外務・営業部長補佐!A
「唐沢部長、総務から頼まれていた書類です。それと何枚かハンコをいただきたいです」
「ああ、ありがとう。すぐに確認するよ」
唐沢さんが外務・営業部に帰ってきてすぐに声をかけ、書類を渡した。見かけたら遠慮せずにいかなければ多忙なこの人はすぐにまたどこかへ行ってしまう。唐沢さんでなければいけない仕事は山のようにあるし、確認が取れなければ進まない仕事も山のようにある。時間を有効に使ってもらうべく、唐沢さんが脱いだコートを預かって、近くにあるハンガーラックにかける。唐沢さんのデスクに戻ると、すでに椅子に座って書類を見ていた。リズムよくハンコを押している。
「ここら辺は問題ない、このまま行こう」
「はい、承知しました」
書類を数枚受け取る。部長の許可が下りれば動き出す仕事が何件もある。各部署に連絡を取らなければ。頭が高速で回転し始める。
「この取引先は少し問題がありそうだから今度直接私が行くよ、アポ取っておいてくれるかな?」
「はい、スケジュール確認します」
もう一枚書類を受け取る。取引先の場所的に一泊になる。唐沢さんが1日フリーな日は直近でいつだっただろうか。ついでにそこから近い取引先にも顔を出してもらおうか。ホテルはどこがいいか。指示されたことを忘れないように頭に入れる。
「それとこれ、さっき行ってきたスポンサーのとこでもらったんだ」
大きな紙袋を渡される。私でも知っているラスクで有名なお菓子屋さんのロゴが書いてあった。持ってみるとラスクにしては重たい。
「わぁ!すごいですね」
「かなりたくさん入っているから、仲のいい子たちのところにも持って行ってあげたらいい」
「ありがとうございます」
「最近遅くまで働かせて悪いね。残業もかなりしているだろう?少し休憩しておいで」
唐沢さんにねぎらいの言葉を掛けられてうれしくなるが、やることは山積みだ。
「ですが…」
「もう14時だけど、昼休憩まだ取っていないだろう?それを配るついでにのんびりしてきたらいい。さっき指示したことは休憩してからで十分だ」
「はい」
何故自分が休憩を取っていないことがばれたんだろう。残業もいつの間にチェックしたのだろうか。この人はこういうところが抜かりない。
「休憩は仕事の効率をあげる。それに隊員たちと話をして最近の情報を仕入れてくるのも悪くない」
そういわれてしまえば、休憩を取るしかなく、外務・営業部の部屋にはいられなかった。
紙袋を持って基地の廊下を歩く。最近忙しすぎて各部隊の作戦室の方へ行くのは久しぶりだ。おかげで婚活も全く進んでいないし、響子との飲み会もご無沙汰だ。
「あ、師匠!個人ランク戦しましょ!」
「あんたはいつもそればっかりだね」
太刀川隊の出水君に声を掛けられた。学校からそのまま来たのだろう。隊服ではなく学ラン姿だ。私の事を「師匠」と呼ぶが、弟子にした覚えもないし、師匠なんていなくても出水君は優秀だ。出水君が入隊した当時はトリオン量が多い有望な子がいると噂になったし、噂以上に才能のある子だったので、すぐに正隊員になっていた。当時まだ彼は中学生ですごくかわいかった。同じポジションということもあって、可愛がっていたのだが、若い子の勢いは恐ろしい。正隊員になってしばらくしてから「ちょっと付き合ってください」とブースに連れ込まれたと思ったら、「これくっつけたらどうなると思います?」などと訳の分からないことを言われ、見ていたら合成弾を作ってしまった。あれば驚いた。射手界隈に激震が走った。二宮君と一緒に合成弾のやり方を教わりに行ったくらいだ。しかし出水君は天才肌故、あまり人に教えるのは上手くなかった。「これをこう、ぎゅん!て感じすよ」ぎゅん!ってなんだぎゅん!って。ちなみに二宮君はその説明でわかったようで、すぐに合成弾を作っていた。
「これ、太刀川隊のみんなで食べて。ラスクだよ。有名なやつ」
出水君に先ほどのラスクの箱を一つ渡す。太刀川隊の作戦室にはあまり行きたくなかったからよかった。
「え、なんすかこれ」
「唐沢部長がもらったんだって。そのおすそ分け」
「へ〜ありがとうございます。ね、それより久しぶりにランク戦しましょーよ!」
出水君はラスクにはごまかされてくれなかったようだ。隣に張り付かれる。
「そんな暇ないし、私はもう一般職員!トリガーもありませ〜ん」
「え〜じゃあその紙袋なんすか。今からほかの部隊にも配りに行くんでしょ?」
「良くわかったね」
出水君は観察力がある。流石A級一位太刀川隊所属だ。戦闘以外ではぼけぼけな太刀川のフォローもいつもそつなくこなしている。トリガーがないというのも実は嘘だ。非常事態用に戦闘用のトリガーは渡されている。唐沢さんに何かあったらいけないのでボディガードも兼ねているのだ。
「せっかく久しぶりに会ったのに!」
「仕事忙しいんだよ〜残業続きでなかなか夜もランク戦室行けてないし」
仕事の合間にランク戦を観戦するのが楽しみだったのに最近はそれもできていない。
「え、彼氏が出来たからじゃないんすか!」
「なんだそれ!?」
出水君の言葉に驚く。彼氏?もしや私に彼氏?なんだそれは。
「や、噂になってたんすよ、師匠が最近ランク戦見に来てないのは彼氏が出来て夜に会ってるからだって」
「なんだそれ!?」
それしか言えなかった。どうなってるんだボーダーは。どこからそんな噂が流れるんだ。
「彼氏いないよ!誰だよ私の彼氏!いたら教えてほしいくらいだよ!」
「ガセすか!」
「ガセだよ!絶賛募集中だよ!婚活中だよ」
つい大きな声で余計なことまで言ってしまう。隊員達が快適に過ごせるように資金集め等残業続きで頑張っているのに、そんな噂が流れてるとはどう言うことだ。
「なんだ、師匠フリーなんだ。心配して損した」
「いや、フリーなことに心配して?私もう25だから。出水君」
「大丈夫ですよ!」
出水君ににっこり笑われたが、全然大丈夫ではない。若いから私のこの焦りがわかってないな?
「もうこの際出水君でもいい。いい人いたら紹介して。できれば23〜28まで」
17歳の出水君に言うのはおかしいが、もう紹介してくれるのであれば誰でもいい。どこに優良物件が転がっているかわからない。草の根かき分けても結婚相手を探さねばならない。
「え〜俺ダメじゃないすか」
「出水君に手を出したら私犯罪だから。ボーダーにもいられなくなる」
「それは困る。まぁ、独身でもボーダーっていう超安定就職先があるからいいじゃないすか」
「勤め先としてはいいんだけど、ボーダーだからこそ結婚相手見つからないんだよ〜。敬遠されるんだよ」
つい出水君に言わなくてもいいことまで行ってしまった。腕時計をちらりとみるとだいぶ時間が経っている。この場は退散しよう。
「じゃ、そういうわけで私忙しいからランク戦はできない!またね」
「師匠」
「ん?」
出水君に声を掛けられて振り向く。顔を見て後悔した。
「彼氏できるといいすね」
にやにやしながら言われた。年上に向かってするには不適切な表情だと思うが、自分よりだいぶ年上の女が結婚に焦ってあれこれしてるのがそんなに面白かったか。
「モテモテの出水君に言われると嫌味に聞こえるわ」
「そんなつもりないですよ」
モテモテは否定しないのか。若いってすごい。出水君学校とかで人気ありそうだもんな。彼女とか居るんだろうな。青春だ。
「ただ、師匠に釣り合う人、なかなか外にはいないと思いますよ」
お菓子ありがとうございます。そう言って出水君は立ち去って行った。
「どいつもこいつも……」
結婚に焦っている私を見て面白そうにしやがって。見てろよ。
「絶対寿退社してやる……!!」
ついにそう心に決めた。
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