「I have a bad feeling about this.」
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20


それは私が高校で友人とお昼ごはんを食べている時だった。

「ん?」
机に置いていた携帯が震えた。誰かから連絡がきたようだ。


「珍しい……」
見てみると烏丸君からだった。彼から連絡なんていつぶりだろう。


「何〜男か〜!」
「……ボーダー関係」
高校で一番仲のいい友人二人は私がボーダーに所属していることをもちろん知っている。
任務で授業に出れない時はノートを貸してくれたり、先生が授業中に言う「ここテストに出るぞ〜」を教えてくれたりして助けてもらうことが多い。
助けてもらってばかりでいつも申し訳ない気持ちになるが、ちゃんとその分見返りは払っている。
お互い win-winの関係である。


「何々?!本当に男なの?!嵐山さん?!」
「それとも、王子くん?!」
2人が前のめりになって聞いてくる。
嵐山さんは広報誌によく載っていることから好きなのだろうが、王子君の名前が出たことに驚いた。
去年学園祭の時に来てたのを見て覚えていたのだろうか。
会長と並んで歩く姿はたしかに目立っていた。



「……違うよ、後輩」
イケメンだけど、と心の中でだけ言う。
流石に六頴館までは烏丸君の噂は流れていないだろうが、名前は言わないようにする。三門市立高ではファンクラブがあると聞いたことがあるからひょっとしたらイケメン大好きな友人二人は存在を知っているかもしれない。


「ボーダーの人ってイケメン多いよね!」
「この間の広報誌、片桐隊の特集してたの見た?」
「見た見た!雪丸君カッコイイ〜!」
友人2人は勝手に盛り上がり始めたので、放っておいてメッセージの内容を確認する。
弟子の三雲君が射手シューターの実戦的な手を知りたがっており、嵐山さんと出水君にも頼んでいるが、私にも教えてほしいと言った内容だった。
出来れば早めにお願いしたい、とも。

そう言う事なら大歓迎だ。すぐに返信する。


――今日は学校が終わったら狙撃手スナイパーの合同訓練で本部にいるから、それが終わった後で良ければ、教えるよ――


送ったと思ったらすぐにまた携帯が震えた。
烏丸君も今日は登校していて、今の時間はあっちも昼休みなのだろう。それで返信も早いわけだ。学業と、ボーダー、アルバイトを掛け持ちしている彼は日々忙しい。


――ありがとうございます。よろしくお願いします。出水先輩と時間がかぶりそうなので、一緒に教えてやってもらえませんか?――


……出水君と一緒に教えるの?
すぐにまたメッセージが届く。

――尚美さん、京介から聞いた?何時にします?――

出水君だ。きっと、烏丸くんから聞いてすぐに連絡してきたのだろう。フットワークが軽い。


「何?!尚美デート??」
「出水?誰?男だ!」
「京介って人も誰?!」

出水君とのメッセージ画面を開いたまま悩んでいたので、友人2人に内容を見られている事に気づかなかった。興奮しているのか、大きい声で言われて、慌てる。


「わ!勝手に見ないで!マナー違反!」

携帯をさっと隠す。特にやましいことはないが見られるのは好きではなかった。ボーダー関係は機密事項もある。

「ごめんごめん、気になったんだもん」
「で?誰?出水君??」


目を輝かせながら聞かれる。これは楽しんでいるな。

「だから、2人ともボーダーの後輩」
私はその手の話題はあまり得意ではない。

「なんだ〜尚美は年下狙いか〜」
「……なんでそうなるの」
「え、後輩に紹介してもらって、その人とデートするんじゃないの?」
「違う!」

この2人はなんでも恋愛に結びつけたがる。
周りに勘違いされても嫌なので、必死に否定したが、
「わかったわかった、そう言う事にしておくね」とにんまり笑うだけで本気に受け取ってもらえなかった。


気がつけば昼休憩が終わる3分前になっていて、慌てて次の授業の準備をし始める。
とりあえず出水君には狙撃手合同訓練が終わる19時半はどうか、と返信しておいた。



今日の授業が全部終わり、携帯を確認する。
出水君からメッセージが来ており、烏丸君へ19時半に太刀川隊の作戦室にくるように三雲君に伝えて欲しいと連絡したので、私もその時間に来てほしい、と書いてあった。


太刀川隊の作戦室に行く事に少し迷ったが、それに了承する旨を返信してカバンを持った。他に練習するいい場所を思いつかなかった。作戦室であれば他の隊の人に見られることはない。情報は秘密にしておくべきだ。次のランク戦に勝つためには。




「宮木、今日本部に行くだろう?荒船と犬飼も行くみたいだから一緒に行こう」
鞄を持って立ち上がったところで同じクラスの会長に話しかけられた。

六頴館の三年生ボーダーは私を入れて4人。荒船君と犬飼くんと会長と私。私の他に女子が1人もいないのは寂しいが、こうやって学校終わりに誘ってみんなで本部まで行くことが多い。


会長と廊下に出ると、すでに荒船君と犬飼くんがいて、私達が最後だったようだ。



「すまん、待たせた」
「いいよいいよ〜会長のとこホームルームいつも長いもんね、それじゃ行こっか」
会長と犬飼くんがやりとりして、4人で歩き出す。



「宮木、今日何時からだった?」
「えっと17時半からだよ」
道の途中で荒船君に聞かれて、携帯のスケジュールを確認する。
するとメッセージが来ていた。烏丸君からだ。



「ごめん、ちょっと」
立ち止まってメッセージを確認する。今日の三雲君のことだろうと思い、急いで内容を見る。


三雲君を今日本部に行かせるからよろしく頼む、と言った内容だった。
一人前に師匠してるんだと思わず笑顔になる。
私はまだ弟子を取ったことはないが、出来たら烏丸君みたいな感じになるのかな。
自分が一丁前に人に教えているところなんて想像できないけど。


「尚美チャン楽しそうだね。デートするんだって?」
「え?」
「噂になってたよ」
予想していない事を聞かれて、驚いて犬飼くんを見る。笑顔だったが、なにやら怖かった。
底が見えない。


「……勘違いです」
思わず敬語になる。
何故昼休みに友達がした勘違いを違うクラスの犬飼くんが知っているのか。そもそも噂とはなんだ。


「ああ、うちのクラスにもその噂流れてたぞ」
荒船君も話に入ってくる。
昼休みから帰りの時間まででそんなに広がるのか。一個人の雑談の内容が。誰だそんな根も歯もない噂を流したのは。

「違うよ、射手の戦い方教えてほしいって言われたの、それで今夜本部で会うんだよ」
「ああ、それで烏丸と出水と連絡とってたのか」
どうやら会長も私と友人が昼休みにしていた話を聞いていたようだ。

「誰に教えるの?とりまるくん?」
犬飼くんが話に突っ込んでくる。

「ちがうよ三雲君だよ」
「三雲君っておれ次当たるじゃん」
犬飼くんは次のランク戦で玉狛第二と対戦予定になっている。

「玉狛第二、今回デビューして凄い勢いで上がってきてるな。ついに上位と当たるわけか」
会長もチェックしているようで話に入ってくる。本人の所属する王子隊も上位グループに入っているので気になるのだろう。
「荒船は玉狛のエースにしてやられたんだもんな」
「会長までそれを言うか」

「なに、2人きり?」
会長と荒船君が話しているのを横目に犬飼くんがまた聞いてくる。

「違うよ、出水君と教えるから太刀川隊の作戦室に行くし」

「お前、太刀川隊のとこ行くのかよ。つか宮木と出水に教えてもらうって、贅沢だな」
「真野隊だと出水君が気を使うだろうし、私も慣れてるから」
荒船君が言おうとしていることはわかるが、こちらもなにも考えていないわけではない。
私も出来ることならあまり行きたくはなかった。行くべきではないと思う。


「尚美チャン終わったら連絡して。帰り送ってくから」
「え……」
まさかの犬飼くんの申し出に私はうろたえる。何故今ここで誘うのだ。そもそも三雲君に教えていたら何時になるかわからないし、人を待たせるのも気を使う。犬飼くんにだって予定はあるだろう。
今度のランク戦に向けてミーティングとか訓練とかするはずだ。


「何、嫌なの?」
「何時になるかわかんないから……」
「何時になってもいいから終わったら教えて。作戦室で待っとくから。いいね?」

笑顔でゴリ押しされる。いつもの犬飼くんの手だ。

どうしようかと迷ってちらっと他の2人に助けるような視線を向ける。

「宮木、犬飼の言葉に甘えたらどうだ?女性が遅くなるのは危ないだろう」
なんと会長は犬飼くんの肩を持った。
「そうそう、夜はあぶねーぞ」
荒船君もだ。


この3人は急にどうしたのだろうかと思う。

確かに夜道を女性が一人で歩くのは危ないだろう。
しかし、私の家というか部屋は本部基地内の居住スペースにあるのだ。

3人の理論で言うと、基地内に不審者が出るような言い草だ。
しかし何を言ってもこの3人は意見を曲げない。いつもそうだ。

なんでも決めるときは3人で勝手に決めてしまうことが多い。私が異論を言っても受け付けてはくれないのだ。


「わかりました……連絡します」
犬飼くんにしぶしぶそう答えたのだった。





本部基地についてからは犬飼くんと会長と別れて、荒船君と二人で訓練室へ入る。
別れる前に「必ず終わったら連絡してね。忘れてたらわかってるよね?」と脅しのような言葉を犬飼くんから掛けられた。



「今日の訓練何だろうね〜」
「通常狙撃訓練って東さんが言ってたぞ」
「そうなんだ」
あれ、苦手なんだよなぁと思いながら歩く。どうしても実力の差が出やすい訓練だ。私は他の正隊員と比べるとまだまだ実力不足だ。


「あと、お前犬飼と報連相しっかりやっとけ」
「ほー、れん、そう」
荒船君に言われて復唱する。

「今回のやつもお前何にも言ってなかったろ」
「今回って、三雲君に教えるやつ?」
「それ以外あるかよ。本人から聞くならまぁ許せるが、他から聞いて面白くなかったんだろうよ」

責められるように言われて肩身が狭かった。こうやっていつもみんな犬飼くんの肩を持つ。男の友情ってやつなのか、なんなのか。


「……」
けど、今日言われた事をそんなすぐに言うべきなのか、わざわざ会って報告しろと。
犬飼くんに「何?そんな事わざわざ言いにきたの?」と鼻で笑われそうで、嫌だった。



「荒船、取っといたぞ、場所」
「荒船さん、遅いですよ」
穂刈君と半崎君の2人が荒船君を呼ぶ。

「ああ、行く。宮木じゃあな」
「うん、荒船君、ありがとう!」
荒船君に手を振って分かれる。


今日は頼さんも訓練に参加すると聞いていたので、頼さんを探し始めるがなかなか見つからない。
あんな美人すぐにわかるはずなのに。


「尚美先輩!」
「茜ちゃん」
那須隊の茜ちゃんが声をかけてきてくれて、こちらへ駆け寄ってきてくれた。

「この間は解説ありがとうございました」
先日のROUND 3で那須隊が出ている試合を解説したからか、お礼を言われる。
あれは迅さんと太刀川さんが相手でものすごく疲れた。

「いやいや、こちらこそ。MAPなかなか無い設定で面白かったね。誰が考えたの?」
「ありがとうございます。みんなですっごく相談して決めたんですよ!私あっちに場所取ってるんです。頼さんも隣です。尚美先輩の分もとってありましたよ」
「ほんと?ありがとう」


茜ちゃんの後ろについて行く。行った場所には頼さんが普段使っている鞄が置いてあった。


「頼さんどっかいっちゃったのかな……あ〜〜〜っ!にゃんこだ〜〜〜!」
茜ちゃんが、出穂ちゃんの頭に乗っているネコを見つけて走って行ったので、私もそちらに行く。まだ頼さんは来ていないようだ。

「那須隊の……日浦先輩。それに尚美先輩も」
千佳ちゃんが私たちを見て挨拶する。

「日浦先輩猫好きなんすか?」
「大好き!」

茜ちゃんは出穂ちゃんの問いかけに即答した。
ネコは出穂ちゃんにくっついて落ち着いている。

「出穂ちゃんに懐いているね」
「尚美先輩!こいつ飼っていいですかね?ここで!」
ずいぶん呑気なネコだ。安心しきってる。


「どうかな……東さんとかに聞いてみる?」
自分では判断しかねた。私としてはここにいてくれたら癒しになっていいと思うが。


「ぐむむぅ〜〜」
「?どしたんすか」
「なでていいのかダメなのか……!読めない!この子の表情は読めない!」
茜ちゃんは手をわきわきさせて悩む。

「だいじょぶだと思うっすよ」
すると、出穂ちゃんの頭にのっていた猫が飛んだ。

「お?なんだこのネコ助、積極的だな」
今度は当真君の頭にネコが乗った。人の頭に乗りたいタイプなのか。人懐っこいと言うべきか。


「当真先輩!いいな〜!」
茜ちゃんが羨ましがる。よっぽどネコに触りたいようだ。

「リーゼント先輩、すんませんウチの猫が……」
「俺のリーゼントに乗っかるとは。違いのわかるネコ助じゃねーの」
本人は全く気にせずそのままにさせている。私は久しぶりに会った当真君に声をかける。


「当真君」
「宮木じゃねえの、体はもう大丈夫なのか?」
当真君は入院中に同学年のみんなでお見舞いに来てくれていた。
来てもほぼソファーに寝そべっていたけど。


「久しぶり、うん大丈夫だよ。それより、卒業できそう?今ちゃんにまた怒られるよ?マキリサちゃんにも」

もうすぐ高校も卒業だ。六頴館では卒業試験も終わり、全員の卒業が無事に決まっている。三門市立高校はどうなのだろうか。

「……まぁ、なんとかなるんじゃね?国近とカゲに言えよ」
当真君は目を逸らして、そのまま近くにいたユズル君に話しかけた。


「なぁユズル」
「訓練始まるよ当真さん」
「……あれ?俺の荷物こっちだっけ?」

完全に逃げられた。



「尚美ごめん、場所わかった?」
頼さんも戻ってきたようだ。

「はい、茜ちゃんに教えてもらいました」
「そっか、茜ありがとう。そろそろ始まるよ」
「はい」

頼さんの隣のブースに荷物を置いて、訓練が始まった。







無事に訓練が終了し、頼さんと話を始める。

「尚美、少し右に寄るクセがあるね」
「はい、意識すると余計に」
「尚美先輩、それでもすごいです!私より後に狙撃手始めたのに」

茜ちゃんが横から話に入ってくる。


「ありがとう茜ちゃん。茜ちゃんはバランスよく撃ててるよね」
「そうですか?ありがとうございます」
「順位をそんなに気にするものじゃ無いよ、真面目にしてない子もいるし」

頼さんはちらっと奥の方のブースをみて話す。


茜ちゃんの隣には出穂ちゃん、その隣に千佳ちゃんが居て、二人も順位をみて話していた。


「1位は……またナラサカさん?うへぇ何これやっぱバケモンだわ!」
「……」
「茜ちゃん、貴女の師匠バケモンだって」


奈良坂君のあまりの言われように面白くなった。


「たしかに化け物並の凄さだよね」
頼さんも笑っている。


「奈良坂先輩はわたしの師匠だよ」
茜ちゃんが二人に話しかけて、奈良坂君を紹介する事になった。

私も頼さんと挨拶がてらついて行く事にする。


「奈良坂先輩〜〜」
「日浦。それに元村さんと宮木先輩も」
「奈良坂、この間ぶり」


頼さんはこの間の大規模侵攻のときに奈良坂君と一緒だったようだ。

「宮木先輩体調はもう良いんですか?」
「うん、ありがとう」
「もうこれに懲りてあんな無茶しないで下さいよ」
「……はい」

頼さんと一緒ということは一部始終を見ていたということで、あの換装を解いたところも見られていたらしい。これは痛い。

というか、未だに会う人会う人に体調を心配されるのはくるものがある。本当に気をつけようと思った。


「さすが奈良坂先輩。今回もダントツ1位ですね!」
「そうでもないよ、当真さんたちの的を見てみるといい」

「……?」
茜ちゃんは奈良坂君に言われた通り、当真君とユズル君の的を見る。出穂ちゃんと千佳ちゃんも一緒だ。


「なにこれムダに正確!」
「最初から点取る気なかったんだ……!」

当真君はニコちゃんマーク、ユズル君は星を描いていたのだ。

「当真君、やる気あるのかないのかわかんないよね」
「こんな感じなのに未だに点数越せないのが悔しい」

頼さんと的を見ながら話す。当真君もユズル君も実力は確かだ。


「点数だけじゃ実力は測れない。型にはまらない「自由な才能」が存在するからな」
奈良坂君が言うが、その通りだと思う。


「いや〜〜頭にネコ助乗っけて狙撃すんのは初めてだぜ。なかなか新鮮な体験じゃねーの」
当真君はあの狙撃を頭にネコを乗せたままやったのだから恐ろしい男である。
私であればブレブレだっただろう。


「奈良坂もやってみ?楽しいぜ?」
「遠慮しておく」

狙撃手の1位と2位は性格が正反対だ。
「元村さんは?」
「私も良い。当真みたいには行かないし」

「絵馬くんすごーい!いつも訓練の順位が低いのはこういうことしてたからなんだね!」
「マジ技術いわ」
茜ちゃんと出穂ちゃんが次々にユズル君を褒める。

「別に……こんなのただの遊びだし……」
慣れたようにユズル君は答えた。

「ううん、ほんとすごいよ。ほんとに自由自在だね!」
「……」
千佳ちゃんが褒めるとユズル君はその顔を赤くさせた。


「おー?なんだユズルモテモテじゃねーか。こいつ絵馬ユズル14歳。お嬢さん方仲良くしてやってね』
当真君がユズル君の頭を叩きながら出穂ちゃんと千佳ちゃんに紹介する。


「へーうちらと同い年じゃん。年下かと思った。アタシ夏目出穂」
「雨取千佳ですよろしく」
「……どうも」

二人も名乗る。
同い年で仲良くなればいいなと思い、頼さんと二人で静かに見守る。
狙撃手の練習では年上が多いので、同い年の友人は貴重だろう。


「雨取ちゃんはあれだよ、玉狛の大砲娘だよ」
「大砲娘……?」
茜ちゃんが千佳ちゃんのことを教えるが、ユズル君はわかっていないようだ。

「試合の記録ログとか見てない?」
「オレあんまムービー見ないから……ただ、今シーズンのランク戦は尚美先輩が解説にずっと出てるって事だけは知ってる」
「何で知ってるの?!」

あまり噂などに興味のないユズル君が知ってる事に驚く。


「俺も聞いたぜ〜真野隊の分ぜんぶやるらしいじゃねーの。大忙しだな、宮木」
「当真君も?」
「ゾエさんに聞いた」
「俺は真野さんに聞いたぜ」
「なるほど……」
「ああ、それで宮木先輩この間も出てたのか」

奈良坂君にも言われる。三輪隊はランク戦室で見る事も多いからバレるのは時間の問題だとは思っていたが。


「何でそんな事になったんですか?尚美先輩、解説ほとんど出た事なかったのに」
「色々あるんですよ……」

「怪我して心配かけた罰だよ」

茜ちゃんに聞かれて、濁そうとしたが、頼さんによってすぐにバラされた。


「ユズルってリーゼント先輩の弟子なわけ?」
「そうそう」
「違うよ」

出穂ちゃんの質問に当真君とユズル君が異なる回答をしたので、千佳ちゃんと出穂ちゃんはハテナマークを浮かべる。


「この人は勝手に師匠面してるだけ」
「おいおい切ねー事言ってくれるじゃねーの。悲しいぜ俺は」
「何回も言わせないでよ。俺の師匠は鳩原先輩だけだ」

ユズル君がその名前を言った時、自分の体が強張ったのがわかった。

「……!」
「「はとはら先輩」……?」



「わ、時間だ行かないと」
私はわざとらしく声を出してその場を立ち去ろうとする。
元々この後用事があったのは確かだ。


「じゃあ、私はこれで。頼さんも失礼します」
事情を知っている頼さんは引き止めずにいてくれた。
ユズル君だけが私に何か言いたそうな目で見ていた事に気づけなかった。





読んでも読まなくてもいいおまけ↓
出来れば初回は読まない方がいいかも。
19.5

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