あなたが待ってる

今日の彼氏とのデートは決まった時から楽しみにしてた。私が観たい映画に付き合ってもらう約束をしていて、もう少しで公開が終わってしまうところだった。

「一緒に行こうね」って公開前に言ってくれてたから、幼馴染に「観に行こう」って言われても「彼氏と約束してるから」って断ってた。

何度も彼氏にお伺いを立てて、ようやく今日見に行けると思っていた。それなのに、約束の時間になっても彼氏は来ない。
1時間待っても来ない。
お昼を過ぎて、見ようと思ってチェックしていた時間も過ぎてしまった。
今日はもうだめかな。
今日というか、このまま振られるのかな。

最近彼氏は私とあんまり会ってくれなくなっちゃったし、学校でも他の女の子とよくいると今ちゃんや柚宇ちゃんに聞いたことがある。 

「浮気されてるかもよ」
「やめときなよ」 

そう何度も言われたが、あきらめられなかった。決定的な言葉を彼から聞くまでは付き合っていたかった。
気がつけば、ぱらぱらと雨が降ってきた。
傘は持ってきてない。
もう今日は帰ってしまおうか。
張り切って着てきたお気に入りのブラウスも、スカートもだんだんシミになって、濡れていく。
なんだが泣きたい気分になってきた。
このまま泣いたらすっきりするだろうか。
傘をさす人や、急な雨で走って通り過ぎる人をどこか冷静な目で見ながら、考えていた。
携帯にも何にも連絡がない。
何通かメールを送っているのに既読にもならない。

ふと横に人がいる気配がした。
少し距離が近いような気がして、慌てて距離を取ろうとするが、相手もまた詰めてきた。何だと思って相手を見て驚いた。


「お前こんなとこで何してんだよ」
「哲次……なんで」

幼馴染の荒船哲次が傘をさしてそこにいた。

「なんでって鋼たちと映画観に来てたんだよ。お前がいかねぇって言うから」

哲次は私を傘に入れてくれた。

「で?お前はこんなとこで何してんだよ」
もう一度同じことを聞かれる。


「彼氏を、待ってて」
「彼氏いねえけど」
「うん。振られちゃったかな〜」
言葉に出すと余計にみじめに思えた。

「だから、あいつはやめとけって言っただろ。いい噂きかねぇぞ」

きっと哲次も同じ高校の村上や穂刈に聞いたんだろう。
私の彼氏の話。
何度もあいつは大丈夫なのか?
良く考えたのか?と言われた。

そのたびに「哲次には関係ない。ほっといて」と耳を貸さなかった。
哲次にだけは彼氏の事を言われたくなかった。

「だって好きって言ってくれたんだもん」
そう、本当に言ってほしい相手には言われない言葉を彼はくれたのだ。

「好きって言った奴と誰とでも付き合うのかよ」
哲次はため息をついて、そのまま私の肩を抱いた。

「とりあえず、そのままじゃ風邪ひくだろ、帰るぞ」
「え、みんなは?」
「んなのどうとでもなる、今はお前のが大事だ」

そういって、駅の方へ移動しようとする。
大事ね。幼馴染だから。
前から哲次は私に優しかった。
けど、優しさ以上のものはくれなかった。

私は好きとか、愛してるとか、そういうのが欲しかったのに。

「哲次は本当に昔から優しいよね」
「あ?そーかよ」
「うん、ほんと優しい。嫌になっちゃうくらい」

つい本音をこぼしてしまった。
それを聞いた哲次は足を止めてこちらを見てきた。


「俺だっていい加減嫌になるわ。お前の馬鹿さ加減に」
「え」

辛辣な言葉に声が出る。
「優しいのは下心だよ、わかれよ」

「え」 

「映画見に行こうぜってのはデートの誘いだろ、察しろよ」

「え」

「今日だってお前が彼氏と映画見に行くって聞いたから心配で来たんだよ、気づけよ」

「ちょっと……」

「おれがお前に何年片思いしてると思ってんだよ、なめんなよ」

「哲次、ちょっと待って」

「何年待たすんだよ。待てねぇよ」


哲次に矢継ぎ早に言われて、パニックになった。理解が出来ない。頭が追いつかない。思い上がりじゃなければ、こういうことだろう。

「哲次、私の事好きなの??」
「じゃなかったらなんなんだよ。好きだよ。言わすなよ」

そういう彼の顔はいつの間にか赤くなっていた。

「そうなんだ。知らなかった」
「だろうな。知っててこれなら最悪だわ」

哲次は抱いた肩をぐっと引き寄せてきた。

「で、返事は?当然クソ野郎とは別れるんだろうな?」

「はい。別れます。哲次が好きです。付き合ってください」


そう返事すると、哲次はようやく笑顔を見せてくれた。いつもの自信たっぷりの大好きな笑顔だ。