「I have a bad feeling about this.」 膝枕
ちらっと隣に座る彼の表情を伺う。もう今日何度目の事だろうか。いつも笑顔を絶やさない彼が冴えない顔をしているのだ。珍しい。よっぽどのことがあったんではないかと心配になる。私の部屋にいきなり来たかと思ったら、ソファーに座って何か考え事をし、時々こちらを見るけど、何かつぶやいた後にまた一人の世界に入ってしまう。さっき飲み物を出した時もいつもなら「ありがとね」ってお礼を言ってくれるのに、今日は飲み物を出したことすら気づいていなかった。いつも周りをよく見て、気にしている犬飼君には珍しかった。私の部屋に来たときはゆったり過ごしていることが多いし、別々に何かをすることもあるけど、ここまで放置されたのは初めてだった。何か私がしてしまったのかな。不安が胸をよぎる。何か思い悩んでいるのだろうか、ひょっとして別れ話かも。その考えに行きついた時は冷や汗が出た。私に別れ話を切り出すタイミングをうかがっている?どんどん考えは悪い方向に行ってしまう。私の悪い癖だとわかっているけど、やめられなかった。この間してくれたデートのお誘いを、なんて返そうかと悩むあまり、返信するのを忘れてしまって既読無視になってしまったのがだめだった?それともちょっと前のお泊りのお伺いを太刀川隊の宿題合宿で断ったのがだめだった?やっぱりこの間合コンに行ったのがだめだった?…思い当たる節が多すぎる。もし別れると言われたら私はショックですぐこの場で泣いてしまう自信がある。素直になれないだけで私はちゃんと犬飼君の事が好きなのだ。けど、あまりにもお付き合いに積極的でない私に嫌気がさしてしまったのかもしれない。
そこまで考えて、私はふと昨日たまたましていた女子会での会話を思い出した。
「この間の個人ランク戦のブース前通ったら、たぶんC級男子隊員がすごい落ち込んでるのみた」
「なんで?」
倫ちゃんの話に今ちゃんが相槌を打つ。
私たちはいつものようにお菓子を持ち寄って太刀川隊の作戦室に集まっていた。
「野次馬してた子に聞いたら告白して振られたらしいよ」
「それ私も知ってる!よく大衆の面前で出来るよね」
摩子ちゃんが話に入っていった。私は部屋の掃除をしながら話を聞く。太刀川さんも柚宇ちゃんも出水くんも掃除を全然しないので、この作戦室は主に私と烏丸くんで掃除をしている。掃除は嫌いではないし、いつもありがとうと3人ともおやつを作戦室に差し入れてくれるので、まぁWin-Winの関係だと思いたい。
「それで振られたとか、私ならボーダー辞めたい」
今ちゃんの言う通りだ。私も辞めたくなる。
「とりあえずジュースおごってあげたけど」
「え、優しい!」
倫ちゃんがそんな優しさ見せるなんて意外。私は思わず掃除の手を止めて、倫ちゃんを見る。
「私なら見られたくないかなって思ってすぐ立ち去るわ」
摩子ちゃんの意見に1票。もし私なら見なかったフリをして欲しい。
「いや、クラス同じだからなんか素通りできなくて」
「ずっと落ち込んだままでも嫌だしね」
今ちゃんはため息を吐く。
「男はすぐに落ち込むし、なかなかメンタル戻ってこないんだよね」
「そうそう、慰め待ちしてる!」
「わかる〜構って欲しいんだよね」
「元彼膝枕してあげたらすぐに元気になったよ」
「ちょろっ」
「案外そういうのが効くよね」
「まぁ、私なら落ち込んでいる時は一人にしてほしいけど」
「え〜そういう時ほど優しくしてほしい」
3人が段々と男の人の愚痴になっていった時だ。
「うんうん〜。おっぱい揉む?って聞いたらすぐに元気になるよね」
柚宇ちゃんがとんでもないことを言いだした。
「それどこが元気になるのよ」
今ちゃんが思わず突っ込む。
「ん〜〜まぁいろいろ」
「私には無理だっ…」
思わず私は頭を抱えてしまう。ハードルが高すぎる。この4人の話にはついていけないことが多々ある。いつもいつもタイミング悪く防衛任務が入ってる未来ちゃん!早く来て!なんて頭の中で願う。
「なんで?おっきいし喜ぶんじゃない?」
柚宇ちゃんが私の脇に手を入れて、胸を揉みしだいた。不意を突かれて、ガードが出来なかった。
「ちょっと、柚宇ちゃん!やめて!」
最後はみんなでおっぱいをもみ合って終わったが、それは置いといて、今がその彼氏が落ち込んでいる時なのではないだろか。
「す、みはる、くん」
ドキドキしながら声をかける。もし嫌がられたらどうしよう。でも、元気がないのなら元気を出してほしい。
「ん?なに?」
私の前では無理をせずに、素を出してくれるのはうれしいけど、何か力になりたいと思った。けど、そっとしておいた方がいいのかもしれない。
ぐるぐる頭の中であれこれと考えるけど、良い結論は出なくて、こうなったら頼れる親友達の意見を試してみようと思う。私は犬飼君の腕を引っ張り、自分の膝へと犬飼君の体を誘導した。
犬飼君も流されるように私に従ってくれて、ポンと頭を乗せる。膝だと痛いかなと思い、太ももに頭が来るようにした。
至近距離で私を見てくる顔は少し驚いているようだ。確かに驚くのも無理はない。こんなこと付き合ってしばらく経つが初めてするのだ。
「膝枕してくれるの?」
「うん」
「どうしたの?珍しいね」
「元気がない、気がして」
「そ?そんなつもりはなかったけど。考え事してたからかな、ごめんね」
多分嘘だ。私に気を使わせないように嘘をついている気がする。私の膝に頭を乗せている犬飼君を見つめる。向こうもこちらを見つめていた。
「なんかこういうのも新鮮でいいね」
「そ、そう?」
「うん、彼女に甘える彼氏って感じで。愛されてる感じがしていいね」
良かった。嫌がられてなかった。笑っている犬飼君をみてほっと息をつく。犬飼君は私のお腹の方に顔を向けて、ぐりぐり顔をこすりつける。それがくすぐったくて笑い声が漏れた。その拍子にうつむいた時に肩にかかっていた私の髪の毛が流れて落ちて、犬飼君の顔にかかりそうになる。あわてて手で掴もうとしたが、一足先に三つ編みを犬飼君が掴んだ。そして、それを手で弄ぶ。いつも隣に座ると無言で髪をいじってくることがあるので、それの一環だろうか。何か考え事をするときはいつも私の髪の毛を触るのだ。そして、私の髪をクイッと引っ張って自分に寄るように促す。そうしたかと思ったらそのままキスしてきた。
「……」
「ははっ、すげー驚いた顔」
私の顔を見て、犬飼君が声を出して笑う。
「なんでいつもいきなりするの」
「ん〜したいと思ったから?」
心臓に悪いからいきなりするのはやめてほしいけど、笑顔になった犬飼君を見たらほっとした。
貴方にはいつも笑っていてほしい。口にしてはなかなか言えないけど、そう思うから。貴方には笑顔がよく似合う。再び私たちは唇を合わせた。
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