「I have a bad feeling about this.」
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携帯で時間を確認すると19時を過ぎていて、本当にそろそろ行かないといけない時間だったことを知り、太刀川隊の作戦室を目指す。

作戦室がある廊下に行くと、そこにはすでに三雲君がいて、太刀川隊の唯我君と話していた。


「三雲君、遅くなっちゃった、ごめんね」
「宮木先輩」
声をかけると、三雲君は安心した表情になった。何か困っていたのだろうか。


どうしたの?なんかあった?
三雲君にそう聞こうとしたが、その前に遮られた。

「宮木先輩!お久しぶりです!相変わらず美しい!」

唯我君に両手を握られ、すごい圧で話しかけられる。


「唯我君。うん、久しぶり。相変わらずお世辞が上手だね」
「いえ、そんなことありません!本当のことを言ったまでです!……君は出水先輩だけでなく、宮木先輩にも約束を取り付けているのかい?A級の我らに?疑わしい」

三雲君は唯我君にずいっと顔を近づけられてた。



「宮木先輩、やはり宮木先輩は太刀川隊が相応しいと思います。真野隊も素晴らしいですが、A級1位こそあなたの場所だ」
「えっと、唯我君ありがとう。そう言ってもらえて嬉しいよ」
「上がどうしてこんな処断を下したのかはわかりませんが、僕が上に言えば……」


「ぅおいコラ唯我あぁぁ!お前尚美さんに何してんだよ!」
「おぶっ!」


急に現れた出水君が唯我君に飛び蹴りをかまして、唯我君が吹っ飛んだ。


「おれの客にも何やってんだこのやろう」
「はっはっはっ」

出水君の後ろには太刀川さんもいる。

「尚美さん、待たせてすいません」
「ううん、出水君。今来たところだよ」
「よぉー、尚美元気そうだな」
「はい、太刀川さん」

この間、太刀川さんとは解説で一緒だったが。

「い、出水先輩!いきなり飛び蹴りなんて非道い!」
「痛いフリすんなトリオン体だろーが」

相変わらず太刀川隊のメンバーは唯我君に厳しい。


「心が痛むんですよ!」
「わりーなメガネくん遅くなった」
「いえあの……この人は……?」
三雲君は戸惑いながら出水君に唯我君の事を訊ねる。

「ウチのお荷物くんだよ」
「あんまりです出水先輩!ボクは純粋に使命感から不審者を排除しようと……」
「やかましい」

出水君はばっさりと切り捨てた。


「こいつが迷惑かけたら言ってくれ。おれが責任もってケリを入れる」
「暴力支配だ!弁護士を読んでくれ」
「あと唯我、お前尚美さんは諦めろ」
「なんでですか?!可能性があるのに諦めません!」
「なんでお前に可能性があると思うんだよ……」

出水君は何やら顔に手をやってため息をついた。
私はつい申し訳なさそうな顔をする。確かに太刀川隊には戻る気はないし、戻れない。


「どしたどした〜〜?何を揉めとるかね〜〜?……あ!尚美!」
「柚宇ちゃん」
作戦室から柚宇ちゃんが顔を出した。


「お〜!たまには遊びに来なって言ったじゃん」
「うん、なかなか来れなくてごめんね」
歓迎されていることが照れ臭かった。


「柚宇さんあのねこのバカが……」
「国近先輩!ボクは悪くない!」

出水君と唯我君がそろって柚宇ちゃんに話しかける。


「ほうほうふーん……太刀川さんなんか隊長っぽいこと言って」
柚宇ちゃんは結局太刀川さんに話を振った。


「よーしおまえらケンカすんな」
そんな太刀川さんは何故かどら焼きを食べている。おそらく三雲君が持ってきたものだろう。
三雲君の手には開封されたお菓子の箱が乗っていた。

「唯我おまえ落ち着きがなさすぎ。もうちょっと自覚もって行動しろ」
「自覚……?」

まさか太刀川さんがそんなことを言うなんて。
No.1攻撃手アタッカーの自覚が太刀川さんにあるのかは怪しいところである。
2人のやりとりを静かに見守る。


「いいか良く聞け。今からちょっといいこと言うぞ。うちの隊章を見ろ。刀が3本あるな?」
私も一緒に隊章を見る。この話は以前太刀川さんから聞いたことがあるので知っている。


「これは一本目が俺。次の一本が出水を表している。そんでこの最後の一本が……」

唯我君は期待した目で太刀川さんを見るが、何かを知っているので唯我君がかわいそうに思えた。



「俺の二本目の刀だ」
その答えを聞いて唯我君は涙を流していた。そりゃそうだろう。


「つまりおまえはまだ半人前だからでかい顔しちゃダメってことだな」
追い打ちをかける。

「残酷すぎるフェイント!!」
「太刀川さんわたしは〜〜?」
柚宇ちゃんが訊ねる。


「国近はこれバックの三日月」
「おっいいポジション」

3本目の剣は以前聞いていた話とは違うが、もういないメンバーだ。
そして闇夜に輝く月と刀。闇夜があるから映えるんだと。そう以前は言っていた。
こじつけのようで当時、話半分に私は聞いていたが、本当はどうなんだろうか。




そのあと太刀川隊の作戦室に行って三雲君の話をまず出水君と一緒に聞くことになった。

相変わらずここの作戦室は荷物が多く、乱雑としている。



「「一人でも点獲れるようになりたい」?いいんじゃねぇの?射手シューター以外全滅して一人で戦う場合だってあるしな、ねぇ尚美さん」
「そうだね、ランク戦で勝とうと思うのなら点が取れるに越したことはないよね。実際私たちだって点獲りに行くことはあるし」
「嵐山さんはなんて言ってた?」
「嵐山さんたちは……」


三雲君はここに来る前にすでに嵐山隊の作戦室に行って嵐山さんに教えてもらっていたらしい。
内容は「相手の防御を外す」「そもそも防御をしていない相手を狙う」などのポイント踏まえた技で、嵐山さんと時枝君にしっかり教えてもらったようだ。一緒にいた藍ちゃんには厳しく言われたようだが。


「はぁーー?相変わらずクソ生意気だな木虎のやつは」
「藍ちゃんは自分にも他人にも厳しいからね」

入隊したての頃は若いのと、女性ということもあって周りの目も厳しかったはず。

「けど、さすが嵐山隊はちゃんとしてんなーおれもう教えることなくない?」
「うん、私も防御ガードを崩す、って点を教えようとしてたよ」
「尚美さんはそうだよな」
「……出水先輩は合成弾の名手だと伺っています。ぼくはこの前の試合で合成弾の威力を身をもって味わいました」

玲ちゃんの変化炸裂弾トマホークか……
黙って話を聞く。


「合成弾を覚えたいってことか?アレは強えーけど素人が使うと隙だらけだぜ?まずは射手の実戦経験積むところからだろ」
「実戦経験ですか……」
「私も出水君の意見に賛成だな。いきなり合成弾は難しいと思う。慣れないと合成するのにすごく時間かかるし。まずは変化弾バイパーとか追尾弾ハウンドの細かい調整をしていくのに慣れたほうがいいよ」

「尚美さんがいるから追尾弾は教えてもらったほうがいいぜ、メガネくん」
私は確かに射手のトリガーの中では追尾弾を一番よく使うし、得意だ。
これだけは胸を張って三雲君に教えられると思っていた。
「……そうだな……よしちょっと待ってろ。唯我ちょっとこっち来い」
出水君が太刀川さんと柚宇ちゃんの横に座ってゲームを見ていた唯我君を呼ぶ
「はい?」
「こいつはA級の中で間違いなく最弱。B級と比べてもけっこう見劣りするレベルの弱さだ」
「……」

否定することもできなかった。


「それでも単独の戦闘力ならメガネ君よりはまだ上。メガネくんが工夫すればなんとか勝てるくらいの相手だと思う。とりあえずこいつに1対1で100勝。それができたら合成弾を教えてやる。尚美さんもそれでいいですよね?」
「うん、いいと思う」



「……え?何?」
唯我君だけが話について行けていなかった。

「断固!!断固お断りする!!個人戦はボクの得意分野ではない部隊チーム戦でフェアな戦いを所望する!」
「うるせー唯我。さっさとスタンバイしろ」

椅子にしがみつく唯我君を出水君が引き剥がそうとする。


「うーん、部隊戦してもいいけど、それなら唯我君と出水君、私と三雲君でやろうか」
私は三雲君に追尾弾の使い方を教える予定なので、味方チームの方がやりやすいと思ったのだ。


「それはだめです!!」
「唯我!いい加減にしろ!」
「彼がボクに100勝する!?論理的に考えてそれはボクが100敗するのでは!?」

確かにそうだ。

「わかってる!わかってますよ!出水先輩のやり口は!B級にボクを叩かせて誇りをへし折るつもりでしょう!?」
「それがプライドある人間の動きか」
「前途ある若者の心が今!蹂躙されようとしている!人権団体を呼んでくれ!」


「……はぁ、しゃーね、尚美さんからも言ってやってよ」

「私?」

出水君に言われて、慌てる。

確かに私と出水が直接相手をするより、三雲君が戦っているのを横で見て教える方がわかりやすいだろう。
出水君だけがお願いするのもおかしい話だし、自分もお願いしろと言うことか。


「唯我君、こんな事唯我君にしか頼めないんだ、お願い出来る?」
太刀川さんには実力差がありすぎて頼めないし、と心の中で思う。


「はい!この唯我喜んで!」
「現金なやつ……」
先ほどから黙って様子を見ていた三雲君は引き攣った笑いをずっとしていた.




「はっはっはっは、残念だったね三雲君。A級の実力を見せつけてしまったようだ。少々大人気なかったかな?」
「やかましい下りろ」
唯我君が建物の上で嬉しそうに三雲君に話すのを出水君が厳しく言う。

最初の10本は8-2で唯我君の勝ちだ。

それが今の実力差。



「なるほど……」
「嵐山さんたちに技を習っても実際当てるのは難しいだろ?まぁとりあえず2勝だメガネくん。残り98勝。先は長いぜ。今日はこのへんにしとくか?」
「……いえもう10本お願いします!」

三雲君は前の風間さんとの模擬戦もそうだったが、粘り強い。


「何度でも挑戦して来たまえ。後輩のために胸を貸そうじゃないか」
どうやら唯我君も三雲君を気に入ったようだった。


「三雲君、追尾弾って使ったことある?」
三雲君に訊ねる。


解説の時に見た感じでは無かったようだが。
「いえ、まだ無いです」
「そっか、じゃあとりあえず50勝したら教えようかな。まずは通常弾の使い方から!置き玉をしてみようか」
何事も基本からがモットーだ。


「はい!」











「おかえり、尚美」
「尚美チャンおかえり〜!」
「……なんで?」
三雲君の訓練が終わってから約束通りに犬飼くんに連絡を取ろうとして、その前に真野隊の作戦室に入った。
そこには依織さんがいて、何故が犬飼くんも一緒だった。


「なんでって、真野さんが入って待って良いって言ったから」
「依織さん……」
「良いじゃない。私も久しぶりに話をしたかったし」
どうやら私を待っている間に二人は話をしていたようでテーブルにはお茶とお菓子があった。


「じゃあ、真野さんおれ達はこれで」
犬飼くんがさっと立ち上がって、自分の使った分の食器を下げようとする。

「いいよ、私が片付けとく。尚美をよろしくね」
「はい」
「えっ、依織さん、失礼します」
犬飼くんに連れられてすぐに作戦室を後にすることになった。






「しばらく続けることになったの?」
「うん、とりあえず次のランク戦までは」
詳しいことは次に三雲君に当たる犬飼くんには話せないが、三雲君の訓練にしばらく付き合うことを話しておく。
荒船君に言われた通りの報連相だ。

確かに犬飼くんには秘密にしてても何故か知ってることが多く、ただ話していなかった事も当たり前のように知ってる時がある。
黙っていると面倒なことになる時もあるので、早めに自分から話しておく作戦だ。


「ふーん、まぁいいんじゃない?何、弟子にでもするの?」
「まさか、三雲君の師匠は烏丸君だよ」
「へー、そうなんだ」


本部基地内の居住区までの道を歩きながら話す。


「尚美チャン、三雲君に随分優しいんだね」
「そうかな?教えてほしいって言われたら教えてあげるのが先輩の務めじゃない?犬飼くんだって、若村君に教えてあげてるじゃん」
「まぁそれはそうだ」


犬飼くんはけらけら笑う。


「それに、三雲君には借りがあるから」
「借り?」
様子を窺うように訊いてくる。


「ちょっとね」
三雲君の事を殴ったとは言いづらく、答えを濁す。


「…ふーん、まぁそれはまた別の機会に聞くことにするよ」


部屋まで着いた。


「じゃ、おれはここでね」
「うん、送ってくれてありがとう。犬飼くんも気をつけて帰ってね」

手を振って見送った。


わざわざ送ってくれるなんて優しいもんだ。犬飼くんの後ろ姿を見て思った。
やっぱり心配してくれてたのかな。自分が久しぶりに太刀川隊の作戦室に行ったこと。
そう思いながら、扉を開けた。





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