからな」
「はい、そうなんです」


三輪隊はよくランク戦室で観戦しているようだ。


「おっ、みんな来てくれてるのか」
「東さん!」
解説をする東さんがやってきた。


「宮木、古寺。昼は解説ありがとう。後で武富にデータ貰うよ」
「いえ、東さんに比べたら私なんて」
東さんに聴かれるのはだいぶ恥ずかしい。自分のつたない所がばれてしまう。
「僕もです」
古寺君も焦った様子だ。古寺君の戦術の師匠は蓮さんで、その師匠が東さんだから緊張もするのだろう。


「東さん、今日の解説しっかり聞かせてもらうよ」
依織さんが楽しそうに東さんに声をかける。
「真野か、珍しいな。期待せずに聞いてくれよ」
東さんは手を振って解説席へ降りて行った。





そして中位グループ夜の部が始まった。
今日も桜子ちゃんが元気よく進めていく。
『縁川くんは玉狛の空閑隊員と個人ソロで戦ったというウワサが……』
『うわ、その話ここでする?』


それを聞いて、カンナの話を思い出した。カンナも個人戦の様子を見ていたはず。


『8-2で負けました!ボッコボコでした!でも今度また10本勝負する約束したから次は勝つよ!』
駿君は自信満々に言う。


「駿が負けたんですか?8-2で?」
後ろで声がする。いつの間にか来ていた加古隊の双葉ちゃんだ。


「いい勝負だったぜ〜」
「そうそう、最後は駿君もいい動きしてた!」
米屋君とカンナが双葉ちゃんに教える。


「そうですか……」
双葉ちゃんは信じられないと言った感じだ。駿君と双葉ちゃんは幼馴染だ。実力もよくわかっているのだろう。


『……さぁステージが決定されました!玉狛第二が選んだステージは……市街地C!』
「ふふっ」
依織さんがそれを聞いて笑った。
解説の東さんも戸惑っている。
狙撃手スナイパー有利ですね」
頼さんが依織さんに話す。


「そうだね、荒船隊が断然有利になるね」
玉狛にも千佳ちゃんという狙撃手はいるが、新人のため実力差がある。何より荒船隊は3人が狙撃手だ。
荒船隊は隊長の荒船君に、穂刈君、半崎君の3人に、オペレーターには私と同い年の倫ちゃんがいる。


「諏訪さんキレてそうだわ〜」
「うん、私もそう思う」
カンナの言葉に頷いた。諏訪隊には狙撃手がいない。圧倒的に不利だ。


「これは、転送の運も関わってきますね」
「いくらデビューしたてのチームでもそんな無謀なことするかなぁ?」
なんだかしっくりこなかった。何か考えあっての事と思ってならない。



『B級ランク戦、転送開始!』
マップ上にそれぞれの隊員の位置が出される。


『さぁ転送完了!各隊員は一定以上の距離をおいてランダムな地点からのスタートになります。そして狙撃手4人がバッグワームを起動!レーダー上から姿を消した』



「うーん、玉狛の転送位置は微妙だね。むしろ荒船隊が良い。諏訪隊はみんな近い位置にいるね」
依織さんが全体を見て言う。


『狙撃手三人の荒船隊、やはりまっすぐ高台を目指します!半崎隊員がいい位置に転送されたか!』
「諏訪隊も上を目指してますね、逆に玉狛は……」

頼さんの言う通り玉狛は2チームを追わず、合流を優先したようだ。


『転送直後は1番無防備な時間帯ですからね。合流するのはありです』
東さんも玉狛の選択を良しとする。


「だけどそれじゃ、荒船隊に高台取られちゃいますよね〜」
カンナの言う通りだ。マップ選択をここにした意味がますますわからなくなる。


諏訪隊の笹森君も焦っているようで、高台の方に走っている。
「日佐人君前に出過ぎてる、あれじゃ狙撃される」
荒船隊は穂刈君と半崎君がすでに上がってきている。1番下に転送された荒船君が上がれる様にフォローするはず。


「あ!」
思った通り笹森君が狙われた。
それを諏訪さんが咄嗟に壁際に引っ張って防ぐ。


「諏訪良いね。穂刈もいい牽制だ」
依織さんが嬉しそうに言う。


「諏訪隊もう合流しましたね」
頼さんがMAP画面を見て確認する。


『笹森隊員間一発!』
『穂刈の牽制ですね。かわされましたが、諏訪隊は進みづらくなった。いい仕事だ』


東さんの言う通り、諏訪隊の動きが止まった。


『この隙に荒船隊長も脇をすり抜けて登っていく!荒船隊が完全に上を取った!』


「これは、荒船隊有利の場面だねぇ。玉狛はどうするつもりか」

依織さんが顎に手を当てて考えていると、荒船君に攻撃が来る。


「千佳だ」
攻撃の威力に頼さんはすぐ千佳ちゃんの狙撃だと気づく。

「下から撃ってきましたね〜位置バレバレ」
カンナの言う通り荒船隊の三人が一気に玉狛を狙撃する。


「これは玉狛は分が悪いでしょ」
「うーん、ただ撃ち合いをしたいってわけじゃないと思うけど」
カンナの言葉に私は玉狛の位置が気になった。新人だとしてもあんなに撃ちやすい場所に行くだろうか。まるで誘ってるみたいだ。


『玉狛第二の分が悪いですね。威力があっても下からでは荒船隊の動きが見えない。その上撃つたびに自分の居場所がばれる。逆に上にいる荒船隊からは的がよく見える』

東さんもこう言ってはいるが……

シールドを何枚張っても防御ガードが崩れるのは時間の問題です』

三雲君の片腕が飛んだ。ダメージを確実に玉狛に与えている。


『東隊長の解説のとおり、玉狛第二が一方的にダメージを受けていく!本職相手に狙撃手勝負は無謀だったか?』
『……いや、端から勝つ気はないようです』


「荒船、玉狛に集中しすぎだよ。諏訪隊がフリーだ」
頼さんが呟く。

「これは玉狛面白いことするね。釣りか」
依織さんは楽しそうだった。

2人が話してるとおり、荒船君を諏訪さんが不意打ちする。
『あーっと!砲撃の陰で諏訪隊が登ってきていた!!』

桜子ちゃんが興奮気味に実況する。


『さっきの砲撃は諏訪隊の援護ですね。長距離戦で荒船隊に勝てないのは織り込み済み。ステージの選択から敢えて荒船隊有利に偏らせることで諏訪隊と玉狛第二の利害を一致させた。玉狛第二は地形戦をよく練っていますね』

誰が考えたんだろう。東さんに褒められるほどだ。なかなかの策士である。
諏訪さんが自分の優位の距離で荒船君を攻撃していく。
このまま荒船君が落とされるかと言うところで、


『あーーーーーっと?!』
諏訪さんの顔面目掛けて攻撃が入る。
「流石半崎!仕留めに行った!」
頼さんが狙撃手仲間の半崎君を褒める。
「いや、諏訪が一枚上手だね。半崎の位置もバレた」
依織さんの言葉に全員がモニターに集中する。
見てみると諏訪さんが顔面に集中シールドを張っていた。


「諏訪さんすごい!」
「うわー半崎君の狙撃の上手さを逆手にとったやり方だ!」
カンナと私は感心する。


『ヘッドショットをピンポイントで防御!』
『半崎の狙撃の正確さが仇になりましたね』
『なるほど!』

半崎君の狙撃の上手さは狙撃手だけではなく、ボーダー内でも広く知られている。
諏訪さんが好機と言わんばかりに荒船君を追うが、今度は横から狙撃が来て片足を飛ばされる。穂刈君の狙撃だ。


『さらに一発!今度は防げなかった!目の前の荒船隊長に追いつけない!』
『しかしこれで荒船隊は全員の居場所が割れた。この距離でこれはでかいですよ。諏訪も脚の一本くらいは必要経費だと思ってるでしょう』


諏訪さんのフォローに笹森君がつく。堤さんは半崎君を狙って別行動だ。
しかし半崎君のところに最初に現れたのは堤さんではなく、玉狛の空閑君だった。
素早い動きで半崎君を切りつけるが浅い。空閑君が再度切り込もうとした時に、弾丸が飛んでくる。堤さんの攻撃だ。


『半崎隊員緊急脱出!』
『狙撃手は寄られるとこうなります。寄らせちゃだめですね』


「半崎〜!」
頼さんは狙撃手贔屓だ。半崎君が落とされてがっくりきていた。
空閑君と堤さんの戦いになった。位置取り的に堤さんが有利か。そう思ったが……


「なるほど、空閑、強いね」
依織さんが空閑君の動きを見て笑う。

「グラスホッパー!!」
私は驚いた。前回にはなかったトリガーだ。
堤さんは不意を突かれて落とされた。


『おおお?!今の動きはグラスホッパー……?!空中機動を可能にするジャンプ台トリガー!前回は使っていなかった気がしますが……!?』
『オレが教えました。昨日』
駿君がネタバラシをする。


「あのバカ……ライバル強くしてどうするの……」
双葉ちゃんが呆れたように言う。

「オレはああいうの好きだぜ」
米屋君は模擬戦大好き、戦闘バカだ。
純粋に強くなっていく相手と模擬戦をするのが面白いので良いのだろう。



『さあ玉狛第二も一点取り返して次の相手へ!狙うは穂刈隊員!徹底して荒船隊狙いだ!』
『狙撃手残ってるとめんどくさいからね』
駿君が言う。
空閑君が距離を詰める前に穂刈君が狙撃をするが、空閑君が防御する。


『弾の出所がわかっていれば、トリオン体の反応速度次第で防御も可能!位置を知られては苦しいぞ狙撃手!』
『まあ普通はそうですね』

東さんの言う通り、普通の狙撃手はそうだ。
空閑君の近くには荒船君がいる。穂刈君が落とされて1人になってはキツい。穂刈君をフォローするはず。


『ただ……荒船に限って言えばあいつは元攻撃手アタッカーですからね』
荒船君は私と一緒で転向組だ


「お、荒船弧月抜いた。やる気だ、良いね」
「久しぶりに見ましたね」
空閑君を弧月で攻撃する荒船君をみて、依織さんと頼さんは珍しいものを見たと驚く。それほど追い詰められているのか、玉狛に。

それを見た諏訪さんが笹森君と別行動を始めている。

『荒船隊長が弧月抜刀!空閑隊員と剣比べか!?』
『荒船は本職の攻撃手ではありませんが……ここで空閑を止めたことで穂刈の援護射撃が利くようになりますよ』

東さんの解説になるほどと納得する。



『さあB級ランク戦二日目・夜の部!徐々に形勢が傾いてきました!ここまでのスコアは……玉狛第二1得点ノーアウト!諏訪隊1得点1アウト!そして荒船隊!得点なし1アウト!狙撃手有利のこのMAPで意外にも狙撃手が追い詰められる荒船隊には苦しい展開!』



ここまでの戦況をざっと桜子ちゃんが説明する。

『ここで反撃に転じたのは……剣も狙撃もマスタークラス。武闘派狙撃手荒船隊長!攻撃手から狙撃手という異色の経歴の持ち主です!」

荒船君が攻撃手から狙撃手に転向したほぼ同時期に私も射手シューターから狙撃手に転向した。それもあってお互いがお互いを意識していたこともある。先に狙撃手でマスター級になったのは荒船君だったか、私も負けたくないと思い訓練に勤しんでいる。


『たしか私がB級に上がった頃には荒船隊はすでに狙撃手3人部隊だったと記憶してますが……』
『荒船さんは8か月前まではバリバリの攻撃手で順位もかなりよかったよ今でもたまに弧月でランク戦やってるし。荒船さんが攻撃手やめたときはみんな「なんで?」って言ってたくらい』



そうなのだ。
私と違って、荒船君は攻撃手として問題なくやっていた、それなのに転向した。
荒船君が転向した理由を知っている。前向きな良い理由だ。だからこそ私より早くマスター級になれたのだと思っている。


「腕は鈍ってないようだよ、流石だね。色々と上手い」
バッグワームを使っての攻撃をみて依織さんが感心する。


「穂刈〜!アシストだぞ〜!」
依織さんと頼さんは荒船隊に注目している。



『バッグワームを目隠しに使って攻撃?!』
『それっぽいことしてますね。ですが実際荒船がバッグワームを解除しないのは、諏訪に削られた足を隠す為でしょう。バレればそこを攻められます』
『なるほど』


空閑君と荒船君の斬り合いに、穂刈君の狙撃が入る。

『空閑隊員が初めて太刀を受けた!穂刈隊員の援護狙撃が機能している!スコーピオンと弧月では耐久力に差があります!打ち合えば荒船隊長が有利!』


「諏訪隊きたぞー!」
カンナが楽しそうに言う。先程二手に分かれた諏訪隊だ。
穂刈君に笹森君。荒船君と空閑君のところに諏訪さんがもう当たる頃だ。


『諏訪隊も二手に分かれ、それぞれ得点を狙う!戦況が混沌としてきた!』
『各隊ここが勝負どころですね。荒船隊は2人ともマークされていて諏訪隊もバラけた。これは玉狛が当初から狙っていた状況にかなり近いはず。最大のチャンスをものにできるか。逆にそれをはね返せるか。あるいは自分たちのチャンスに変えられるか。荒船と空閑のエース対決を中心にしておそらくここで決まります』


東さんが今までの隊員達の動きをみてそう予測する。


『両方の強さを知る緑川くんから見て、エース対決はどちらに分があると思いますか?』

桜子ちゃんが駿君に話を振る。
『そりゃ遊真先輩だね。荒船さんは今は狙撃手がメインだし。遊真先輩が勝つと思う』


そして、最初の撃ち合いからは静かだった玉狛の2人が動いていた。


『玉狛の三雲が地味にいい動きはしてますね。荒船隊の2人が狙えるいい距離にいつの間にか陣取ってます。バッグワームを敢えて使わずレーダーに映っているので荒船隊は三雲の攻撃にも意識を割かざるをえない。ただそこにいるだけで荒船と穂刈を心理的に挟み撃ちしている。いい射程の使い方です』


それを聞いて私も真似しようと考えた。


「三雲君、弱い割に考えてますね。やっぱり面白いな〜」
「穂刈君が逃げにくくなってるね」
「これは穂刈先輩、日佐人君に捕まりますね」
カンナの言った通り、笹森君が穂刈君を捕らえる。
すると穂刈君が空閑君を狙撃した。


『穂刈隊員捨て身で狙撃?!』
『まだだよ』

駿君の言葉のとおり、空閑君がグラスホッパーでフェイントをかまし、荒船君の両足を切断した。


「うまい!」
カンナは空閑君と同じグラスホッパーを使う。カンナはあんな風に使ったことはなかった。
空閑君と荒船君の戦いに決着がつきそうだ。そこへ諏訪さんが割って入った。
穂刈君を倒した笹森君も浮いている。ここへ来るはず。


「お!みんな捨て身でやるねぇ」
依織が言う。
空閑君を笹森君が止める。そこに諏訪さんが狙いを定めた。空閑君は落とされるか?


ズドッ
大きな銃弾の音が響く。
千佳ちゃんの狙撃だ。
固まっていた隊員達がいた家が吹っ飛ぶ。そのどさくさで空閑君が笹森君を取った。


「おっ、荒船抜け目ないね。容赦ない」
頼さんが荒船君を褒める。
千佳ちゃんの居場所がばれたので、荒船君が狙撃したのだ。


『笹森隊員と……雨取隊員が緊急脱出!狙撃の隙は逃さない!荒船隊が1点をもぎ取った!』

最後は空閑君を囮にした三雲君の活躍で、諏訪さんが緊急脱出。荒船君もトリオン漏出過多で緊急脱出していった。


『諏訪隊長・荒船隊長が緊急脱出!!ここで決着!最終スコア6対2対1!玉狛第二の勝利です!デビュー2戦目も6得点!玉狛第二の勢いは止まらない!』

桜子ちゃんがまとめる。



「いやー!面白かった!今度私もグラスホッパー使ってやってみよ!」
カンナは空閑君の戦いに触発されたようだ。

「いい刺激になったんなら良かったね、玉狛は色々考えててすごいね。中学生チームとは思えないよ」



『……さて、振り返ってみてこの試合いかがだったでしょうか?』
桜子ちゃんが東さんに話を振る。


『そうですね、終始玉狛が作戦勝ちしていたという印象ですね。相手の得意な陣形を崩す。エースの空閑をうまく当てる。この二つを徹底して実行できていたということが、6点という結果につながったと思います』

そうなのだ。市街地Cにしたのも、荒船隊を諏訪隊と一緒に攻めたのも、各隊のメンバーをバラけさせたのもいい作戦だった。


「米屋先輩」
「あん?どした?」
「玉狛の作戦ってそんなに意味があったんですか?単にクガって人が強かっただけに見えたんですけど」
後ろの双葉ちゃんが米屋君に聞く。


「どうなの?センパイ」
「おれですか?」
代わりに古寺君が答える。

「黒江ちゃんの言うとおりたしかに空閑は強いけど、普通のMAPで五分の条件だったら、玉狛が荒船隊を崩すのは難しかったと思うよ」

そう。ただ空閑君を当てるだけでは勝てないのだ。上手く当てる必要があった。それで玉狛は作戦を練った。

「さっき東さんも解説で言ってた通り、遠距離戦じゃ経験の差が歴然だからね。玉狛もそれをわかってたから極端な地形を選んで勝ち筋を限定した。諏訪隊を巻き込んで「高台の有利が取れるかどうかの勝負」に持ち込んだんだよ」
「……荒船隊と諏訪隊を自分たちのルールに乗せたってことですか?」
「いい表現だねその通り。「地形を使って相手を動かす」これは地形戦の基本でおり、真髄なんだ。「動かされた側」の2チームはずっと対応に追われて、「動かした側」の玉狛は最後まで「次の一手」があった。その余裕の差があったから結果的に点差が開いたんだと思うよ」
「なるほど……ありがとうございます」


双葉ちゃんは納得したようだ。
勝手に聞いていた私もよくわかった。

なんとなくで考えていたものが言語化され、はっきりとわかった。こういう解説を自分もしたい。

『えー……古寺に全部言われたので話すことがなくなっちゃいました』

東さんが戯ける。



『さて本日の試合がすべて終了!暫定順位が更新されます』
どうやら裏の上位チームの試合は終わっているようだ。
次の玉狛の対戦相手は那須隊と鈴鳴第一に決まった。玉狛と同じ編成のチームである。


「空閑君、村上先輩とやり合わないかな。どっちが勝つかな、見たいな〜!」
「うーん、初見なら空閑かな?」

カンナの話に依織さんが予想する。
「太一も茜もでるし、千佳もいる。狙撃手も気になるところだね」

頼さんは次回も玉狛の試合を見るようだ。何より、弟子の太一君が気になるのであろう。


「東さんの解説勉強になったなぁ」
私はまだまだだと言うこともわかった。もっと頑張らないと。



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