「I have a bad feeling about this.」
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30



「嘘つき」
「ごめんね」
「二宮さんがいるって聞いたから来たのに」


そもそも待ち合わせ場所が寿寿苑じゃないところでおかしいと思ったのだ。
二宮さんといえば寿寿苑なのだから。
待ち合わせ場所に行ってみればそこには犬飼くんしかおらず、二宮隊の他のメンバーは先に店に入っているのかと思えば店内にも居ない。

完全に騙されたわけだ。なぜこんな時に勘が働かない。
せっかくおしゃれしてきたのに。

「おれ、二宮さんが来るとは言ってないよ?あの時二宮さんが隣に居たってだけで」
「……」
「だって、おれと2人だと来ないでしょ?」
「……そんなことないよ」
「ほんとに?」
正面に座った犬飼くんはにっこりといつもの表情で見つめてくる。


「かげうらのお好み焼きは好きだから」
「知ってる。だからここにしたんだよ」


なんとなく大事にされているような気がして照れ臭かった。

犬飼くんのこう言うところが嫌いになれないのである。


「じゃあ何にする?」
犬飼くんがメニューを出してきたが、それには目をやらない。

「うーん、豚玉かな」
いつもここで頼むのは決めているのだ。

「了解」

ボーダーの人間に犬飼くんと2人でいるところを見られるのがあまり好きではないが、今日は諦めた。
せっかくのお好み焼きだ。楽しまないと損だ
今見たところ店に知り合いはいなさそうだった。店員を除けば。


「あと、ミックスも食べたい」
「じゃあ、おれがそっち頼むね」
影浦君のお母さんを呼んで慣れたように注文した。
 


「……見過ぎだよ」
お好み焼きをひっくり返すタイミングで先ほどから気になっていた事を聞く事にした。
犬飼くんはさっきからお好み焼きではなく、私見ている気がするのだ。


「えー、そう?気のせいじゃない?」
「焼くの失敗しそうだからやめて」
「大丈夫、大丈夫」


ただ見てるだけでなく、なんか熱っぽいのだ、視線が。男の人に見つめられるなんてそうそうない。自意識過剰だと思われても良い。鉄板の暑さもあって顔が赤くなる。実は知り合ってもうだいぶ経つのに、未だにこの人と一緒にいるだけで少し緊張するのだ。


「ほんと、やめて…」
顔を俯かせた。
 



何とか失敗せずに焼いたお好み焼きを前にして、犬飼くんはうれしそうな顔をする。
「できた?もう食べて良い?」
「どうぞ」
「んじゃ、いただきまーす」

お好み焼きを食べ始める。
犬飼くんが楽しそうにしているので、まぁこれでもいいか、と思ってしまった。


「ん?」
「え?」
犬飼くんがふと視線を上げたので、私も釣られてお好み焼きを食べる手を止めて犬飼くんを見る。


「どうしたの?」
「いや、まぁ、そうなるよね」
「あれ、犬飼……と」
その声を聞いてドキッとした。
まずい。知り合いだ。


「宮木お前、訓練室すぐに出てくから珍しいと思ったんだよなぁ」
当真君の声だとすぐにわかった。慌てて振り返ると最悪な事に6人もボーダー隊員が立っていた。
この店の次男坊である影浦君はまだわかる。同じ隊のゾエ君とユズル君も許そう。
だが、当真君と村上君、玉狛の空閑君まで何故いる。タイミングが悪すぎる。
やはり今日ここに来てはいけなかったか。机に突っ伏したい気持ちになった。


「やっほー、みんなお揃いで」
犬飼くんが相変わらずの社交性で挨拶する。

「犬飼テメェ、なんでいるんだよ」
「えー、そりゃお好み焼き食べに来たに決まってるじゃん」
影浦君は犬飼くんを睨みつけ、その向かいにいる私の事もジロリとみる。

影浦君が犬飼くんを一方的に嫌っているのは有名な話だが、犬飼くんはそれをなんとも思ってない。私のせいでもあるのだが、それにしてもメンタルが強すぎる。犬飼くんを恐ろしく思う。


「また店に行く」と言っておきながらまさか当日にいるとは影浦君も思わなかったのだろう。
だが影浦君はあの時「好きにしろ」的なことを言っていたのを覚えている。


「お前も来たのか」
「……お邪魔してます」
「まぁ、お前はいい」
影浦君に許しを得られてほっとする。


「尚美先輩、なんでこいつと一緒にいるの」
ユズル君も犬飼くんには当たりがきつい。
二宮隊自体に当たりがきついが、犬飼くんには一際そうだ。


「おれ一応年上なんだけどな〜〜」
犬飼くんは気にしてなさそうに笑っている。本当にメンタルが強い。


「珍しい組み合わせだね」
村上君にはにっこり笑いながら言われた。
たまたま会った事にしようかと思ったが、嘘をつくのはあまり好きでは無いし、嘘が通用するような人たちでは無い。黙っておくに限る。
さらに運が悪い事に空いてる席が隣しか無く、6人はそこに座った。

「犬飼くん」
「ん〜何?」
「早く食べてここ出よう」

犬飼君の方に身をやってひそひそと話す。
 

「え〜今食べ始めたとこなのに?」
犬飼くんは面白くなさそうだ。


「急いで食べたらせっかくのお好み焼きが台無しだよ?」
「まぁ、たしかに」

向こうの席を見ると早くもお好み焼きを楽しそうに焼き始めている。
こちらのことはあまり気にしていないようだ。助かった。


「焼いてる音でこっちの会話も聞こえないよ」
「そうかな、そうだと良いけど」
気を取り直して2人でまたお好み焼きを食べる。半分こずつ食べるので犬飼くんの皿にもう一つのせてやった。

「ありがと」
「どういたしまして。まだ食べる?」
「うん食べようかな。何にする?」
「そうだねーメニュー見て決めようかな?」
そういうと犬飼くんがさっとメニュー表を出してくれた。それを2人で見る。


「うーん、どれ行こうか…」
「おれ、イカ玉が良いな」
「じゃあそうしよう」
すいませーんと影浦君のお母さんを再び呼んだ。

3枚目のお好み焼きを焼いて食べているとまた聞き覚えのある声がした。
今日は厄日だ。きっと
気が付けば、ユズル君は隣の席からいなくなっていた。


「あ?お前らも来てたのかよ」
荒船君と穂刈君だ。荒船君は私と同じくここが行きつけだ。


「やっほー荒船、穂刈。奇遇だね」
また犬飼くんが朗らかに挨拶をする。


「おー、犬飼、みんなまとめて一緒か?」
「ううん、おれらは別だよ」
どうして同い年の男がこんなに来るんだろうか。どいつもこいつも仲良しか。
せめて柚宇ちゃんとか今ちゃんが良かった。

もうこうなれば、ヤケだ。


「荒船君と穂刈君ここ座る?」
「は?」
「え?」
荒船くんと犬飼くんが同時にリアクションをする。
なんで犬飼くんは嫌そうな顔をするの。
私は最後お皿に残っていたお好み焼きを口に入れた。よし、完食だ。

「いや、宮木まずいんじゃないか。流石に」
「馬に蹴られて死にたくねぇよ、俺は」
穂刈君と荒船君は手を前に出して断固拒否のポーズだ。

「私達もう食べ終わるから。そうしたら先に帰るし」
今の時間は混んでて席もほぼ埋まっている。きっと2人は影浦君達と話したいだろう。
犬飼くんのお皿も空になっていてもういつでもお店から出れる。

なんなら、私だけ先に抜けて、犬飼くんを置いて帰ろうと思っていた。女子1人だけなのが肩身が狭い。


「犬飼くんも残る?」
「えー、それひどくない?おれ帰り送ってくよ」
「そんな、良いよ良いよ」
「いや、それは譲れないな〜聞きたいこともあるし」
犬飼くんは立ち上がって私の横までくる。そして腕をぐっと掴んだ。
あ、これ逃げられないやつ。

急に狭まる距離感に思わず顔を赤くした。みんないるのに。距離感がおかしい。

「じゃあ、おれらは帰るね。ごゆっくり〜!」
「え、あ、ご、ご馳走までした!みんなバイバイ!雅人君も、みんなによろしくね!」

みんなへの挨拶もそこそこにそのまま入り口のレジまで連れて行かれた。
そういえば、慌てて呼び名を間違えてしまった。怒ってないといいけど。



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