「I have a bad feeling about this.」 35
ヒュース君と真野隊の噂も落ち着いた頃、
比較的歩きやすくなった基地内をカンナと歩いているときに聞き捨てならない言葉を聞いてしまった。
「おれほど二宮さん信者はいないからね!」
この声は私が目の敵にしている存在のものだった。
半ば無意識にそちらに行ってしまう。
「ちょっと尚美先輩、どこ行くんですか!?」
カンナが止めるがお構いなしだ。
あの思い上がりをどうにかしてやらなければ、という使命感に燃えていた。
「誰が二宮さん信者だって・・・?」
ゆらりとそのふざけたことを言った奴の目の前に立つ。
「お!宮木先輩久しぶり〜す!」
「里見君…!」
里見一馬。草壁隊所属のボーダーNo.1銃手である。
相手はのんきに手をあげて挨拶をした。相変わらずの陽気さだ。
「またそんなこと言ってるの!私のが二宮さんの事尊敬してるんだから!」
里見君に掴みかかろうとするがカンナに止められた。
「先輩おちついて!」
カンナに羽交い絞めにされるように止められるが、気にせず里見君に向かっていく。
「私が、一番、二宮さんの事を尊敬してる!」
「三雲も見てないで止める!」
カンナは一人ではどうしようもないとわかり、呆然と見ている三雲君を呼ぶ。
「え、ぼくですか?!……宮木先輩落ち着いてください!」
どうやら里見君は三雲君と話していたようだ。周りが見えていなかった。
「あっ…はい…すいません……」
後輩に恥ずかしい姿を見られて、申し訳ない気持ちから敬語になる。
「宮木先輩も二宮さん信者の一人」
里見君が三雲君にそう説明する。
「あっ、そうなんですか…」
三雲君は普段と違う私の様子に若干引いていた。
「信者ではないけど二宮さんは尊敬しているよ、当たり前」
なんたって、自分の敬愛する師匠だ。
三雲君が見ているので、落ち着くように心がける。
里見君とはいつも二宮さんの事で揉めるのだ。つい熱くなってしまって自分を見失う。
「三雲君どうしたの?二宮さんの事なんて聞いて」
二人の会話を止めてしまったことに気づいて、話を再開するように促す。
「あっ、はい、その…里見先輩から見た二宮さんの強みってどこですか?」
三雲君がそう聞くと里見君は即答する。
「一言でいえば…一対一最強」
「当然ね」
その回答にうなずく。
「……!?」
三雲君は納得していないようだ。何か疑問がある顔をしている。
「…それ弓場さんの時も言ってませんでしたっけ?」
「言ったね」
里見君は笑いながら肯定するのを横目でみる。適当な奴だ。
「まぁ、確かに弓場さんもそう言いたくなる気持ちわかる」
カンナは里見君の意見に賛成のようだ。
「ていうか俺の戦い方って二宮さんの戦法を弓場さんの技術で真似しているとこあんのね」
「あーそうだね」
カンナがうなずく。カンナは里見君と同じ銃手でよく弓場さんの事を知っている。
実際に個人ランク戦も数多くしているようだ。
「……!二宮さんの戦法を……!?」
三雲君は銃手の里見君が射手の二宮さんの戦い方を真似していることに驚いたようだ。
「そうそう」
カンナがまたしてもうなずく。里見君とも良く戦っているだけある。
「二宮さんには1対1のめちゃ強戦法があって、まあ説明すれば単純な話なんだけど、細かく割った「数」重視の弾と、大きく割った「威力」重視の弾。この二つを緩急つけて両攻撃するんだ。細かい弾で相手のシールドが広がったとこをでかい弾でカチ割ったり、逆にでかい弾で集中シールドを誘っておいて細かい弾ですりつぶしたり。二宮さんの腕とトリオン量が合わさるとこのシンプルな揺さぶりがめちゃめちゃ強いんだよね」
「わかってても真似できないよ、トリオン量もそうだけど、緩急をつける技術力ももちろんすごいから」
里見君の話に補足するように話す。
「……あの……一応ぼくたち次の試合で二宮隊と当たるんですけど、二宮さんの手の内明かしちゃっていいんですか?」
三雲君が申し訳なさそうに聞く。
「全然いいよ〜みんな知ってることだし、知ってても防げないから」
「記録見ればすぐにわかるし、帰ってから見てみたらいいよ。今の説明ももっとわかりやすくなると思う」
なんなら二宮さんが映っているところだけを集めたデータを私は持っている。ダビングしてあげたいくらいだ。
「一度捕まったら削り殺されると思ってたほうがいいよ、マジで。ていうか、今のB級ランク戦でもどうやってその戦法を破るかってよりも……そもそもできるだけ二宮さんと1対1にならないかっていう方向に対策が取られてるんだよね。うっかり二宮さんに狙われた時はひたすらガン逃げして時間稼ぎするか、捨て身で相討ち狙うか、もう死ぬ前提でなんか仕事するか……って感じ」
実際里見君の言う通り今シーズンのランク戦もそんな感じで各部隊対応している。
「まあA級時代も二宮さんとまともに撃ちあえたのって出水とここにいる宮木先輩くらいだったからその割り切りもしゃーなしとは思うよ」
里見君が私のことをビシッと指さす。
「私もほぼ負けてたけどね」
二宮さんとたまにやった個人ランク戦も勝ち越せたことは一度もなかった。
「個人的にはもっとバリバリ撃ち合う二宮さんが見たいけどね!」
「それは本当に私も思う!かっこいいもんね」
里見君とこういうところだけは意見が合う。
「その点でいくと……三雲君とこの新人くんは二宮さんにも負けない腕とトリオンを持ってるっぽいから久々の熱い撃ち合いを期待しちゃうねえ〜」
嬉しそうな顔で里見君は三雲君を見る。
「そうですね。チャンスがあれば……」
三雲君少し焦りながら同意する。
なにか対策を立ててる最中なのだろうか。
「……あの、素朴な疑問なんですけど「一対一最強」の2人が戦ったらどっちが強いんですか?」
里見君に三雲君が訊く。
「ふつうに闘えばやっぱ二宮さんだね」
「そうだね」
「うん」
私とカンナも同意する。
「二宮さんの方がトリオン能力も高いしその分射程もあって戦い方の幅が広いから……でも入り組んだ地形で弓場さんの間合いに持っていけるなら弓場さんのほうが有利な気がする」
「うーん、その可能性もあるね」
里見君の考えに、なるほどなと思いながら同意する。
基本的には私は二宮さん贔屓だが、弓場さんも強いのだ。
「……!」
次に弓場さんと当たるからだろう、そんなに強いのかと言ったような顔で三雲君は驚いている。
「弓場さんの間合いに入ったら、弓場さんが勝つよ」
カンナが銃手としてそう断言する。
「射手の攻撃って「キューブ出して」「キューブ割って」「狙って」「撃つ」っていうアクションにちょっとずつ時間がかかるんだけど、銃手は「狙って」「撃つ」だけで訓練すればするほど攻撃までの動きはすばやくなるから、間合いに入って「よーいドン」なら弓場さんみたいな近距離銃手に分があると思うんだよね。人によって意見は違うと思うけど」
三雲君にわかるように里見君が噛み砕いて説明する。
「なるほどそれはたしかに……里見先輩が銃手をしてるのはそういう優位性を踏まえてのことなんですね」
三雲君は里見君を褒める。
三雲君は人に教えを請うのが上手いタイプかもしれないと聞いてて思う。
嵐山さんといい、出水君といい、面倒を見たくなる何かがあるのか。
「いやいや!そんな頭いい感じじゃないよ!おれは単純に射手スタイルに向いてなくてさー焦ると弾が変な方向に飛んじゃって……その点銃手スタイルは動きを身体に叩き込んどけば反射で撃てるからおれの性分にあってるんだよね。射手みたく置き弾で罠を張るとかはできないけど、使えば使うほど体の一部になってく感じが楽しいよ!銃手トリガーは!三雲くんも興味あったらいつでも言って!レクチャーするから!」
たしかにC級の時に射手をやろうとして戸惑っていた頃の里見軍を思い出した。あの頃はひどかった。
私はなんとか物にできたが、あれは人を選ぶ戦い方だ。
「あっ、はいありがとうございます」
三雲君は里見君に深々とお辞儀をする。
「……今日はお話が聞けてよかったです。近い内に何かお礼させてもらいます」
三雲君はいつも出水君に教えてもらう時にも手土産を持っていっていた。この歳にして気遣いが出来る子だ。
「いやいやこのくらい全然!」
「一馬ぁ〜!」
里見君を呼ぶ声が聞こえる。
同じ草壁隊の佐伯君だ。
それに答えるように里見君も返事をする。
「おっ、うぅーい!……んじゃ三雲くんまたね!宮木先輩と紫も」
「はい、ありがとうございました」
「またね」
できればあまり会いたくないが、社交辞令として言った。
「里見!今度私と個人ランク戦ね!」
カンナは後ろから声をかける。
「はいはーい」
里見君はカンナに返事をしながら、草壁隊の2人のところに行ってしまった。
そういえば、スカウト旅から帰ってきてから早紀ちゃんにまだ会っていないことを思い出した。
都合をつけてまた会いに行くのもいいかもしれない。
「じゃ、私たちもそろそろ行くね。邪魔しちゃってごめんね三雲くん」
カンナと一緒に作戦室に戻ろうとする。
「あっ、はい……そうだ宮木先輩。借り、返してもらえませんか……??」
「え?」
三雲君に言われて、たしかに借りを1つ作っていた事を思い出した。
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