「I have a bad feeling about this.」
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『改めまして、B級ランク戦ROUND 4!開始ギリギリになって申し訳ありません!実況を務めます嵐山隊綾辻です!解説席には風間隊の風間隊長、加古隊の加古隊長、そして先ほどまで実況をしてくださっていた真野隊の宮木隊員にお越しいただきました』


『『『どうぞよろしく』』』
『風間さん一日遅れのバレンタインチョコあげる。綾辻ちゃんと尚美にも』
『わっ、やった❤︎』
『私にも?ありがとうございます』

可愛くラッピングされたチョコを受け取る。もらえると思っていなかったので嬉しい。ホワイトデーにお返ししなければ。
風間さんはもらってすぐに開けて、なんと食べ始めた。



『転送まであとわずか!MAPはすでに「市街地B」が選択されています!』
この間の太刀川さんと迅さんといい、なぜみんな普通に解説中に物が食べれるのか。余裕すぎるだろうと思った。

『さぁここで全部隊仮想ステージへ転送完了!四日目夜の部四つ巴!いよいよ戦闘開始です』
映像を見て驚いた。MAP全体が白い。雪である。

『MAP「市街地B」天候「雪」!』
先程の加古さんの予想が外れた。


『積もった雪は30pほどでしょうか、戦闘体なら走れなくはないが、移動に少々骨が折れるといった様子』
『いきなりMAP予想外したな』
風間さんが指摘する。


『これは東さんの趣味じゃないわ、きっと小荒井くんよ小荒井くん』
『確かに彼ならやりかねませんね』
加古さんの言い分に納得する。


『転送位置はどの部隊もほぼ均等にバラけています。雪上戦を仕掛けた東隊長、そして仕掛けられた他3部隊はどう動くか!』
手元の画面に各隊員の動きが映し出されているが、気になったのは犬飼くんだ。


楽しそうに雪を踏んで遊んでいる。
確かに三門市は雪が降ることは滅多にないが、はしゃぎすぎだ。二宮さんに怒られても知らないよ、と思う。


『一斉に動き出す各隊員!東隊と玉狛第二は隊員の合流を選択!影浦隊はこのまま急戦を狙う模様!……珍しく二宮隊の動きが鈍いようですが……?』
『いつになく慎重だな。東さんをよく知ってるだけに、東隊が仕掛けた雪MAPの意図を図ろうとしているのかもしれない』

風間さんが二宮隊の動きを考察する。




『雪は絶〜〜っ対東さんの作戦じゃないわ。そんなことも見抜けないんじゃまだまだね』
『ははっ……東隊は雪用のいつもとは違うカラーリングの隊服ですね。本気度が伺えます』

加古さんの二宮さんに対する辛口の言葉に苦笑する。


『東隊は迷いなく合流地点をめざす!玉狛より合流が早そうだ!』
各隊員の動きをモニターで確認する。


これはゾエ君がやりそうだと気づく。

銃手ガンナーなのに、高台に位置している。
影浦隊以外のレーダーに映っているであろう隊員に炸裂弾メテオラが放たれる。
誰も当たっていないが、非常にやりにくいだろう。

影浦隊は隊長の影浦君。ゾエ君とユズル君、オペの光ちゃんの4人だ。


すかさず、二宮さんがゾエ君のいる方角に攻撃を仕返した。ゾエ君を取りに行くことにしたようだ。
ゾエ君を援護するように、ユズル君が二宮さんに向かって狙撃をするが、防御されて攻撃を防がれる。


二宮さんはトリオン能力が高いので、イーグレットではなかなかシールドは破れないだろう。



『影浦隊北添隊員お得意の曲射砲撃!ナンバー1射手シューター二宮隊長がそれを押さえに北西部へ向かう!犬飼・辻君両隊員は隊長とわかれて玉狛狙いの動き。東隊もレーダーステルス状態で接近中。影浦隊長もここに乱入か?絵馬隊員は北添隊員の援護にまわる模様。MAP中央は玉狛を中心に9人が集まり大乱戦の予感!』

遥ちゃんが全員の動きをわかりやすく説明する。流石嵐山隊のオペ。並列処理がうまい。


『これは唯一味方の援護がない影浦隊長が不利でしょうか?』
『乱戦になるならそんなに不利でもないんじゃない?どっしり待ち構えられたらきついけど、場が荒れてくれば反射神経と勘が物を言うわ。ねぇ尚美?』
加古さんから話を振られる。

『そうですね、勘が冴えていれば人数の多い場では不利にはなりません。影浦隊長は反射神経も良いですし』
『それになにより影浦くんには狙撃も不意打ちも通用しない。他の人にくらべたら「数の不利」は関係ないわね』
『影浦を単独で止められるのはおそらく二宮だけ。北添が二宮を釣り出している間にどれだけ点を獲れるかだな。その条件は東隊も同じ。まずは獲りやすい点に狙いが集中する。狙われた玉狛がどう凌ぐのかが見物だ』

風間さんはやはり三雲君の戦略が気になるのだろう。
犬飼くんが三雲君を捕捉し、攻撃を仕掛ける。格上とのマッチアップ。


昨日まで三雲君を見ていただけに頑張って欲しいが、犬飼くんはかなりの実力者だ。一人で相手をするのは難しいだろう。
空閑君もそれは分かっているようで、三雲君のところへ急いで行くようだ。


『空閑隊員、三雲隊長のフォローに行くみたいですね。三雲隊長一人では犬飼隊員を相手にするのは苦しいですから』
しかし、空閑君のところにも足止めが来ていた。辻君だ。流石名アシスト。空閑君の足が止まったところで、影浦君が空閑君を捕まえた。辻君はその場から移動して犬飼くんと合流するようだ。

辻君は周りをよく見ている。自分で足止めするのではなく、敵チームをうまく利用した。



『スタート直後の1番危険なこの時間帯。すでにあちこちで戦闘が始まっています!MAPの中央付近では玉狛第二が合流を阻まれた形!三雲・空閑両名とも格上とのマッチアップ!さぁ玉狛第二、この苦境を打開できるか!』
三雲君は防戦一方だ。このまま攻撃を食い続けていけばガードが崩されるだろう。雪によって思うように動けないのも辛い。
『近づけないわね三雲くん。雪で鈍った機動力じゃ犬飼くんの攻撃は掻い潜れない。このまま犬飼くんの距離で撃ち合ったらガードを削られてやられるか、足が止まったところを狙撃されておしまいよ』
加古さんがそう判断した。


『それは三雲自身もわかっている。そうなる前に何か手を打つだろう』
風間さんは三雲君がこのまま終わるわけがないと思っているのだろう。この間の模擬戦といい風間さんは三雲君を案外買っているのかもしれない。
三雲君は近くの建物の入り口を割り、中へ入る



『三雲隊長雪上戦を嫌ったか建物の中へ!屋内なら天候の影響を受けません!』
それを追って犬飼くんも中へ。一気に距離を詰める。それを狙って三雲君がレイガストで攻撃を仕掛けるが、犬飼くんはガードをする。


『カウンター!止められた!』
『まだある』
風間さんは三雲君の次の一手がわかったようだ。


置き弾を使って犬飼君をさらに攻撃する。

しかし犬飼くんは読んでいたのか、慌てることなくこれもガードした。そのまま犬飼くんは三雲君に攻撃を撃ち込む。
犬飼くんの動きを見てふと考える。


私が三雲君に教えていると言うことを犬飼くんは知っている。私が教えそうなことを読んで動いているのではないか、と。

もちろん犬飼くんもいろんな経験を積んできたマスタークラスの銃手だ。それだけでこれだけの身のこなしはできないとはわかっているが、やっぱり訓練を見てあげていることを言わない方が良かったと少し後悔した。


犬飼くんの攻撃によって三雲君のレイガストが破られそうになった時、窓ガラスが割られ、2人建物に入ってきた。
東隊の奥寺君と小荒井君だ。

入ってきたと同時に犬飼くんは利き腕の左腕を切られる。


三雲君は東隊の2人に助けられた形になった。

犬飼くんはすぐに突撃銃アサトライフルを右手に持ち替えて2人に撃ち込む。
奥寺君と小荒井君は切り込むと思われたが、犬飼くんがふっとしゃがみ込んだのに気付いて動きを止めた。


外の壁が切られて、崩れ落ちる。
中に二宮隊の辻君が入ってきた。犬飼くんの援護に来たのだろう。




『屋内戦に5人が集って2対2対1!有利なのはマスター級を擁する二宮隊か。それとも手傷を負わせた東隊か!』
『有利なのは東隊ね。場所が狭すぎるわ。あの位置だと犬飼君は援護しにくいのよね。味方を撃つ可能性があるから。銃手が乱戦で援護射撃するには角度が必要なのよ』
『射手の場合はその都度追尾弾ハウンド変化弾バイパーで軌道を細かく調整できるので、比較的援護しやすいですが、銃手はあらかじめ決められた軌道でしか打てないのが難点ですね。その分攻撃スピードは早いですが……』


加古さんと二人で銃手と射手の特徴をそれぞれ説明する。


『東隊の奥寺と小荒井は一人一人はそれほど手強くないが、接近戦の連携のレベルは風間隊に次ぐと言ってもいい。組んで戦えば格上も食える使い手に変わる。そして何より……』
風間さんが言おうとする前に、三雲君は攻撃をくらう。壁越しの狙撃だ。東隊の東さんによるものだろう。



『そして何より東隊にはかつてのA級1位部隊を率いた「最初の狙撃手」東春秋がいる』
三雲くんはそのまま緊急脱出ベイルアウトした。



『先制点は東隊!東隊長が壁越しに狙撃!三雲隊長緊急脱出!乱戦は東隊がまず一歩リード!』
三雲君が落とされたことは仕方ない事だとは言え、辛いものがあった。
どうしても弱いものが狙われる。上位になればその戦力差は歴然だ。



『東隊長の壁抜き狙撃!部隊チーム3人の観測データと精細な地形データとの複合オペレーション!MAP選択の権利を持つ部隊ならではの大技です!』
『珍しいわね東さん。壁抜きなんて当てにくいからあんまり使いたがらないのに』
加古さんの言葉に、それを使ってわざわざ三雲君を落とすと言うことは、戦術的に警戒していたのか?と考えた。


そして、屋内に敵が4人固まっている。玉狛第二にとっては千佳ちゃんの狙撃のチャンスだ。
しかしここで撃たないとなるとやはり人を撃てないのだろうか。
解説で言うのもフェアじゃないので、黙ってはいるが。

しかし、ここで4人目掛けて千佳ちゃんが砲撃を放った。建物が大きく壊れる。
『!?』

千佳ちゃんが人に向かって撃ったことに驚いた。
人をやはり撃てるのだろうか。


『雨取隊員4人まとめて狙ったか!?しかしこれは全員かわしている!』
そして千佳ちゃんが撃ったことで居場所は割れた。狙われることは間違いない。


『雨取隊員の居場所がバレました。狙われますね』
千佳ちゃんが緊急脱出しようとしたのだろう。エラー音がなる。


『あっと!雨取隊員自発的に緊急脱出!?しかし東隊長が60m圏内にいる!これでは緊急脱出出来ない!』
「雨取隊員、犬飼隊員に捕まりましたね。シールドは硬いですが、時間の問題です。空閑隊員がフォローに行くが間に合うか。後ろから影浦隊長も追っています』

逃げる千佳ちゃんを後ろから射撃しながら犬飼くんが追いかける。
その千佳ちゃんをフォローするために空閑君が向かっているが、影浦君も空閑君を追いかける動きを見せている。


空閑君が千佳ちゃんと犬飼くんを捕捉する。そのまま犬飼くんに攻撃を仕掛けるが、辻くんに防がれた。
流石だ。
空閑君がグラスホッパーを使って千佳ちゃんを遠くへやるが、すぐに犬飼くんも壁を使って距離を詰める。
千佳ちゃんが捕まるかと思ったその時。


ボッ!


犬飼くんの左肩に銃弾が当たった。狙撃だ。集中シールドを張っていたが割られた。アイビスによる狙撃だろう。
犬飼くんは衝撃で後方に倒れる。そして上から影浦君がやってきた。
応戦するが、影浦君のスコーピオンに胸を突き刺される。



『犬飼隊員緊急脱出!影浦隊が見事に掻っ攫った!そして……雨取隊員も逃げ切った!結果的に影浦隊に救われた形!』

さっきの狙撃はユズル君だ。千佳ちゃんとユズル君は仲がいい。偶然ではないだろう。
そして、そのユズル君が二宮さんの攻撃を受ける。


『得点をアシストした絵馬隊員!しかし二宮隊長に捕まった!そしてMAP中央では攻撃手5人が勢揃い!見通しの悪い地形とはいえ狙撃手のいる東隊に分があるか!?』
『二宮隊長に一対一では敵いませんから、絵馬隊員は出来るだけ時間を稼ぐ作戦でしょうね』
二宮さんの実力からそう話す。


『入り乱れる4部隊5人の攻撃手アタッカー!東隊の二人と玉狛の空閑隊員はグラスホッパーを使える分、雪の影響は受けにくいか!……ただし東隊には狙撃があります!空閑隊員は迂闊には跳べません!』
『東さんは援護に徹して二人に獲らせるつもりね。攻撃手で釣って狙撃で仕留めるいつものやり方とは逆ってことかしら?』
加古さんはそう推測する。


『東隊に対する3人はどう動くべきだと思いますか?』
遥ちゃんが風間さんに話を振る。


『東隊有利の場から抜け出したいところだが、機動戦では東隊長の二人に分がある。
場が動いて敵がバラけるなら東隊にとってはむしろ好都合だ。
3対1で確実に落としていけばいい。東隊の陣形を崩すか、他の隊の背後をつくか。
いずれにせよ人数を利用して場を見出す必要があるだろう。特に味方の援護射撃がもう望めない空閑は、な』
『影浦隊の北添隊員が今フリーなので、炸裂弾にも気をつけるべきですね。
影浦隊長の援護に来るはずです。それには絵馬隊員が二宮隊長をどれだけ引き付けられるかにかかっていますが』
映像を見るとユズル君は先程の二宮さんの攻撃で片足をやられている。捕まるのも時間の問題だ。そして二宮さんが再度ユズル君を捕捉した。


MAP中央の5人の攻撃手の斬り合いが続く。


『やはり空中組が乱戦のメインを張る展開。地上戦組は足元の悪さからいつものように踏み込めない。東隊はやや空閑隊員に偏った狙いか?』
ここで、二宮さんの攻撃がユズル君を襲い、ユズル君が緊急脱出する。


『影浦隊絵馬隊員がここで緊急脱出!二宮隊が1点獲って3部隊が並んだ!』
ここでゾエ君から炸裂弾が放たれる。
しかしすぐに撃ち落とされた。東さんの狙撃だ。素晴らしい狙撃スキル。


そして、ゾエ君の位置がわかった東さんがすぐにゾエ君に向かって狙撃をする。
ゾエ君が落ちるかと思ったが、まさかの二宮さんがシールドを張ってゾエ君を守る。



『二宮隊長が北添隊員をカバー!?』
『貪欲』
加古さんが楽しそうに言う。

『二宮隊長、自分が北添隊員を落としてポイントを獲る狙いですね』


二宮さんのこう言うところが特に好きだ。戦いに貪欲。意外と熱いところ。
ゾエ君は最後の足掻きで、攻撃手達のところ目掛けて炸裂弾を放つと、二宮さんの通常弾を食らって緊急脱出した。


ゾエ君が放った炸裂弾は攻撃手5人のところに襲いかかる。それを機に影浦君が攻撃を仕掛けて、爆風の中動きがあった。


『北添隊員に続いて一気に3人が落ちた!どれが誰の得点だ!?』


その場に残ったのが影浦君と空閑君だけになり、二人の戦いになる。





『影浦隊と玉狛第二のエース対決!ザクザクとスコーピオンで削り合う!左腕と右足を失っている空閑隊員が押され気味か!得点は横並び。となれば当然……他の二人もこの状況を黙って見ているわけはない!』
空閑君と影浦君に向かって、凄まじい追尾弾が襲いかかった。




『二宮隊長の両攻撃フルアタック追尾弾!この火力!個人総合2位は伊達じゃない!』
『人数が減ったから火力差で押し込みに来たな』
『二宮隊長の火力に敵う人はそうそういません。なんとか遮蔽物を使って凌ぎたいところ!』


久しぶりの二宮さんの両攻撃追尾弾を見て興奮した。この火力。二人は逃げ切れないだろう。


『二宮隊長距離を詰めて寄せにかかる!』
『このまま追尾弾で押し切ると思います』
そう予想するが、空閑君が動いた。




『!!空閑隊員前に出た!?追尾弾の誘導半径を見切ったか?』
『いい動きね空閑くん。でもその追尾弾は……相手を動かすための追尾弾なのよ』
加古さんの言った通り、空閑君の胸を真っ直ぐ通常弾が突き刺さる。

空閑君は相討ち覚悟だろうか、最後の攻撃を放つ。おそらく影浦君の技「マンティス」だ。
だが、二宮さんには届かなかった。そのまま緊急脱出する。



『ここで空閑隊員が緊急脱出!最後の刃は届かず』
これで玉狛第二は全員落ちた。



『さあ試合は一転して静かな展開。全員がバッグワームを使って距離をとりました。これはどういうことでしょうか?』
『狙える駒がいなくなったということだな。普通なら攻撃手が的にされるところだが、影浦には不意打ちが決まりにくい。東さんが完全に姿を眩ましているから他の二人は下手に動けば即死もあり得る。普段なら噛み付きに行く影浦も雪のMAPじゃいつものようには行かないだろう』
風間さんが分析する。


『ひょっとしたら本人は行く気でも、周りの隊員が止めてるかもしれませんね』
笑いながら予想する。

『試合はもう終わりね、東さんは完全に撤退モードだわ。二宮くんもそれはわかってるだろうから危険を冒してまで攻める気はないでしょ』
加古さんの話を頷きながら聞いているとふと画面に何かが映った。


『二宮隊長……あれは何をしてるんですかね?』
二宮さんの映像を見て気がついた。何か作ってる。丸い何かを。まさか……



『……雪だるまだな』
『……雪だるまね』
風間さんと加古さんに自分の思った通りの答えを貰って、自分が見間違えをしていなかったことを確認する。



『暇つぶしですかね……?』
『だろうな』
『でしょうね』
『……』
『……』
『……』
『さあまもなく時間切れ……』



みんなでタイムアップまでの間、二宮さんが雪だるまを作っている様子を見る。
流石に何も言えなかった。




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