「I have a bad feeling about this.」
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19

くまちゃんを倒した村上君は橋の方に向かう。
そこには空閑君が待ち構えていた。


空閑君はあくまで村上君を倒すつもりなのだろう。それから東岸に向かう。
東岸の心配は一切していないのか。

『西岸の戦いは決着間際。1ptずつ得点を取ったエース二人が相見える!
熊谷隊員が粘りの戦いを見せたため、その隙に川を渡るかに見えた空閑隊員ですが、意外にも村上隊員を待ち受ける展開。思いがけず、静かな遭遇になりました!』

『村上は空閑が待ってんのはレーダーでわかってただろ。橋の上ん時みたく絡んでくるって思ってたはずだ。だからレイガストを手放したり、背中向けたりしてカウンター狙いで誘いをかけた』
太刀川さんが先ほどまでの村上君の動きを解説する。

『でも空閑隊員は誘いには乗らなかった。村上隊員の思惑に見抜いていたと言うことですか?』
『どうだろなー狙いはよくわからんが、どうやら今回は正面から当たるつもりらしい』
空閑君と村上君が正面からぶつかった。

『一方東岸でも射撃戦が激化!味方を落とされた那須隊長が点を取り返しに行く!』
『対岸の二人のうち勝った方がこっちに来るかもしれませんからね、じっくり構えてはいられないでしょう』
迅さんはそう予想する。

『玉狛の三雲隊長と鈴鳴の二人が那須隊長を中心に間合いを取る。
状況を調節しているのは三雲隊長か。背後をとっての攻撃で、那須隊長の意識を散らしにかかります』
『うちのメガネく……じゃないメガネ隊員は曲者ですよ』
メガネを訂正しないのか、迅さんは。

『那須隊長としては前後いずれかの敵をすばやく倒すか大きく移動して全ての敵を射程に捉えたいところですが、この状況で鈴鳴第一の方を狙うんですね。一見三雲隊長の方が倒しやすいように思えますが……』

『那須が三雲を狙わない理由はいろいろあるんだろうが、1番は玉狛の狙撃手を警戒してんだろ。
雨取が姿をくらましてるうえに玉狛第二は釣りの戦法をよく使う。
そろそろ那須には三雲の素人くさい動きが、自分を釣って狙撃を狙ってるように見えてくる頃だ』

『狙撃があるかも、と意識させる事で、那須隊長の意識が分散されますね。いい手です』
一人で戦う玲ちゃんには嫌な手だろう。

『隊員の間で「鳥籠」と呼ばれる変化弾バイパーの全方位攻撃!来馬隊長防ぎきれず削られていく』
『各チームの中距離戦は那須隊に軍配があがります』

来馬先輩が太一君と合流して、2人で玲ちゃんの変化弾を受ける。

『別役隊員がバッグワームを解除!2人分のシールドで変化弾を凌ぎつつ数の優位で火力勝ちを狙う作戦か!』
また玲ちゃんから鈴鳴第一の2人へ攻撃が来る。
2人で盾を張ったが、盾が破られてしまった。先ほどまでの攻撃とは違っていた。

『うまい!これは直前までわからないです』

玲ちゃんの変化弾の変化の凄さに唸る。

『しかし今度は鳥籠と見せかけて一点集中の両攻撃フルアタック!』
『対応が早い!』
『対策の対策か。やっぱ那須隊は那須を中心に作戦を立てたみたいだな』

玲ちゃんは隊長兼エースだ。エースとして遺憾なく実力を発揮している。残り1人だとしても落とすのは大変そうだ。

玲ちゃんの後ろから三雲君が現れて、通常弾を放つ。

『三雲隊長、通常弾アステロイドを断速重視に調律。威力を捨てて、命中率を取った模様』
『完全に嫌がらせ用だな』
『さっきまでは防御すらしてもらえなかったですからね』
『鈴鳴を生かしとくためだろうが、気を引きすぎると逆効果だろ。那須の気がかわったら狙撃手スナイパーの援護がないのがバレるぞ』



ここで、エース同士の戦闘が続く西岸を見てみる。
『村上隊員の強烈な切り返し!空閑隊員間一髪で危機を脱した!』

『おお、凌ぎ切った』
太刀川さんが空閑君の動きに感心する。

『今回のくまもそうだったが、村上と正面から斬り合って1セットで死なないやつは珍しいぞ』
『空閑隊員の攻撃も相当鋭いものでしたが』
『そうだな』
歌歩ちゃんの問いに太刀川さんが頷く。

『風間さんがたま〜に使う「もぐら爪」、木虎が最近使う脚ブレード、あと……あれ体ん中で枝分かれされてブレードが増えたように見せるやつ』
『「枝刃」』
歌歩ちゃんが答える。

『そうそれ。技の冴えも使い所もいい感じだが、まだ軽いな。それだけじゃ集中した村上には届かない。あいつの剣には今までの強敵との戦いの経験がぜんぶ乗ってるからな』
太刀川さんは自分も含めてボーダーの実力者達によって培われた村上君の実力を買っている。


『さすがにおまえも村上の勝ちが見えてんだろ?』
太刀川さんが迅さんに訊ねるが、そう言う事を今聞くのはアウトじゃないだろうか。
……
『……まぁさすがに分は悪いね。8-2ってところかな?』
『……!』
迅さんのサイドエフェクトによる返答に歌歩ちゃんは驚く
『でもまだ未来は決まってない。おれは遊真が勝つほうに賭けるよ。あいつの剣にだってちゃんと乗ってる。積み上げてきた重みってやつが』

空閑君がグラスホッパーを使用して、縦横無尽に駆け巡るが、村上君は攻撃を当ててくる。
以前に戦った時に見せた技なのだろう。慣れた動きだ。

『空閑隊員グラスホッパーで上へ逃げる!村上隊員迷わず追撃!空閑隊員を追い詰める!』
東側では戦況は膠着していた。いや、玲ちゃんが少し鈴鳴第一を押しているか。

玉狛は気がつけば、千佳ちゃんが橋を狙えそうな場所に移動していた。西岸の戦いに介入するつもりか?
玲ちゃんの攻撃を鈴鳴の2人がガードする形が続いていた。


また玲ちゃんの攻撃が再び放たれた。
私は先ほどよりスピードが遅くなっていることに気づいた。何か仕掛けたのか?

すると太一君が来馬先輩を押して、一人で攻撃を受けた。太一君も何か感じたのだろうか。
先程までの変化弾とは威力が段違いだった。

合成弾だと今気づく。

『那須隊長の変化炸裂弾トマホークが炸裂!那須隊が獲り返した!』
『あれは引っかかるかもなー炸裂弾単品ならともかく、那須が合成弾を使うのは初めてだ』

太刀川さんは感心している。


『弾丸の合成には時間がかかり、隙が生まれるため乱発はできませんが、その分威力は強力です』
『変化炸裂弾は変化弾と炸裂弾メテオラの合成弾です。那須隊は全員、今回の戦いでは一つ、普段とは違う攻撃を相手に仕掛けていますね。しかし、鈴鳴の別役隊員ファインプレーですね。来馬隊長を残せました。
あのまま攻撃を食らっていたら、2人とも落ちていた可能性があります』

迅さんとそれぞれ説明する。
玲ちゃん、合成弾出来たんだ。いつ練習したんだろ。解説しながら驚いていた。


『隠し手札がきっちり刺さった。来馬隊長、三雲隊長は警戒して距離を取る動き』
『そして、西岸の攻撃手アタッカー対決は橋の上へ!空閑隊員が防戦一方!橋を渡っての逃げ切りも選択肢にあるか?』

村上君が空閑君の右足を切り飛ばした。

『捉えられた!ここでグラスホッパー!橋を渡る気か、反撃狙いか!』
『空閑がどう動いても村上は食らい付くぞ』
『空閑隊員は前の試合でもグラスホッパーを使って相手を撹乱してます』


するとグラスホッパーで、村上君が、飛んだ。飛ばされたようだ。

『?!グラスホッパーを踏ませた?!』

空中で2人は切り合う

『さらに組み付く!川に押し出す狙いか!しかしこの距離なら村上隊員はスラスターがある』
『いえ、玉狛の大砲がきてます。村上隊員のそれを許すはずがない』

ここで狙撃をするはず。私は断言した。
勘の通り、やはり千佳ちゃんが橋を爆撃した。


『ここでふたたび砲撃炸裂!二人が川に落下!』

そこからは一瞬だった。
空閑君は狙って川に落ちたのか、スコーピオンで迷わず村上君を狙う。
水中でも軽い身のこなしで村上君の背後に周り、胸を一突きした。


緊急脱出ベイルアウトしたのは……鈴鳴第一村上隊員!』
『マジか!』

太刀川さんが楽しそうに反応する。

『水中戦に引きずりこんで村上隊員の守りを崩した。どんな体勢からでも攻撃できるスコーピオンの有利を活かしましたね』

迅さんはこの未来が見えていたのか、淡々と解説していく。

『しかし片腕片足を失った空閑隊員もこのまま流されて戦闘区域離脱か!勝敗の行方は雨取隊員と……各部隊の隊長に託された!』
『この後は射撃戦ですね、那須隊長が動きますよ』

もう玲ちゃんが誘う必要は無くなった。


『さあ西岸の戦いに決着がついて東岸の射対決も終盤戦!那須隊長撃ち合いから一転機動戦に切り替えた!』
『雨取隊員の位置が割れましたからね。那須隊長は東岸で孤立無援。
自分が落ちれば負けの状況。怖いのはレーダーに映らない狙撃手の一発です』

千佳ちゃんは先程、空閑君を援護するために砲撃をした。まだバッグワームを使ってはいるが、大体の位置は割れている。

『さっきまでは雨取に撃ってこさせるためにわざわざ目立つところに陣取ってたが、もうその必要はなくなった。
障害物を盾にして機動力で獲物を追い詰めるいつもの那須の戦い方だ』
玲ちゃんが来馬先輩に向かって攻撃を仕掛けていく。


『次は来馬が落ちそうだな』
その様子を見て太刀川さんが言う。

『那須と来馬が下におりたから三雲の「嫌がらせ」が通りにくくなった。足を削られた来馬が援護なしで那須の変化弾を凌ぐのはキツいだろう』
『咄嗟のことだったとはいえ、機動力が低下した来馬隊長ではなく、別役隊員が生き残っていたほうが……ということでしょうか』

歌歩ちゃんは太刀川さんに問いかける。

『いや……そういうのは関係ない。村上と太一はどんな状況でも来馬を庇うよ。鈴鳴第一ってのはそういう部隊だ』
村上君の実力は正直、来馬先輩よりずっと上だ。けど、自分が生き残るより、来馬先輩が生き残る方を優先するだろう。

ドグッ!
誰もいない場所に銃弾が放たれた。
それも何度も。千佳ちゃんの狙撃だ。
みるみるうちに、玲ちゃんと来馬先輩の足元に水がくる。


『これは……増水した川の水を住宅地に引き込んだ……!?』
『水攻めか。敵の機動力を封じられれば良し。那須たちが水を避けて建物の上にあがれば射線が通ってそれはそれで良し。三雲は遠巻きに立ち回りながら、とことん那須と来馬を食い合わせるつもりだな。なかなかにえげつない』
『玉狛第二の冠水の計!手足を削られた来馬隊長には更に苦しい状況になった!』

玲ちゃんは身を隠しながら来馬先輩へ合成弾を放つ。


『変化炸裂弾ですね。身を隠しながら合成しています。上手いですね。おそらくまた撃ってくると思います。来間隊長は味方の援護がもうありませんから厳しい状況です』

最初の一回は盾で被害は最小限に抑えられたが、一人では次の攻撃で盾も破られるだろう。
玲ちゃんが合成弾を打ったタイミングで来馬先輩は銃を上に向けて攻撃した。
捨て身の攻撃か?そして、玲ちゃんが合成弾を撃った後の無防備な状態を狙って三雲くんが仕掛けた。

玲ちゃんはそれを読んでいたようで、三雲君の攻撃を防御し、来馬先輩には玲ちゃんの攻撃が当たった。

完璧に見えた玲ちゃんの動きだったが、来馬先輩が上に向かって放った攻撃は追尾弾で、玲ちゃんに向かって死角から攻撃される。

玲ちゃんは三雲君の攻撃を防御していたため対応が遅れ、被弾した。
来馬先輩は玲ちゃんの攻撃によって緊急脱出し、玲ちゃんは緊急脱出まではいかないが、かなりのトリオンの流出だ。

『来馬隊長の置き土産。誘導弾ハウンドによる視覚からの攻撃!那須隊長初めてまともにダメージを受けた!すかさず三雲隊長が追撃する!』

玲ちゃんをスラスターで三雲君が攻撃したことで、玲ちゃんがゆっくり後ろに倒れようとしていた。
しかし、そのタイミングで戻ってくる。


『変化炸裂弾……!?』
『来馬隊長に撃ったやつですね。メガネ隊員の動きを先読みして、外れたやつが戻ってくるよう設定してあった』
玲ちゃんの攻撃を受けて、三雲君が緊急脱出した。


後は玲ちゃんと千佳ちゃんの戦いになったと思ったが、そこに空閑君が現れた。

『……空閑隊員!?川を渡り切っていた……!?』
『先程の雨取隊員の砲撃で街に水が流れた分、空閑隊員も川を渡れたのでしょうね』

先ほどの砲撃は敵部隊の足を封じたと共に味方の援護もしていたことに今気づいた。
玲ちゃんと空閑君の戦いが始まるかに見えたが、ここで玲ちゃんのトリオンが尽きたようだ。

緊急脱出する。


『那須隊長緊急脱出!ここで試合終了!那須隊長の緊急脱出はトリオン流出に因るものなので、損傷を与えた来馬隊長の得点としてカウント。そして玉狛第二には生存点の2ptが可算されます。最終スコア4対3対2。玉狛第二の勝利です』

『圧倒的不利な状況から一矢報いた来馬隊長。実質4対1で単独3得点をあげた那須隊長。どちらの隊長も最後まで意地を見せましたね』
『三雲の狙いは最初から那須のトリオン切れだったわけか。雨取を逃して全滅の危険性を減らしたうえで、自分は欲張ってもう1点を取りに行った。……なるほど、こいつはたしかに曲者だ』
太刀川さんは三雲君の作戦に感心する。


『暴風雨の河川敷という特殊な舞台。最終的にそれを味方につけた玉狛第二の勝利となったこの試合。改めて振り返ってみていかがでしたか?』

解説者がそれぞれ今日の総評を行う。

『あんまり予想が当たんなかったな〜やっぱ東さんみたいにいかない』
『もうちょっとマジメに』

太刀川さんが笑いながらコメントすると、歌歩ちゃんが厳しく言う。

『マジメに?OK……1番でかいポイントはやっぱ橋が落ちたとこだろ。身を切って那須隊の作戦を阻止した玉狛の思い切りはなかなか。あれがなかったらたぶん那須隊が勝ってた。最初の転送位置がかなりよかったからな』

『橋が落ちることで全ての部隊が東西に分断される展開になりました。ではまず西岸の方からお願いします』

『個人的に西岸のポイントは那須隊の二人が逃げなかったことですね。熊谷・日浦両隊員は点を取れずに退場しましたが、それぞれちゃんと時間を稼いでいるんですよ。二人が即逃げで緊急脱出していたら、その分、西岸の勝者が川を渡る時間が早まるわけで。そうなると、那須隊長が東岸のさで3点獲るのは難しかったでしょう。上位陣に追いつくには失点より得点が大事。玉狛と鈴鳴に1点ずつ獲られましたが、トータルでは悪くない判断だったと思います』
迅さんがしっかりとまとめた。

『二人とも、東岸の自隊のエース、那須隊長を信じてできる限りの事をやりましたね。那須隊長も二人が稼いだ時間で3点を取ることができた。流石です』
ほとんど迅さんに言われてしまったので、一言だけ。

『……続く玉狛と鈴鳴のエース対決は村上隊員が常に優勢に見えましたが、味方が落ちた対岸を気にしてか相手の誘いに最後の最後であと一歩待てなかった。そのあたりに敗因がありそうです。一方の玉狛側は東岸のことは頭にないくらいの捨て身っぷり。多分そういう指示が出てたんでしょう。エースに「任せた」玉狛とエースを「待った」鈴鳴。隊長のとった作戦の差が最終的な勝敗に結びついたということでしょうか?』

『それは結果論すぎるだろ。村上が合流してりゃ鈴鳴が普通に勝っただろうし、傍から見てもその可能性は高かった。どっちかと言えば今回は勝てる相手に負けたエースの村上が悪い。来馬はちゃんと勝算が高いから、村上を待ってたんだ。負けたら即「作戦が悪かった」ってことにはなんない。結果だけを見て戦術を語るのは意味ないぞ』

『なるほど、たしかにそうですね』

『三上ちゃんはそんなのわかってるけど、解説のためにあえて言ったんだよ』
迅さんが太刀川さんにこそっと教える。

『なにい?これ俺が恥ずかしいやつか?』
それも言っちゃうあたり太刀川さんの性格が出ている。

『両隊長とも、作戦の元は信頼だと思います。来馬隊長はエース村上隊員が当然西岸の戦いに勝って、東岸へ来てくれると信じて「待った」三雲隊長はエース空閑隊員が1人で西岸の戦い勝ってくれるだろうと「任せた」村上隊員はその信頼に応えられなくて、今回は辛い思いをしましたね。流石に水中での戦闘は考えていなかったでしょう。次はこうはいかないはずです。期待しています』

私はそう総評した。

『さて次は東岸の射手シューター銃手ガンナー対決ですが……』

『こっちはもっと簡単だな。那須にとって三雲は一対一ならいつでも倒せる相手で、実際その通りになったけど、三雲は「倒す・倒される」とは別のとこで戦ってたわけだ。最初の接触で那須とまともに撃ち合うのはきついとみて、すぐさま「トリオン切れ狙い」に変更した。戦力差をよくわかってる感じがいいな』
太刀川さんもしっかりまとめてきた。

『雨と風で長距離狙撃が封じられた雨取隊員を地形への砲撃のみに絞って動かしたのも印象的でした。
おそらく雨取隊員は一度も那須隊長の射程に入っていないはずです』
歌歩ちゃんの言葉に、千佳ちゃんの3回の戦いを見てて思った。地形への砲撃にあえて絞ったんじゃない。
それだけしか出来なかったのではないか。千佳ちゃんはあの子のように人が撃てないんじゃないだろうか。
しかし、今ここでそれを言うのはフェアではない。まだランク戦は続く。

自分の胸の内にしまっておく事にした。

『雨取隊員の動きが気になって、那須隊長も攻めきれなかったところもありましたね。雨取隊員は雨で狙撃手不利の中よくがんばりました。那須隊長は対策をしっかり考えた上で、誘導炸裂弾や一点集中変化弾などいつもと違った攻めが見られました。次も楽しみです』
玲ちゃんの射手としても活躍が見れてうれしかった。流石の一言だった。

『戦闘能力は那須の方が上だが、隊長としての「勝ちの画を描く力」は三雲が上だったってとこか』

『那須隊長はリーダー兼エースだからやっぱ負担が大きいんですよね。木虎を新エースに据えて戦績が上がった嵐山隊みたいに、那須隊長の他に点取り屋がいるとだいぶ変わるんじゃないかな。攻撃力という点では今回アドリブの炸裂弾がいい感じだったので、しっかり磨いてものにすれば強力な武器になりそうですね』
太刀川さんの意見に迅さんがフォローする。

『最後に一点もぎ取った来馬隊長の戦いぶりはいかがでしたか?」
『あれはちょっと驚いたな。前までは「村上が落ちたらもう終わり」って感じだったけど、今回は来馬が最後の最後まで粘った。大規模侵攻で何かちょっとしか変わったか?村上が来馬と太一の面倒を見なくて良くなるなら、鈴鳴は上にあがってくるぞ』
太刀川さんは楽しそうだ。

『今回は敗れた2部隊チームですが、戦闘で部隊が分断されたことで逆に進化の兆しを見ることができたと言えそうですね。そして4得点で見事勝利した玉狛第二。夜の試合の結果しだいではありますが、上位グループ入の可能性が高いと見ていいでしょう。A級予備軍と言われるB級上位部隊にどう挑むか、次の試合にも期待がかかりますね。以上をもってB級ランク戦ROUND 3昼の部を終了します。皆さんおつかれさまでした。
太刀川さん、宮木さん、迅さん解説ありがとうございました』

『『『ありがとうございました〜』』』




「太刀川さん、今日はありがとうございました」
立ち上がって歩いて行こうとする太刀川さんに声をかける。滅多に自分からは話しかけないが、勇気を出した。


「ん、ああ。久しぶりにお前と一緒で楽しかったわ……そうだ、あれ、お前も入ってるからな」
太刀川さんにあれ、と言われてもなんのことを指しているのか分からなかった。

「……あれ、ですか?」

「ウチのヤツってのに。お前変化弾滅多に使わないからあんま知られてないだろうけど、
那須くらい引けるだろ?知ってるぞ。それに俺はお前が戻ってきたっていいと思ってる」

太刀川さんに言われた言葉に目を見開く。こんな中途半端な自分を褒めてくれた。
出水君と同列で話してくれた。
太刀川隊の名誉を傷つけた自分に戻ってきて良いと言ってくれた。


「……太刀川さん」
もうだいぶ経つのに、まだ自分には未練があったのか。何も言えずにいると、

「こらこら太刀川、尚美を勧誘するのはやめてくれないかな?尚美はもう立派な真野隊の一員だよ」
依織さんが私の後ろで太刀川さんに釘を刺す。

「依織さん、なんで?」
いつのまに来ていたのだろうか、観覧席にはいなかったように思った。

「ん?迅から連絡があったから、隊の子が引き抜かれますよって」
「真野さんに見つかったか、ヤベーヤベー」
太刀川さんはそう言ってはいるが、顔は笑っている。

「ま、尚美、また作戦室遊びに来いよ、国近も待ってるぞ」
そう言って手をひらひらと振って行ってしまった。



「尚美、良かったね」
依織さんがにっこり笑って私の頭を撫でてくれた。

「……はい」
目には涙が浮かんでいたが、それに気づかないふりをしてくれていた。





依織さんと2人で作戦室までの道を歩いていると
「尚美さんお疲れ様で〜す!」
後ろから肩を叩かれる。

「ひぃ?!!」
思わず変な声が出た。
振り返ると二宮さんと出水君がいた。おそらく上でランク戦をみていたのだろう。


「ひぃって酷いなぁ。解説見てましたよ!」
「見なくていいです!」
「ほら、尚美そんなこと言わないよ、人からの意見も聞くもんだ」
感想については聞きたいような聞きたくないような。


「太刀川さんの解説心配してたんですけど、尚美さんのフォロー良かったですね!」
「……あなたのところの隊長どうなってるの?」
「え〜そんなの尚美さんだってよく知ってるでしょ?」
出水君はケラケラと笑う。

「匡貴は?」
「ん?」
「可愛い弟子の解説、聞きにきてくれてたんでしょ?」
依織さんが二宮さんに話を振る。

私は恐る恐る二宮さんの顔を見た。

「……宮木の読みは当たってたし、説明も的確だった。成長したな」
「そうですか?!」
二宮さんに褒められたのが嬉しくてつい前のめりになってしまう。

「ただ……」
出た!いつもの二宮さんの飴と鞭。

「お前の勘は天性のものではあるが、今までの経験から培ったものもある。そこらへんからくるものの説明がまだまだ甘いな」
「……はい」
二宮さんにはバレていた。

私は以前からなんとなくこれは違うな、これはこう攻めそうだなとだけ何となくわかる時はつい言葉を濁してしまうのだ。
もう少しその考えに至る理由を説明しないと、観客は理解できない。

「精進しろ」
二宮さんは私の頭にポンっと手をやってそのまま依織さんと話しながら先に行ってしまった。

「……」
頭を撫でられた事にポカンとして立ち尽くした。


「最近、二宮さんが甘い……」
「前からでしょ」
出水君が隣で突っ込む。出水君は先ほど帰った太刀川さんを追いかけないでいいのか。



とりあえず3日目も無事に終わってほっと一息ついたのだった。

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