「I have a bad feeling about this.」 トゲめくスピカ
「おい」
「ごめん、急いでるから」
前までは見かければこちらの事はお構いなしに能天気な顔で話しかけてきていたアイツは、俺の顔を見るなりこわばった顔でそう言って反対方向に歩き始めた。
「ほら、あいつだよ」
「あ〜ボーダークビになった奴の共犯者」
「太刀川隊もあいつの事追放したらしいからな」
ひそひそと雑魚がアイツを見て言い合っているのが耳に入る。それはここ最近多少の違いはあれど良く聞いていた話だ。もともと女でA級一位の部隊に入っているのを雑魚がやっかむように言っているのを聞いたことがある。そこに今回の事件だ。二宮隊の鳩原の隊務規定違反。それにアイツが関わっていると上層部が判断した。雑魚どもがアイツを攻撃するにはうってつけのネタだっただろう。わざとアイツに聞こえるように言うあたりクソだ。アイツの背中に大きな棘が刺さっているように思えた。俺に向けられた感情ではないはずなのに、痛みを感じるようだった。周りの視線に負けて、足早にここから立ち去ろうとしているアイツの背中がより小さく見える。よくもわかんねぇ奴らがぐだぐだと言っているのを何を気にしているんだ。けど、アイツは昔から周りの評価を気にしていた。友達に嫌われたとか何とかで良くピーピー泣いていた。
背中が揺れているように見える。震えているんだろう。俺と違って他人からの悪意に慣れていないアイツにはつらい状況だろう。しかし弁解もせずにそれを甘んじて受け入れようとしている。なら俺が近くにいてやりたいと思った。他の誰もが近くにいてやれないのなら、俺が。
「待てよ」
「私と一緒にいると雅人君まで、悪く言われちゃうよ」
「かまわねぇよ。そんなん慣れてるわ、なめんな」
「そっか。雅人君は強いね」
こいつはそういってまた痛々しい顔で笑う。どうせ、俺を巻き込みたくないとかそんなんだろ。そうやって自分の隊の事も、犬飼の事も、二宮隊の事も守ってんだろ。独りで背負い込むつもりなんだろう。こいつは自分の居場所だったものを全部捨てて一人になろうとしている。俺の事も捨てようとしている。ここにいる誰よりも近くて、長く一緒にいたはずなのに。だが、血の繋がりってやつはそんな簡単に捨てれねえんだよ。
「雅人君、昔私が転んだ時に良く魔法かけてくれたよね」
「あ?んだよ、それ」
「痛いの痛いの飛んでけ、って」
「ガキの頃の話なんて忘れたわ。お前しょっちゅう転んでたし」
「そっか」
じつはかすかに覚えている。小学生のまだ低学年の頃だっただろう。一緒に帰っているときにこいつが転んだんだ。あまりにも泣きやまねぇから、子供だましに言ったんだ。そうしたらこいつが笑顔になったから、それから何回か魔法をかけてやった。
なんで今それを思い出したのかは知らねぇが、お前が今その魔法を必要としているなら何度でもかけてやるよ。
痛いの痛いの飛んでけってな。明日には笑ってろよ。
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