元カノのプレゼント?
二宮がいつもつけている腕時計。
シンプルなシルバーのベルトに青い文字版の腕時計。
二宮が普段している服装になんとなく合わないような気がしてずっと気になっていた。
財布やキーケース等の小物はラインで揃えているのに、時計だけは別ブランド。
持ち物にこだわりがある彼がその時計をしているのは違和感があった。
付き合って半年ほど経つが、いつもその時計をつけているから違和感は増すばかり。
そして、ふと思った。まさか元カノから貰ったものじゃないか?と。
そう思ったら気になって仕方がなかった。せっかくのデートも時計ばかり気にしてしまう。
そりゃ私たちも成人した大人だ。元カノの1人や2人いたっておかしくない。
私だって元カレはいる。けど、元カノにもらった時計をずっと二宮がしてるのは何か嫌だった。
「ね、望どう思う?」
「どうでもいいわ」
それを大学の空き時間を利用してラウンジで友人の加古望に相談してみたが、冷たい返答だ。
「どうでもいいって酷くない?」
「酷くないわ。二宮くんのことはそこまで興味がないんだもの」
望と二宮はポジションが同じだからか、隊長としてチームのランクを争うことが多いからか、元同じ部隊だからか、仲がいいようであまり良くない。お互いをきっとライバル視している。
私が二宮を好きになった時も「趣味が悪いわ。やめときなさい」だったし、付き合うことになったと報告した時も「泣かされたら言いなさいね」だった。
けど、私がする話をいつもきちんと聞いてくれる。望のそういうところが私は大好きだ。
「元カノからのプレゼントかどうかはわかんないんでしょ?」
「わかんないけど、そんな気がしてるの。女の勘!」
「勘ねぇ、貴女勘そんなに良くないわよね?察するのもあまり上手ではないし」
「うっ、まぁ、そうですね……」
言われて確かにそうだと思った。何事も口に出してもらった方がいいタイプだ。
察しが悪くて二宮に何回もため息をつかれたことがある。あれは地味にダメージがあるんだよなぁ。
「本人に聞いてみたら良いじゃない」
「聞けたら苦労しないよ」
もし元カノからもらったものだと言われてしまったら自分がどんな表情になるか。きっと不細工な表情になってしまうに違いない。それを二宮に見られるのが嫌だった。だから聞く勇気が出てこない。この際私が新しく時計を買ってプレゼントしてあげようか。二宮の誕生日は数か月前に終わってしまったし、クリスマスも終わってしまった。そうなるとバレンタインか?
「おい、行くぞ」
考えていると後ろから声をかけられた。二宮だ。今日はお互い防衛任務が夜に入っているから一緒に本部まで行こうという話になっていたのだ。
「ごめん、探しにきてくれたんだね」
自分の時計を見れば待ち合わせの時間5分前だ。二宮は例の時計をつけていた。その時計しか持っていないのだろうか。
「二宮くん」
「ちょっと望……」
望が何を聞こうとしているのかがわかって止めようとする。
「……なんだ」
「その時計いつもつけてるけど、お気に入りなの?」
止める間もなく聞いてしまった。
「……そうだな」
「ふーん、貰い物?」
「まあそんなところだ」
二宮にしては珍しく言葉を濁した。誰かから貰ったものなのは間違いない。言葉を濁すということは言いにくい相手。やはり元カノか?
「そ、じゃあ私は行くわね。二宮くん、この子あなたに聞きたいことがあるらしいわよ?」
「……」
「その時計前の彼女にもらった物じゃないかって」
望は去り際にとんでもないことを言って行ってしまった。これでは私が聞かないといけなくなる。二宮もこちらをみて不機嫌そうな顔でいる。
2人きりになったタイミングで二宮から聞かれる。
「前の彼女ってどういうことだ」
「あ、えっと」
「隠し事をされるのは気分が悪い、さっさと話せ」
そういわれてしまえばもうはぐらかしたりはできない。
「はい、あの、その時計誰にもらったの?ずっとつけているから大事なものなんだろうってわかるんだけど、前の彼女からのプレゼントじゃ、ないよね……?」
「なんで前の彼女になるんだ。……これは東さんにもらったんだ」
「東さんに?」
「自分の隊を作るとなった時に、隊長は会議にも良く呼ばれるから時間を気にしろ、と言われてな」
予想外の返答に目を丸くした。まさかの東さん。元カノじゃなく東さん。ボーダーの東さん。
二宮の表情が少し和らいだ気がした。尊敬する東さんからもらったものだから、大切だし、愛着もあるんだろう
「加古には黙っておけ、ばれるとうるさい」
おそらく二宮だけ時計を貰ったとなると望は面白くないに決まっている。二宮に絡む事は間違いない。なるほど、さっき言葉を濁した理由もわかった。
「はいはい、わかりました」
笑顔で答えるが、それが安心からくるものだと自分でわかってしまった。
元カノじゃなかった。自分の考えすぎだった。
「お前は俺が今付き合っている女がいるのに前の彼女からもらったものを身につける男だと思っているのか?」
「いえ」
「お前は意味の分からないことを考えすぎることがある。考える前に俺に相談しろ」
「はい、すみませんでした」
不安は消えても次の二宮の誕生日には時計をプレゼントしてあげたいと思った。東さんのと自分の、どちらをつけてくれるんだろうか。
そして後日再び大学のラウンジで望と会った時に聞かれた。
「結局どうだったの?あの後わかった?」
「私が言ったって二宮には黙っててくれる?」
「ええ、約束するわ」
相談してしまった手前、言うしかない。二宮には黙っておけと言われたが、二宮より望の方が付き合いは長いのだ。
「二宮、腕時計は東さんに貰ったんだって」
望の顔色を伺いながら話す。しかしそんな事も杞憂だったようだ。望が笑顔で教えてくれた。
「あら、二宮くんもなのね、私もこれ東さんからもらったのよ。隊長になった時のお祝いに」
そういう望の腕には華奢な革のベルトの時計がつけられていた。