「I have a bad feeling about this.」
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2月15日 B級ランク戦第4戦 当日


前日まで三雲君の訓練を見ていたが、50勝には届くことはなかった。
お昼に防衛任務をこなし、今回は解説は頼まれなかったので良かったと思っていたところに桜子ちゃんから話が来た。


「え、いや、ほんと、無理だよ!それは無理!」
「お願いします〜!綾辻先輩遅れそうで、来るまでで良いので」
「解説ならまだしも実況は……他のオペの子いないの?」

解説ではなく、実況をしてくれないかと言われたのである。

「みんな手が空いてないんです!」
まことは裏の試合の実況をする予定で、代わってもらえない。
桜子ちゃんは本当に困ってるのか慌てている。そんな桜子ちゃんの所属する海老名隊は今から防衛任務で、引き継ぎで会ったところに頼まれたわけだ。


「えっと、解説は誰がするの?」
「風間さんと加古さんです」
年上、頼りになる先輩達。


「尚美やってみたら?これも経験だよ」
横から依織さんに言われる。


「綾辻も嵐山隊の仕事が忙しいんだろう。助けてあげなさい。これで誰も掴まらなかったら、綾辻も気が病むよ」
「私も事前に機器の扱い説明しますから」
まことにも言われる。


確かに、ここ最近は入隊希望者が多く、嵐山隊の仕事が多忙になっていると聞いた。
次回の入隊日はまた手伝いに駆り出されることが決まっている。
それに風間さんと加古さんならしっかりしてるし、よく話す方だから大丈夫かと考えた。
大体の操作方法はわかるが、まことが教えてくれるなら心強い。



「じゃあ、私が実況やります……」
「ほんとですか〜!ありがとうございます!助かります!皆さんには私から伝えておきますんで!

桜子ちゃんはそう言ってあわてて走って行った。


「そういえば、どこの実況ですかね。中位ですか?」
ふと思って周りに訊ねる。


「私が中位なので、尚美先輩は上位だと思いますよ」
まことが答える。


「……上位??」
「昼の部が生駒隊、王子隊、弓場隊でしたよ〜」

カンナが教えてくれたのを聞いて、だんだん自分の顔色が悪くなって行く自覚があった。


「……やっぱり止めるとか無いですかね?」
「ダメでしょ」
頼さんにばっさり言われた。






「マップを見るときはこうして」
「うん」
「複数カメラを映すときはここです」
「うん」


実況席に座ってまことから簡単に機器の使い方を教えてもらう。
開始まであと10分。もうすぐだ。


「なんだ、お前が実況するのか?」

解説の風間さんがやってきた。


「あ、風間さんお疲れ様です。遥ちゃんが来るまでの繋ぎですよ」
「そうか、真野隊は大変だな」


隣に風間さんが座る。


「俺も実況は以前にした事があるから分からないことがあったら聞いてくれ」
「……風間さん!!」

前にも思った事だが、風間さんはなんて素敵な大人なんだろうと、感動していた。


「じゃあ、私そろそろ行きますね。尚美先輩頑張って下さい」
まことは隣の観戦室で中位の実況だ。確かにそろそろ行った方がいい。

「うん、まことありがとう!」
手を振って見送る。




「加古さんまだ来ませんね」
「あいつはそういうやつだ。心配しなくていい」
風間さんと話していると緊張も落ち着いてきた。昔からこの人は頼りになる。


「真野隊はどうだ?」
「え?」
「真野隊に入って半年だろう」

風間さんから話を振ってきたのが珍しくて驚く。
「はい、居心地がいいです。毎日楽しいですよ」
「それはよかった」
風間さんががふっと笑った。



「尚美、本当はうちの隊に入れたかったのに」
2人の後ろから声がする。加古さんだ。


「え……」
「……遅かったな」
「やだ、風間さんまだ時間じゃないわよ」
加古さんはにっこり笑って風間さんの隣に座った。


「今日は尚美が実況なのね、よろしく」
「はい、遥ちゃんが来るまでですがよろしくお願いします」
加古さんに頭を下げる。


「加古、お前まだそれを言ってたのか」
「今だって思ってるわよ。この間太刀川君だって誘ったって聞いたわ」
「太刀川が……?」
風間さんがちらっとこちらをみる。


「お世辞ですよ、お世辞」
本気にしないでください。


「それに昔は風間さんだって」
「オレは宮木を腐らせておくのが勿体無いと思っただけだ。お前たちと違ってどこかA級に入れるなら良いと思っていた」
加古さんと風間さんのやりとりに驚く。
2人ともそんな事を考えていてくれていたなんて。


「お二人ともありがとうございます……私全然知らなくって」
あの時は自分の事ばっかりで全然周りが見えていなかった。

「良いのよ」
「そろそろ時間だ始めるぞ」

3人ともヘッドホンをつける。







『皆さんこんばんは。B級ランク戦ROUND 4 夜の部、上位グループの実況を務めます、真野隊の宮木です。本来であれば嵐山隊の綾辻隊員が行う予定でしたが、諸事情により遅れておりますので、私が代わりを務めます。よろしくお願いします』
普段よりゆっくりした話し方を意識して話し始める。



『本日の解説には、風間隊の風間隊長と、加古隊の加古隊長にお越しいただいてます』
『『どうぞよろしく』』
『さて、本日の対戦カードは、B級1位二宮隊、2位影浦隊、6位玉狛第二、7位東隊です。MAP選択権は東隊にありますが、まだ選択されていません。今回お二人はどこに注目しますか?』

『そうだな、初めて上位入りした玉狛第二がどのように上位の強豪に挑むのか、気になるところだ』
『私は東隊ね。MAP選択権もあるし、どんな作戦を取ってくるのか楽しみだわ』
大雑把な振りをしたにもかかわらず2人ともコメントをしっかりしてくれた。安定感がある。


『なるほど!ありがとうございます。ちなみに私は二宮隊の試合を久しぶりに見るので、個人総合2位、射手ランク1位である二宮隊長の戦いぶりが見られると思うと今から楽しみです』
『尚美は二宮くんの弟子だもんね』
『はい、元弟子ですが今でも尊敬しています』


『今、東隊がMAP選択を行いました。「市街地B」です!「市街地B」は高い建物と低い建物が混在していて、場所によっては非常に射線が通りにくい地形です。天候、時間設定は転送が開始されてからわかるのでなんとも言えませんが、地形戦で射撃を凌いで斬り合いに持ち込む狙いでしょうか?』

『第3戦の那須隊の暴風雨は楽しかったけど、東さんはそう言う博打はしないわね』


私の問いに加古さんが答える。

『だろうな』
風間さんも同意する。


『加古隊長は以前東隊長が指揮する隊にいただけあって、よく知っておられますね』
『二宮君もそうだから、彼もそう思ってるはずよ』
『なるほど!さて、そろそろ転送が開始されます……あ、綾辻隊員が到着しました』


隣に走ってきたであろう少し汗をかいた遥ちゃんがいた。
思ったより早く来てくれたことに安堵して、席を代わる。


「では私はこれで……」
よかった。ゆっくり二宮さんを観れる。その場を後にしようとした。


「え、尚美もせっかく来たんだから一緒に解説しましょうよ」
加古さんに引き止められた。


「え、いや、私は……」
「そうだな、ここに座れ」
風間さんが有無を言わせずに遥ちゃんの隣の席を指さす。
目上の2人に言われてしまっては嫌とは言えない。


「はい、わかりました」
あきらめて座ることにした。


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