「I have a bad feeling about this.」 31
3月1日、私は忍田さんと依織さんに言われてランク戦を観戦しに来ていた。
2人にヒュース君の初めてのランク戦、みんながどんな反応か見てきてほしい、
まさかとは思うが近界民とバレやしないか確認してきてと言われてしまえば断ることもできなかった。
しかも、真野隊はこの時間帯なんと防衛任務中であり、私だけ一人抜けて観戦である。
この間の入隊式の時には特に変な行動は見られなかったし、アフトクラトル出身であることがわかる角を隠したトリオン体で行動しているので早々ばれることはないだろう。
なにより今回も解説はしなくていいということなので、気楽な気持ちでランク戦室に入ろうと思ったタイミングで声を掛けられた。
「あれ?尚美チャン、ランク戦見に来たの?」
「えっ、あっ……」
後ろから来たのは犬飼くんである。彼こそわざわざランク戦を下で見るのは珍しいと思った。
いつも見るときは隊のみんなと作戦室か上の観覧席が多い。
「ひょっとしておれ見に来てくれた?うれしいな」
「…え?」
今日の試合は玉狛、影浦隊、鈴鳴、東隊だったはず。二宮隊は出ていない。
そもそも出るのであればこんなところにはいないだろう。
すなわち、犬飼くんの言葉が意味することは。
「犬飼くんひょっとして解説するの?」
「そーだよ。あれ、知らないできたの?」
「知ってるわけないじゃん」
知ってたら来ないよ。
内心思ったが口には出さない。
このまま部屋に入るか迷う。上の観覧席にでも行こうかと考えた。
「まさかとは思うけど玉狛の応援?」
犬飼くんの表情が変わった気がした。
「いや、そんなことは」
「それともカゲ?」
犬飼くんが屈んで顔を覗き込んできた。
「…違うよ」
さすがに忍田さんと依織さんに言われて玉狛の新人を見に来たとは言えず、否定だけする。
犬飼くんにヒュース君の素性を教えるわけにはいかない。
「やっぱ玉狛だよね、この間の入隊式の時もなーんか変なことしてたみたいだし?」
入隊式の時にC級隊員の恰好をして参加していたことは犬飼くんにばれているようだ。
目的までは気づかれていないようだが。
私は基本的に隠し事は苦手だ。目を合わさないようそっとそらす。
「君は本当に玉狛贔屓だよね」
私の三つ編みを犬飼くんがくいっと引っ張る。やさしく触るので痛みはない。
「三雲くんにわざわざ何度も教えてあげたり……雨取ちゃんに「鉛弾追尾弾」教えてあげたのも君でしょ?」
三雲君の事は犬飼くんに言ったので知っていて当たり前だが、まさか千佳ちゃんの事も知っているとは。
驚いてとっさに犬飼くんの顔を見てしまう。
「ひょっとして玉狛の新人にも何か関わってるのかな?」
ぞっとした。なんでここまでわかるんだろう。
この人はどうして自分の事をこうまで知っているんだろう。
何も言えないでいるのをみて、犬飼くんは続ける。
「君はいったい誰のもの?あんまりよそ見してると流石のおれも考えなきゃな〜」
犬飼くんがにっこり笑って顔を近づける。
「私が誰に何を教えようと犬飼くんに関係ないと思いますけど?」
負けたく無いと思い顔を背けて強気に答えた。
しかしこれが失敗だった。
「へぇ、そんなこと言うんだ?関係ない?へー」
犬飼くんの声がもう一段階低くなった気がした。
犬飼くんの手が私の顎に当たり、くいっと正面を向くように強く掴まれた。
「尚美、言わないとわからない?」
犬飼くんと目が合う。何を考えているかわからないその綺麗な目と。
目を見ると吸い込まれそうだった。
「犬飼先輩!ここにいた!もう始まりますよ!」
ランク戦室の扉が開かれ、片桐隊オペの結束ちゃんがいた。
開始時間、間際になっても現れない犬飼くんを探しに来たらしい。
犬飼くんとぱっと離れた。
「結束ちゃん、ごめんごめん、今いくよ」
犬飼くんが笑って話す。私はそのまま距離を取った。
「じゃ、尚美チャンまた後で」
「ちょっと出てくるって言ったっきり……宮木先輩に何してるんですが…いきますよ!宮木先輩失礼します」
結束ちゃんは犬飼くんに厳しい目をして引っ張っていった。
私はしばらくその場に立ち尽くしたままだったが、間もなくランク戦が始まることを思い出して、
あわてて上の観覧席に行くことにした。
扉を開けるとすでに何人か来ているようだった。
「あれ?尚美さん珍しい」
「お前、今は防衛任務じゃないのか」
出水君と二宮さんだ。この二人は意外にも師弟の間柄なので、よくこうやって一緒にいる。
近くには辻君もいた。
「はい、そうなんですけど、依織さんに見に行って来いと言われました」
嘘は言っていない。何を見に行って来いと言われたのかを言わないだけだ。
依織さんは普段から、無茶振りと悪ノリが多いのでなんとかなるだろう。
先ほどの犬飼くんにもこういえばよかったと心の中で思う。
「そうか」
二宮は私の返答に納得したようだ。
「尚美さん何飲みます?いつも通り紅茶でいいですか?」
出水くんが気を利かせて聞いてくれる。
本来であれば二宮さんの弟子である自分は出水君より下の立場であるはずなのだが、ここの3人の関係性は少し変わっている。
「え、出水君いいよ、自分でやるから」
そう断るが出水君は素早く紅茶を持ってきてくれた。
最近太刀川隊に行くときに紅茶ばかりお願いしていたから、覚えていたのだろう。
『……はい!…えー、みなさんこんにちは。B級ランク戦ROUND7実況の結束です』
やり取りしているうちに、ランク戦が始まった。
結束ちゃんはデータに基づいたわかりやすい実況に定評がある。
『解説は、二宮隊の犬飼先輩、嵐山隊の隊長嵐山さんです』
『どうもー』
『どうぞよろしく』
本当に犬飼くんが解説していた。
彼も元A級部隊出身だから呼ばれることはあるだろうが、驚いた。
普段はへらへらしているが、頭もキレ、コミュニケーション能力も高いので、解説に向いているのかもしれない。
ただ、二宮さんと辻君は犬飼くんの解説が心配で聞きに来たのかもしれないが。
『結束ちゃん久しぶりー』
『お久しぶりです』
『スカウト旅大変だったねーイケメンいた?』
犬飼くんと結束ちゃんが会話をしている。これは雑談だ。
『スカウト対象はほとんど中学生だったので、イケメンというほどのことは…』
『ホントに探してたんかーい』
『あっひどい!犬飼先輩!』
『ウソウソ冗談。マジメだなぁ結束ちゃんは』
ははは、と犬飼くんが笑って結束ちゃんをからかう。
何をくだらないことを言って結束ちゃんを困らせているのか。
『えーさて…』
結束ちゃんは咳払いをして、落ち着きを取り戻そうとしていた。
そうそう、犬飼くんとしゃべっていると調子が狂うようね。
『今回の試合ですが、お二方はどう見られますか?』
『どう見るっていうかまずは玉狛が一人増えてますねー』
犬飼くんが答える。
1人増えていると言うのはヒュース君の事だ。
『そうですね』
嵐山さんがうなずく。
『この時期にメンバーを増やすのはあまり見ないけど、連携とかは大丈夫なのかな?しかもB級上がりたて?』
『いや……彼はただの新人じゃないと思いますよ』
犬飼くんの話に嵐山さんが答える。嵐山さんは入隊式でヒュース君に会っているので、彼のことは素性も含めよくわかっているはずだ。
「玉狛に新人…ヒュース・クローニン。玉狛のクローニン班長と同じ名前だな」
「二宮さん、この間言ってた新人です」
二宮さんと辻君がヒュース君について話す。
次の最終戦で当たる可能性が二宮隊には十分あるため、今回の戦闘をみて対策を立てるつもりだろう。
「玉狛の新人、尚美さん見ました?」
出水君に聞かれる。この間の入隊式に出ていたのはばれているのでそこでの事を聞いていると推測する。
「うん、一人だけ違う色の隊服で目立ってたからね」
たまたま目についたから、という感じで話す。
「そういえば、お前なんであんな恰好してたんだ」
二宮さんが言うあんな恰好とはきっと、C級隊員の隊服だろう。
出水君か辻君どちらかが話したのかと思い、二人を見る。
「俺じゃないですよ!」
「…俺でもないです。俺は玉狛の新人の事しか言ってません」
出水君と辻君が次々に否定する。
「二人じゃない。太刀川だ」
二宮さんがあっさりネタばらしをした。
「太刀川さん…」
それを聞いて脱力する。思いっきり悪用されている。
「あいつにばれたら終わりだぞ」
確かに、太刀川さんを信じた自分が馬鹿だった。あの人が口約束を守るわけがない。
『おっと今ステージが決定されました。鈴鳴第一が選んだステージは…「市街地D」ステージは「市街地D」になりました』
今シーズン様々な試合を見ていて初めて市街地Dに当たった気がする。
『ではこのMAPの解説をお願いします』
結束ちゃんの振りに今度は嵐山さんが答える。
『「市街地D」は大きな通りとそれに面した大きな建物が続くMAPですね。MAP自体は狭いんですが、建物がどれも大きくて「縦に広いステージ」と言えるでしょう。建物の中もそこそこ広い空間があって、他のMAPより屋内戦が起こりやすいのも特徴です』
『大雑把に言って、大通りで戦えば弾トリガー有利。屋内で戦えば攻撃手有利って感じですかね。嵐山さんが言ったとおり縦の広さがあるんで、レーダー上では近くても相手がなかなか見つからなかったり…バッグワームで隠れ合いになると、炸裂弾で焼き出さない限りほぼ見つかんないんで、人によってはクソMAP認定もありなステージです』
犬飼くんが嵐山さんに続いて話す。
今回は生存点を獲るのが難しそうなステージだ。玉狛は点数が欲しいところでこのステージは厳しい。
「あちゃー、市街地Dか。メガネくんこれじゃますますワイヤーは難しいな」
「そうだね、得点が欲しいから自分たちから攻め込んでいかないといけないし」
出水君の考えに同意する。
何より今回は全部隊狙撃手がいる。ワイヤーの外から攻撃されたら意味がない。
『…時間です!全隊員…転送開始』
各部隊転送される。
『さぁ全部隊転送完了!MAP「市街地D」!時刻「夜」!』
今度は天候ではなく、時刻を変えてきたか。こう言う設定の仕方もアリなのか。
『各隊員は一定以上の距離をおいてランダムな地点からスタートになります』
前の画面を見る。各隊員の動きがわかりやすく表示されていた。
『さあ各隊員動き出した。初期配置は全部隊バラけて転送された模様。中央の大型ショッピングモールの中には3人。狙撃手の4人と玉狛の三雲隊長がバッグワームでレーダーから消えた。MAPを選択した鈴鳴第一はモールでの合流を目指す動きか』
モール内の3人はゾエ君、村上君、千佳ちゃんだ。
『ってことは狙撃手の射線を切って屋内戦狙いだね』
犬飼くんがそう判断する。
『今回「夜」という環境設定が追加されていますが、これも狙撃手対策のひとつということでしょうか?』
『うーんどうでしょうね、オペレーターの視覚支援があれば「暗視」状態にもできるので、ある程度経験を積んだ狙撃手ならそれほど影響はないと思います。逆に言えば暗い所と明るい所を出入りするたびに視覚支援を切り替える必要があるので、オペレーターの負担は少し増えるかもしれませんね。4人部隊の玉狛第二は特に』
結束ちゃんの問いに嵐山さんが考えて答える。
千佳ちゃんは外の狙撃ポイントに移動するようだ。
それ以外の隊員はみんなモール内に入ってくる。
千佳ちゃんはモール内での戦闘には不向きなのでいい選択だと考えた。
「二宮さん、夜のMAPやったことあります?」
「ああ、あるな」
「へぇー俺ないなぁ…あ、尚美さん達とやったか」
出水君が私を見てにっこり笑う。
以前遠征部隊による黒トリガー強奪の時に嵐山・真野隊と戦った時の事を言いたいのだろう。
「…そうだね」
あれはそもそもMAPではない。リアルな町だ。
それなのに、出水君ときたらお構いなしに通常弾や変化弾だけでは飽き足らず、炸裂弾まで撃ってきた。
『各部隊続々とモール内へ。この流れは鈴鳴第一の狙い通りか?』
『東さんとユズルくんがモールの中に入ってきそう。これは鈴鳴の予定とは違うはず』
『距離を詰めるのは狙撃手側にもリスクがあります。攻めの姿勢が吉と出るか、凶と出るか…』
『そして…ん?鈴鳴の狙撃手別役隊員は上へ向かわず一階の奥へ?どこに行くつもりなのか?』
狙撃手なのに下に位置取りするつもりか、何か考えがあってのことなのだろうか。
『おっと奥寺ここでバッグワーム?隠密行動にしては遅い、奇襲にしては早いような…』
『これはたぶんオペレーターへのいやがらせですね』
犬飼くんの疑問に結束ちゃんが解説する。
『レーダー上で意味もなく出たり消えたりされると、気になってムダに意識を割かれるんです。東さんの教え子っぽい動きだわ』
『なるほどさすか元・東隊』
ちらりと二宮さんを見る。二宮さんも元・東隊だ。きっとよく知る手なのだろう。
『影浦隊と鈴鳴第一が2人ずつ合流して本格的に戦闘開始!吹き抜けをはさんでまずは射撃戦から!」
「二宮さん、夜を選ぶときってどんな時ですか?」
二宮さんに訊ねる。
この中で一番戦術に明るいのは二宮さんだろう。
「…なんだ急に」
「いえ、狙撃手対策でも、オペレーターへの処理能力を狙う作戦でもまぁ、わかるんですが…」
私は自分の考えを話す、何かしっくりこないのだ。
「お前の「勘」が何か言ってるのか?」
「…はい。」
「じゃあ、そういうことだろう」
二宮さんは答えを言わない。
弟子になった時からそうだ。この人は簡単には答えを教えてくれない。
自分で考えさせる。それでいて間違いか正解かも言ってくれないのだ。
『あーっとここで三雲隊長と奥寺隊員が遭遇!お互いバッグワーム状態で気づかなかったか!』
結束ちゃんの実況にぱっと前を見る。
『一階では東隊が集結しつつあり!つかまった三雲隊長はどう動くか!?
一方上階での鈴鳴第一対影浦隊。別役隊員が合流しない以上、戦力的にはやはり影浦隊のほうが有利か!』
『あー結束ちゃんスカウト旅行ってたから、鈴鳴の一番新しい試合見てないでしょ』
結束ちゃんに犬飼くんが訊ねる。
『え?』
『最新の鈴鳴は一味違うんだなこれが』
私も記録を見ていたので鈴鳴の新戦術は知っているが、村上君が弧月を抜いた。これだと新戦術ではなさそうだ。
『黒い弧月……!?』
しかしそれを知らない結束ちゃんはこのことか、と犬飼くんを見る。
『これは……この黒い弧月が鈴鳴の新戦法に関係があるということでしょうか!?』
『いやあれは知らない』
『初めて見ますね』
犬飼くんと嵐山さんはあっさり否定する。
『新戦法はたぶんそのうち見れるでしょ。ほら実況実況』
犬飼くんを胡散臭そうに見る結束ちゃんに犬飼くんは笑って促す。
結束ちゃんはそろそろ犬飼くんに怒っていいはずだ。
「弧月って黒いのもあるの?」
この中で唯一の弧月使いである辻君に聞く。
「設定でいじれるんだと思いますが、俺も村上先輩が使っているところは初めて見ましたね」
それでは今回のランク戦用に設定してきたのだろう。
黒といえば鉛弾だがそれではなさそうだ。
『影浦隊と鈴鳴第一が至近距離で激突!ボーダー屈指のエース攻撃手が斬り結ぶ!』
これはなかなか面白い対戦だ。
影浦君は減点を食らったので今は得点は低いが、それがなければ村上君より高い点を持つボーダーでも指折りの攻撃手だ。
自分の師匠の二宮さんでさえ影浦君との1対1では負けることもある。
『変幻自在の二刀スコーピオン!攻めの厚さで圧倒する影浦隊長!』
そして村上君はレイガストを使う攻撃手の中では一番と言っていい実力者だ。
私も戦ったらあのガードはなかなか崩すのに骨が折れるだろう。
『堅いガードからの鋭い一撃!鉄壁の対応力を誇る村上隊員!この二人と玉狛の空閑隊員は個人ランク戦で鎬を削る好敵手でもあります!ここ最近の個人戦勝率データはこのとおり。影浦隊長が他二人に対してやや優勢か』
結束ちゃんは今この場で作ったのだろうか、画面にグラフが表示された。流石である。
『数字の上ではそうなってるけど、チーム戦の一発勝負だとわかんないよね。現に空閑くんは前の戦いで鋼君に勝ってるし「本番に強い人」ってのはいる』
『そうですね、エースの勝率6対4くらいなら部隊の連携ひとつで勝ちを引けます』
犬飼くんと嵐山さんは共に実力者だ。データではわからない強さ、というものを知っている。
もちろん結束ちゃんも十分それは知っているだろう。
『となるとカギになってくるのは……エースを援護する銃手の働き……ということになるでしょうか。両部隊銃手の現在の個人ポイントは来馬隊長7881点、北添隊員9728点』
わかりやすいようにまたデータを出してくる。
『結束ちゃん数字好きだねぇ』
犬飼くんは笑って話す。そう言いつつ彼も高校の数学はいい点数だったはずだ。
『北添隊員は援護役が多い銃手というポジションの中で単独で点を獲れる火力を持っている優秀な重銃手です』
『「足が遅い」「的がでかい」くらいしか欠点ないんだよね。ああ見えて』
嵐山さんはともかく、犬飼くんは褒めているのかけなしているのかわからない言い方だ。
来馬隊長は逆に、村上君の援護役を担うことが多いので個人ポイントを取りにくいポジションでありながらこの点数だ。
それはそれですごい。
私は来馬先輩が大好きだ。一緒に防衛任務に着くときはさりげなくフォローしてもらったことも何度もある。
『その火力差が響いてきたか!気づけば鈴鳴第一が防戦一方!影浦隊の切れ目ない攻撃で押しつぶしにかかる!これは盾が割れれば一気に崩れるぞ!』
『おっ』
『……あっ!?』
犬飼くん、結束ちゃんが反応した。
来馬先輩がシールドを解除して左手にも突撃銃を持ったのだ。
火力が上がったことによりゾエ君が被弾した。
『来馬隊長が両攻撃!?』
『出たぁ』
『来馬隊長が防御を捨ててWライフル!…いや守りは村上隊員が担っているのか!?通常弾と追尾弾の多角攻撃!北添隊員を押し返している!』
影浦君もシールドを張っているが分が悪いようだ。退く動きを見せた。
『このWライフルが鈴鳴の新戦法…!?』
『そのとおり』
『具体的には来馬隊長が通常より大きく前に出て村上隊員の盾のかげに入り…村上隊員に防御を任せて両攻撃。射撃戦の瞬間火力をUPさせる陣形ですね。これによって…「攻撃手を前に出して援護」がメインだった鈴鳴の戦術に「中距離での撃ちあい」という手札が加わった』
『一つ間違えると味方撃っちゃいそうな陣形なのにこの短期間でモノになっているのは、鋼くんの学習能力と、チーム練習の賜物だろうね』
「影浦…珍しいな」
「そうですね」
二宮さんと辻君の話に私は反応する。
「珍しい……?」
「あいつが退く選択は珍しい」
私にもわかるように説明してくれた。
「……確かに言われてみればそうですね」
あそこのチームは行き当たりばったりなところがある。
私が知る影浦君は不利になっても退かず、どちらかというとゴリ押しするタイプで、それにゾエ君とユズル君が付き合ってフォローする感じだ。
『戦場を店内へ移した影浦隊と鈴鳴第一!狭さと障害物の多さが両部隊にどう影響するか!』
結束ちゃんの実況に、視線を前のモニターに戻す。
『影浦隊長の死角を縫った攻撃!地の利を得たのは影浦隊か!?』
『そのようですね。あの狭さではさっきまで効果的だった来馬隊長のW追尾弾による多角的な攻撃も封じられている』
『影浦隊にしてはめずらしく頭使った戦い方だね』
犬飼くんも何度も影浦隊と戦っているからよく知っているのだろう。
何より影浦君が一方的に犬飼くんを嫌ってはいるが、犬飼くんは影浦君の事を仲のいい友人だと思っている。
『攻守再逆転!影浦隊が乱打戦を有利に展開していく!』
「…!」
すると途中で画面が黒くなった。モール内が停電しているようだ。
暗いなかで影浦くんはサイドエフェクトを使って何とか攻撃をよけているが、村上君はスムーズに動いている。これが鈴鳴第一の作戦か。
私の頭の中で全てが繋がった。
市街地D
太一君の一階での動き
村上君の黒い弧月
「なるほど。そういうことね……!」
『モール内が停電…!?』
『どうやら鈴鳴の太一くんが向かっていたのは1階の「電気室」だったみたいだね』
犬飼くんが言うように、ランク戦室のモニターには、太一君が分電盤を操作しているのが映し出された。
『鈴鳴の3人には「暗視」の視覚支援が入ってますね。暗闇で有利を取るためにオペレーターとタイミングを合わせて灯りを消したのか』
『…なるほど!じゃああの「黒い弧月」は…暗闇で太刀筋を隠すためのものだったんですね!』
嵐山さんの解説に結束ちゃんが納得したようだ。
三雲君たちの方でも停電はやはり起きていて、全員の動きが止まる。ここには鈴鳴は一人もいないので「暗視」の視覚支援を待つのだろう。
そう思っていたが、三雲君の腕が攻撃で落とされた。
持っていたレイガストの光を狙ってユズル君が攻撃したのだ。
経験の差だろう、奥寺君と小荒井君は弧月をしっかり鞘に納めており、光が出ていない。
「うおー!絵馬すげえな!撃ったよ。やっぱうちの狙撃手組は変態だなっ」
出水君が感心したようにいう。しかし褒めてるのか分からない言いようだ。
『影浦隊にも視覚支援が入った!』
結束ちゃんの実況のタイミングで今度は灯りがつく。そのタイミングで村上君が攻撃し明暗差に目がくらんだ影浦君には一撃が深く入る。
『影浦隊長にいいのが入った!これは致命傷か!?』
『今度は「相手の暗視を待って点灯か」これはえぐい』
『…かろうじて急所は外している!しかし左腕は伝達系切断!トリオンの漏出も大きいぞ!』
今は光ちゃんがあわてて暗視を消しているところだろう。
『場が鈴鳴第一に支配されてますね。鈴鳴は照明のON・OFFで何度でも好機が作れる』
「影浦でなければもっと決まってただろう」
影浦君との対戦経験が多い二宮さんがそう推測する。
「たしかに、影浦先輩は不意打ちが効きづらいですからね」
辻君も頷いた。
「このMAP誰が考えたんだろうな〜面白いな」
「太一君じゃないかな」
出水君の話に答える。来馬先輩や村上君では考えにくい作戦だ。
おそらく前に戦った那須隊の暴風雨からヒントを得たのだろう。
「太一か!たしかにあり得そう」
出水君はケラケラ笑った。
「この作戦だと、別役は全く狙撃をしない事になるがな……」
「……そうですね」
二宮さんの指摘にたしかに、と頷くのであった。
危機感を感じたユズル君が分電盤を打ち抜こうと狙撃をしたのだろう。しかし、盾トリガーが起動され、防がれる。
『別役隊員盾トリガー!?』
『反撃に備えていましたね』
やはり対策済みか。よく考えてある。
すると、ゾエ君が天井に向かって攻撃を放った。
『北添隊員が店内の電気系統を破壊!』
『なるほど。壊してしまえばON・OFFはできない』
『地味に気が利いてる。ゾエのこういうとこ好きだな〜』
犬飼くんは同い年の隊員の事をよく見てるし、好きなのだろう。それは私にも言えるのだが。
やはり同い年は特別だ。活躍しているのを見たりすると嬉しくなる。
『より大きなダメージを負ったのは影浦隊!さあここからどう動くか?』
『うーんまあふつうに考えればゾエの炸裂弾で壁壊してモールの外に出るとこだけど、今回は東さんや玉狛の雨取ちゃんの居場所が割れてないから不用意に出ていく行動は取りづらいとこだよね』
『たしかに東隊長がモール内にいることは他の部隊はまだ知らないはず「外に出たら狙撃手に狙われる」という意識はあるかもしれませんね』
誰か太一君をなんとかしないと、また照明のON・OFFで場を乱されるから危険だ。
小さく表示されたMAPを確認する。
玉狛の二人が行くようだ。バッグワーム起動している。
ようやくヒュース君のお出ましのようだ。
その実力が私も気にもなっていた。
大規模侵攻の時も直接は戦っていない。
かなり向こうでは優秀な兵だったんだろうと聞いている。
『ショッピングモール一階で動きがあった!別役隊員緊急脱出!先制点は玉狛第二!!これで鈴鳴第一の環境戦術は封じられた形!ここから試合はどう動くか!?1階で合流した玉狛の二人がこの先の展開の鍵を握るか!?』
そのまま二人は一気に6階まで上がっていった。グラスホッパーだろうか。
戦闘中の影浦隊と鈴鳴第一に割って入る。
『一気に上ってきた玉狛の二人がバッグワームを解除!3部隊間合いを取って牽制し合う!』
『これはお互いちょっと動きにくいね。下手に攻めると後ろを取られる。乱戦だと強いのはカゲだけど、さっきの攻防でやばい量のトリオン失ってるし…今回はまだ玉狛の新人の手札が割れてない』
『たしかにランク戦初参戦にヒュース隊員はトリガー構成の情報がまだありません。対する他の部隊としてはまずは様子を見て相手の手の内を知りたいところか』
『個人ランク戦だと弧月使っててかなり腕もよかったらしいよ』
犬飼くんはヒュース君の情報をおそらく辻君から聞いたのであろう。
『そうすると攻撃手寄りということでしょうか?』
結束ちゃんが訊ねるが犬飼君は明言を避けた。
『それはまだわかんないな』
3部隊が様子を窺いあう。
『さあ6階は2対2対2の三竦み!最初に動くのはどの部隊だ!?それとも下からの味方を待つのか!?』
ヒュース君が床に手をやった。何か仕掛けるようだ。すると次々に盾トリガーが起動し、影浦君とゾエ君を分断した。
一瞬で2対1になった形だ。
「エスクードか!しかもかなりの量だ結構トリオン食うぞ〜!」
出水君が前のめりでモニターを見る。
「そうだね、トリオン結構多いのかな?」
私も見て驚く。内心やはり角のお陰でトリオンが多いのだろうか、と考える。
『これは…盾トリガーで道を塞いだ!?』
影浦君をヒュース君と空閑君が襲う。
ヒュース君が弧月に手をやったので、近距離で切り合うのかと思われたが
『…でかい』
「でかいな!」
犬飼くんと出水君の言葉が被る。
ヒュース君は弾トリガーで攻撃をしかけるようでかなり大きなトリオンキューブを出していた。
それは私はもちろん出水君や二宮さんより大きい。
正直ここにいる3人はボーダーの中でもトップクラスのトリオン量を持っている。
それより大きいのは珍しい。
二宮さんの表情を見ると、何か考えるようにじっとモニターを見ていた。
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