「I have a bad feeling about this.」 28
2月22日土曜日、B級ランク戦6日目が開催されるその日、私は解説に呼ばれていなかった。
何故ならば新入隊員の入隊式が同日にあるからである。
前回と同様に頼さん、カンナと一緒に手伝いに駆り出されていた。
ちなみに依織さんは昼の部の中位グループの解説、まことは同じく実況を頼まれているため、不在である。
頼さんは今回も狙撃手の方を担当、カンナは藍ちゃんと一緒に行動していた。
私はというと忍田さんに言われて内々に1人の人物のフォローを行っていた。
それは玉狛支部所属のヒュース・クローニンという隊員である。
昨日のうちに忍田さんに依織さんと一緒に会議室に呼ばれたのだが、彼は空閑君と同じく近界民で、先月にあった大規模侵攻でこちらを攻撃してきたアフトクラトルという国の出身であると言うことを教えられた。
迅さんと戦っている間にどういうわけか味方に裏切られ、こちらの世界に置いてけぼりをくらい、捕虜として玉狛支部にいたらしい。
そして紆余曲折あり、今回玉狛第二に入るためにボーダーに入隊することが決まったそうだ。
上層部で入隊の可否については揉めたらしいが、どうやら玉狛支部と取引をし、この度入隊式に参加する運びとなった。
忍田さんには適度にぼかされて説明を受けたので私も詳しくはわからなかったが、今日の仕事はこちらの世界のことがよくわからないヒュース君のフォローをする事、他の隊員に危害を加えないか監視すること、周りに近界民だと知られないようにする事らしい。
城戸指令派と玉狛支部派で入隊についてもめていたおかげで、忍田本部長派に仕事が回ってきたらしい。
いつにない重要な任務のようで私は緊張していた。
これ以上周りに迷惑を掛けないようにと力も入る。
ただでさえ自分の評判は最悪なのだ。上からのイメージアップの為頑張ろうと思う。
事前に顔写真をみせてもらって相手は知っていたが、いざ会場で彼をみた時に唖然とした。
目立ちすぎていたのだ。現にすぐに彼だと分かった。
一般的な新隊員は白色の隊服だが、ヒュース君は黒色の隊服を着ていたのである。目立たないわけがない。
玉狛支部のみんなは何故このヒュース君の格好について誰も突っ込まなかったんだろう。あまり目立ってはダメなのでは?
しかも顔が普通の日本人とは違い、外国人。しかもイケメン。設定はカナダ人らしいが、否が応でも目立っていた。
私はと言うとそばにいても違和感がないようにC級隊員と同じ隊服を着ていた。
真野隊の隊服を着ていると人目につくと思い、忍田さんと依織さんと相談して決めたのだ。
これを着るのは久しぶりなので、懐かしさを感じながら新隊員のフリをして入隊式に参加する。
まことに隊服の設定をしてもらうときはかなりノリノリだった。
ノリノリついでに顔見知りにもバレにくいように、髪型も変えてもらった。依織さんに憧れてお揃いの茶髪ボブだ。私の髪質的に普段ボブは絶対にできないと思っていたから思い切ってやってみた。
私は普段から地味なので、これで完全に周りに気づかれることはないだろう。
それでも緊張してた私とは対照的に、真野隊のみんなは何故か楽しそうだった。
ヒュース君に気づかれないように、後ろの方でそっと見守る。
顔はバレていないが、怪しまれるとやりにくいからだ。
舞台に嵐山さん、時枝君、藍ちゃん、佐鳥君が出てくる。そろそろ始まるようだ。
忍田さんも出てきて、簡単に挨拶をした時にちらっとこちらを見た気がした。
周りに気づかれないように会釈をし、話を聞く。
ヒュース君は前だけを向いて、話を聞いているようだった。真面目なタイプなのかもしれない。
嵐山さんから今回の流れの説明を受け、対近界民戦闘訓練を受けるために、攻撃手、銃手志望は訓練室へ移動する。
ヒュース君は誰とも話すことなく仮想訓練室に入って行った。
他の新隊員達は遠巻きに見るだけで話しかけようとしないのが救いだった。
女の子達は顔を赤くしてヒュース君を見ていた気もしたが…。イケメンだもんね。
私は一応形だけ戦闘訓練に参加した。
適当に攻撃を避けて、3分を過ぎてから追尾弾で倒した。そこまで目立たなかったはずだ。
ヒュース君はトリガーを孤月にしたようで、仮想近界民を1.5秒という速さで倒して、場内を響めかせた。
また目立っている、と頭を抱えた。
玉狛の新人は空閑君といい、人目につきすぎる。
「すごい記録が出たな!歴代2位の記録だ!」
訓練を見ていた嵐山さんが時枝君と話しているのを聞いたヒュース君が振り返って嵐山さんに言う。
「2位だと?やり直す。もう一度だ」
そう言って再度仮想訓練室に入って行った。
意外と負けず嫌いでもあるかもしれない。見た目からもっとクールかと思っていた。
「おっ、宮木似合ってるな」
その様子を見ていた私に気づいた嵐山さんから声をかけられた。時枝君も一緒だ。
「複雑ですけどありがとうございます。あとあまり話しかけられると……」
目立つのでやめろと暗にいう。
「あ、そうかすまん」
嵐山さんは笑って謝る。あまりわかっていなさそうだ。
普通のC級隊員はあの有名な嵐山さんから笑顔で話しかけられることはないんですよ。
「尚美先輩本当にその格好されてるんですね」
時枝君が少し驚いた表情になる。
同じ忍田本部長派の嵐山隊のメンバーは今回私がC級隊員のフリをしているのはあらかじめ知っている。
「うん、少し恥ずかしいんだけど今だけだから」
この歳でC級隊員の隊服は今更感があって少し恥ずかしい。
しかもこの隊服中学生までが対象らしい。流石に私は中学生には見られないだろう。
最近の新入隊員は中学生までが多くて、高校生で入る人はほとんどいないのだ。
「ボブも似合ってますね」
時枝君ににっこり笑って言われて照れてしまった。
「ありがと、この髪型ずっと憧れてて」
「真野さんと同じ髪型ですね」
「うん……」
やっぱり分かる人には分かるのか。
ヒュース君が部屋から出てきたので慌てて距離を取った。
「さて、これで訓練は一通りやってもらった。初めにも言った通り、各種訓練と個人ランク戦で個人ポイントを4000点以上にすればB級隊員へと昇格できる」
全員の戦闘訓練が終わり、嵐山さんが次の説明に入る。
「今から個人ランク戦の説明をするが、その流れでもう一つやってもらうことがある。きみたちの個人ポイントは全員1000点からスタートしていると思うが、本来ならば入隊式の前に仮入隊などで能力を見て、その実力次第で個人ポイントが上乗せされることになっている。即戦力をすばやくB級に引き上げるための措置だが、きみたちは臨時入隊のため仮入隊の期間が取れなかった。そこでかわりにきみたちには簡単な戦力テストを受けてもらう」
「戦力テスト……?」
今までにはなかったものだ。周りの隊員達は嵐山さんの説明に戸惑っている。
「これから5人ずつに分かれて仮想空間で戦ってもらう。自分以外は全員、敵。1人倒すごとに120ポイント加点。その後はメンバーを入れ替えて同じように1人につき4試合繰り返す。倒した相手が多いほどB級昇格に近づく。各自工夫して頑張ってくれ」
その説明を聞いて、ヒュース君の周りにいた女性隊員はそわそわし始め、男性隊員は数人でニヤニヤし始めた。
おそらく、同じ組で戦いたいのだろう。
巻き込まれないようにそっと距離をとった。
それからヒュース君は4試合で次々と敵を倒し、3000点まで到達していた。
実力もやはりすごいらしい。アフトクラトルのトリガーは磁力を扱うものだったらしいが、ボーダーのトリガーもすぐに慣れるだろう。
剣術を以前から習っていたのか、綺麗な型だった。
いつも依織さんの型を近くで見てきた。それとは全く違う型だが依織さんと同じように綺麗だなと思った。
私は剣はさっぱりだが、強いと言うことだけはわかった。
「ねぇ、ねぇ」
1人で長々と考えていたため、話しかけられたことに気づくのに遅れた。
「えっ、私ですか?」
「そう君!」
年下の男の子4人に話しかけられる。
「君さっきから見てたけど、まだ1試合もしてないよね?どう?俺らとしない?」
気がつけば囲まれていた。
「えっ、いや、私は……」
まずい、目立っていた?
焦ってどうしようかと考える。自分は新隊員ではないとも言えないし。
ちらっとヒュース君の方をみると、幸運にも時枝君が個人戦の説明をするためにブースに案内していてこちらを見ていなかった。
「うん、じゃあ、試合しましょう」
色々めんどくさいので時枝君がヒュース君を見ているから大丈夫かと、試合を受けることにした。
「よっしゃ!俺たちが教えてあげるよ」
私はそう言われて、にっこりと笑って部屋に入って行った。
「……強え……」
「では、失礼しますね」
追尾弾だけを使って瞬殺した。
今回は仕方ないとはいえ、前回に引き続き新人に間違えられたことに若干ショックを受けていたのだ。
無駄に時間をとってヒュース君から目を離すのも不安だし、適当に負けるのも嫌だった。
ブースから出ると辺りがざわついていた。
どうしたのかと思い、様子を伺う。
すると、掲示板の前に見慣れた姿があった。
三浦君と巴君がいて、そこに笹森君と小荒井君が話しかけていた。
何故こんな時に限って正隊員が訓練室にきているのか。普段入隊日にはほとんど正隊員達は来ない。
「三浦先輩!なんかあったんすか?」
「それが……今日入隊してもうBに上がった人が出たらしいんだ」
三浦君が小荒井君に話しているのを聞いて、耳を疑った。
そして冷や汗をかきはじめた。
おそらくそれはヒュース君の事だ。目を離した隙にさらに目立つような事をしていたとは。
「今日入隊……?じゃあ1日……いや0日で……!?」
「最短記録じゃないすか!?」
笹森君と小荒井君は驚いている。
「勝負しましょうよ勝負!そいつもうB級なんでしょ?」
小荒井君!目立つことしないで!
飛び出して止めたかったが、この格好で出て行く勇気はなかった。
「うーん興味はあるけど……」
三浦君が渋る。
そのままやめるように言ってくれと願う。
「むこうはさっきまでC級だったからまだトリガー1個しかもってないですよ。盾もない」
「あっ、そうか」
巴君の話に小荒井君も諦めムードになった。
良いぞ、その調子だ。手を握りしめた。
「こっちもブレードだけでポイント移動なしなら大丈夫かなあ?」
三浦君がとんでもない事を言い出してしまった。
「いけそうですね!ちょっとオレ聞いてきます!」
すっかりやる気になった小荒井君が走って嵐山さんのところに向かって行った。
お願い嵐山さん、止めて下さい!
嵐山さんを見つめて念じる。
「わかった。充に伝えよう」
嵐山さんはうなづいて時枝君に連絡を取っていた。
「……そうか。……よかったな小荒井。向こうは受けるそうだぞ」
「よっしゃ!オレが一番手だ!」
小荒井君たちは4人揃ってブースに行ってしまった。
その様子を見て絶望で頭を抱えた。
小荒井君のストッパーである奥寺君はどこに行ったんだ……。
ここにはいない奥寺君を思い浮かべた。
「あれ……?宮木……先輩……?」
自分の名前を呼ばれて慌てて振り返った。
「!?……」
辻君がゆっくりとこちらの顔をみて、様子を伺いながら話しかけてきたのだ。
女性が苦手なのに、話しかけてきたのは意外だった。
「うん、宮木です……よく気づいたね」
「あ、いや、なんか、見たことあるなって思って。髪型が……」
隊服も違うし、髪型も普段と違ってショートに設定してあるのによく気づいたものだと思ったが、
依織さんと同じ髪型なので、辻は最初依織さんだと思ったのだろう。それならば話しかけられたのも納得がいく。
「ちょっと訳ありでね。内緒にしてもらえると助かるんだ」
「わかりました。犬飼先輩には黙っておきます」
辻君は深く頷いた。
「……なんで犬飼くん?」
辻君の口から真っ先に犬飼くんの名前が出たことに驚くが、たしかにこの姿を見られれば真っ先にいじるだろう。
相手をするのがめんどくさいので助かるかもしれない。
「じゃあ、俺はこれで」
あまり話してるのも良くないと気づいたのだろう、辻君がさっと距離をとってくれた。
その気遣いをありがたいと思い、別れる。
「あっ!辻先輩!」
「……?」
私と別れた直後、辻君が小荒井君に捕まっていた。
気が付けば、先ほどの4人はあっという間にヒュース君にやられてしまったようだ。
「辻先輩こっちこっち!」
「え?え?何?」
「いいからいいから」
辻君が有無を言わさず連れていかれる。
私はそれをただ見てるだけしかできなかった。
「辻君……ごめん……!」
辻君とヒュース君の模擬戦が始まった。こっそりそれを見る。
辻くんはマスター級の実力者だ。先ほどの4人のようにあっさりとやられたりするまい。
「あれ、え、尚美ちゃんやんな?どしたん?そんな格好して……え、まさか……」
「イコさん……なんか変な勘違いしてません?」
次はイコさんだった。何故みんなここにくる。
そして、何故イコさんは普通に私のことに気づくのか理解ができなかった。
ひょっとしてバレバレなのか。変装の意味がないのか。
「え、真野隊やめたん?そんならうちこーへん?」
「やめてませんし、生駒隊もう4人いますよね?」
イコさんはC級隊員の格好をしてることに少しズレた反応をしている。
「すこし、入隊式の関係でこんな恰好をしているわけで……」
若干濁して説明する。
「ふんふん……とりあえず可愛いからよし」
イコさんは適当な説明でも気にしないらしい。水上君が一緒じゃなくてよかった。彼はいろいろ察しがいいから。
「尚美ちゃん写真撮ってもええ?」
「ダメです!」
「えー?あかんの?」
「だめです!あとイコさんといると目立つのであっち行ってください!」
小声でイコさんにそういうと、しっしっと追い払う。
他の先輩にはこんなことはしないが、イコさんであれば怒らないだろうとつい雑な扱いをする。
「尚美ちゃんひどいな〜、お、嵐山おるやん」
イコさんは少し離れた嵐山さんのところに向かって行った。
後ろから気づかれないように歩いて、嵐山さんのほっぺに指を刺そうとしている。
良かった、離れてくれたと安心しているとまた小荒井君の声が聞こえる。
「あーー!」
天敵だと思った。今日の任務をことごとく邪魔してくる。
「イコさん!ちょうどいいところに!」
「ん?どないしてんコアラ」
イコさんが小荒井君に呼ばれてブースに入って行った。
ボードを見るに辻君も5-2でヒュース君に負けたらしい。マスター級の辻君に勝つとはやはりヒュース君は相当な腕前のようだ。
しばらくボードを見てると、2人は戦い始めたらしい。イコさんが先制していた。
流石一万点越えの攻撃手である。
「ん、お前何してんだ?」
油断しているとまた話しかけられた。
「太刀川さん……」
もう脱力した。
たしかに太刀川さんはランク戦が好きで良くここには通っているが、何も今日来なくても。
それにこういうことに鈍そうな太刀川さんにも気づかれた。やはり変装は失敗だ。
隊のみんなは「イケるイケる!」って言ってたんだけどなぁ。
「やっぱり尚美か、お前何?どうしたその格好」
「話すと長くなるので端折りますが、今だけです」
「ふーん、なんだ訳ありか」
太刀川さんが面白そうに顎髭に手をやる。
「そうなんです。あまり目立つわけにもいかないので離れてください」
小声で目立たないように、距離を取るようにお願いする。
「んじゃ、写真撮らせてくれたら考えてやる」
「え!いやです!」
即答で答えるが、太刀川さんは諦めなかった。
「なんでだよ〜いいのか〜俺はNo. 1攻撃手だぞ?目立つぞ〜」
この人最低だ。ニヤニヤ笑う太刀川さんにこれ以上言うのは無理だと諦めて許可をする。
「わかりました。一枚だけですよ」
「さんきゅ〜」
太刀川さんは素早く携帯を取り出して正面から撮った。
「ん、可愛く取れたぞ」
楽しそうに撮った写真を見ている。
「可愛いかはともかく、悪用しないでくださいよ」
「わかってるわかってる」
太刀川さんは何やら携帯を操作して、ポケットにしまった。
本当にわかっているのか。
「で、何見てんだ?」
私が先程から見ているものに気づいたのだろう。太刀川さんも同じ画面を見た。
今、イコさんがポイントを取って、4-4で並んだところだ。
「今日入った新人がもうB級入りしたんで、正隊員達が集まってきてるんです。ちなみに今のところ全員、新人にしてやられてます」
「ほーお……俺もやってこよう」
「え、そんな目立つ事……!」
止めようとする間もなく、太刀川さんは5人がいるブースに行ってしまった。
「なんだなんだ?楽しそうなことやってんな」
「太刀川さん!」
小荒井君が嬉しそうに招き入れた。
そして、試合が始まった。
「宮木、バレバレだったな!」
「嵐山さん〜!」
諦めてヒュース君と太刀川さんの試合をみていた私に嵐山さんが声をかける。
「もういいです、ヒュース君にバレなければ」
「まぁ、本来はそうだな」
脱力して、近くのソファーに座り込む。
試合は先程のイコさんより早く終わった。
太刀川さんの勝利である。流石ボーダーNo.1攻撃手。
一本取られたのは驚きだが、ヒュース君もやはり実力者なのだろう。
ヒュース君は時枝君とブースから出てきて、小荒井君達に話しかけられる。
「いよーーー新人!お前超つえーな!何者だ!?」
小荒井君は興奮気味に話す。
「勝負に付き合ってくれてありがとう」
三浦君は優しくお礼を言っていて、後輩に好かれている彼らしい。
これでヒュース君も問題なくボーダーに馴染めるだろうか。
直接的にはないにせよ一度戦った相手だ。
小荒井君たちはヒュース君が近界民だと知らないからかもしれないが、仲良くして欲しいと思う。
「10本勝負やりましょーよ」
「おっいいねー」
イコさんが太刀川さんを模擬戦に誘っている。
私はこれ以上気づかれないように、ソファーから様子を伺う。バレたら誰に言われるかわからない。
「もうどの隊に行くか決めてんの?」
「まだならうちに来いよ、うちに!」
笹森君と小荒井君がヒュース君を誘っている。それほど魅力的な戦力なのだろう。
「……誘ってもらって悪いが……先約があるんでな」
そう言って、ヒュース君は廊下に出ていった。玉狛支部に帰るんだろうか。
念のため出口までついて行こうと腰を浮かせたが、そのタイミングで誰かが走ってこちらへやってくるのが見えて慌てて身を隠す。
「太刀川さん!!」
「おっ、出水お前早いな〜」
太刀川さんの元に慌てた様子の出水君が現れた。
私はもう一度ソファーに座り直してそっと様子を伺う。
緊急事態だろうか。ひょっとすると太刀川さんが防衛任務を忘れていたのかもしれない。
それか忍田さんが探しているのか。この場合はだいたい大学の単位の事だ。
「尚美さん!!どこですか!?」
出水君の口から自分の名前が出たことに驚いて肩が跳ねる。何故自分の名前が出てくるのか。
「おー、尚美か?どこ行ったかな〜」
「誤魔化さないで教えてくださいよ!あんな写真送っといて!」
出水君が太刀川さんに掴みかかる。
「写真……?」
太刀川さんが出水君に先ほどの写真を送ったであろうことがわかった。
「写真ってなんすか?出水先輩」
この中で一番食いついて欲しくない小荒井君が訊ねる。
「ほら、これ見てみろよ!!」
出水君が自身の携帯を取り出して、小荒井君に見せていた。
「わ!宮木先輩、なんでこんな格好してんの?」
小荒井君が驚いて、他のみんなが携帯に目をやる
「わ、宮木先輩C級の隊服だ!髪の毛も短くしてる!」
「可愛い……」
「昔の宮木先輩を思い出しますね」
三浦君、巴君、時枝君は次々おそらく私の写真を見て感想を言う。
時枝君はさっき直接見ただろうに、自分はあたかも今知りましたと言った風を装っている。小細工が上手い。
「そうだよな、時枝〜!あの頃の尚美さん可愛かったよな……!」
出水君がそう言って時枝君の肩を叩く。出水君の「可愛かった」と過去形にした発言にはムッとしたが、みんなが話題にしているので顔が赤くなる。
ここでバレたくないし、逃げようと思い、そそくさと移動しようとする。
「え、太刀川さん、尚美ちゃんの写真とったん??俺あかんって言われたのに!」
イコさんが太刀川さんに聞く。
「え!イコさんも見たんですか?尚美さん」
「おん、さっきそこで会うたわ」
今いるところの近くを指さされて、ヒヤッとする。やばいバレる。
「俺も見たよ」
辻君が出水君に教える。
「辻ちゃんも!?」
「うん、だけど訳ありとかなんとか言ってたよ……」
辻君が騒がない方が……と止めようとしているが
「ずりぃ!俺も見たい!探す!」
出水君は話を聞かずに辺りを探し始めた。
やばいやばいやばい。
身をかがめてやり過ごそうとする。
何故出水君はそんなに自分のことを見たいと思うのかわからないが、これはまずい。
バレたら忍田さんに怒られると戦々恐々とした。
気づかれないように、存在感を出来る限り薄くして、もう少しで廊下に出るというところだった。
「あ、尚美先輩!例の彼さっき見ましたよ!」
「……カンナ」
カンナとばったり出くわしてしまい、声をかけられる。
カンナは声がよく響いて目立つ。
「あ!紫……と、いた!尚美さん!」
すぐに出水君が気づいて、全員の視線が私に集まる。
「あれ、ひょっとして私まずいことしました?」
「……」
カンナが申し訳なさそうにこちらを見るが、もう遅い。
「尚美さん!探しましたよ、俺にもよく見せて!写真撮らせて!」
「わ、宮木先輩やっぱり可愛い」
「宮木せんぱ〜〜い!なんでそんな恰好しているんですか?」
後輩たちに囲まれて成す術がなかった。ただ、ヒュース君が帰った後でよかったと思うだけである。
この後出水君たちによって撮られた写真はボーダー内で瞬く間に拡散されることとなった。
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