プレゼントは…
今日はまだ高校も夏休み。
学校に行かなくていい分私はボーダー本部基地に毎日のように通っていた。
学校が長期休みの今、普段なかなか会う機会のない人が基地内にいて、個人ランク戦が沢山出来る。
ポイントを稼ぎ、実力をあげるチャンスなわけである。
昨日も個人ランク戦のブースに入り浸りだった私は迅さんに10本勝負を挑んだり、鈴鳴第一の村上先輩に指導してもらったり、普段は相手をしてもらえないような人と沢山ランク戦をしてもらった。
今日は誰がいるかな〜と思いながら歩いていたら何やらざわついていた。
いつもとは異なり、女子が多い。
オペもいる。
どういうことだ。
そこにはポジションが同じで、歳も同じの一番のライバル那須隊の熊谷友子がいたので、声をかける。
「くま〜やっほ〜どうしたの?」
「ああ、辻くん見なかった?」
「ん?見てないよ、なんで?」
話に出てきた辻くんとは、二宮隊の攻撃手であり、同い年の辻新之助である。
私とは違ってマスター級の実力で、名アシストとして知られている。
何故彼を探しているんだと、聞き返す。
「今日辻くん誕生日なんだよ、だからお祝いと思って」
「なるほど」
だからこんなに今日は人が多いわけだ、みんな辻くんを祝いにここにきているようだ。
辻くんはよく個人ランク戦をしているからここにはよく現れる。
私も何度も手合せしてもらっている。
私から誘ったり、時々辻くんからも誘ってくれるのだ。
女性が苦手な辻くんだが、私には少し赤くなる程度で比較的まともにしゃべれる方だと思う。
やはり亜季と友人なこともあるのだろう。
しかし誕生日とは知らなかった。
いつもお世話になっている分私も何かお祝いした方がいいのかもしれない。
たしか、シュークリームが好きだったような気がする。
とりあえずブースに入って今誰がいるのか、誰でもいいから私の相手をしてくれる人がいるのか見てみようと、いつも私が使っているブースに入る。
しかしそこにはすでに先客がいた。
いつも空いているからと油断して勢いよく扉を開けてしまった。
申し訳ないなと思ってその相手をみて驚いた。
「すいません!……あれ?辻くん?」
そうそこには先ほど話題に出ていた辻くんがいたのである。
しかも少しほっとしたような顔をしたような気がする。
「あ、どうも…おじゃましてます」
「いや、別に私の部屋じゃないから辻くん使ってていいんだよ、むしろ勝手に入ってごめん」
辻くんがぺこりと頭を下げてきたので、私もあわてて頭を下げる。
「いや、いつもここ使ってるから」
私がここを定位置にしていることをまさか知っているとは思っていなくて驚く。
「まぁそうだけど、それにしてもどうしたの?ランク戦してたの?」
みんな探してたよ、と付け加える。
しかし、ランク戦をしていたらみんな辻くんがここにいるって気づくよね。
外のモニターで見えるわけだし。
「隠れてた…」
「へ!?なんで!?」
まさかの返答だ。
なんで隠れるのか。
「今日、人がすごいから」
辻くんが顔を赤くして言いにくそうにする。
なるほど話が読めてきた。
「誕生日で沢山女の子に囲まれた?」
私が聞くと、こくんと辻くんは頷く。
なるほど。
辻くんの誕生日だからとみんな面白がって辻くんに近づいたようだ。
普段は辻くんの事を気を使って遠巻きにしている女子たちも誕生日だからと前のめりになってしまったんだろう。
「亜季とか、犬飼先輩は?」
いつもだいたいこの二人が助けてくれるはず。
「それが、準備があるからって、作戦室に。俺は、入れてもらえなくって」
「なるほど」
きっとこの後二宮隊の作戦室で辻くんの誕生日会をするのだろう。
二人はその準備をしていて、主役である辻くんは準備ができるまでの間は作戦室に入れてもらえないようだ。
それで一人で頑張って基地内で過ごしていたわけだ。
「さっきまでは奈良坂が一緒にいてくれたんだけど」
「うん」
三輪隊の奈良坂くんは私たちと同じ六頴館の同い年で、辻くんとも仲良しだ。
きっと奈良坂君にお願いして一緒にいてもらっていたんだろう。
高校でよく一緒にいるのを見かける。
「狙撃手の合同訓練があるからって」
「見捨てられたのね」
「それで、もう頼れるのが…」
「私ってことね」
「そういうことです」
話がだいたいわかってきた。
しかし、まさか辻くんが私を頼ってくれるとは思っていなかった。
少しうれしい。
辻くんは長身を少し肩身が狭そうに屈めて、こちらを窺っている。
女の子が苦手な辻くんが私を頼ってきてくれた。
なんとかしてあげなければ。
「ちなみに、作戦室には何時に戻れるの?」
「えっと、二宮さんが今会議中で、それが終わるのが11時だから」
二宮さんが戻ってきてから、誕生日会があるとしたら12時くらいから始まるのか。
時計をちらりと見ると今は10時を少し過ぎたころ。
「わかった。それまで時間を稼げばいいわけね」
「はい、よろしくお願いします」
それならすることは一つだ。
「辻くん!ランク戦しよう!20本勝負!」
20本したら1時間は余裕で超える。
ランク戦後に少し休憩して、そのあと二宮隊の作戦室まで護衛してあげればいい。
「20本!?そんなにするの?」
辻くんは驚いてこちらを見る。
確かにだいたいみんな10本勝負をすることが多い。
「うん。どうせ、ランク戦してみんなに辻君の場所気づかれても決着つくまでは誰も手が出せないでしょ?」
「まぁ、そうだけど」
「私からの誕生日プレゼント!私に勝ち越したら何か一個お願い事聞いてあげる」
マスタークラスの辻くんに勝ち越せるとは思えないけど、辻くんの誕生日だからいい。
いつも戦い方とか、弧月の使い方とか教えてもらっているからそのお礼だ。
「…えっ」
私からの申し出に戸惑っている辻君。
しかしそれには気づかないふりをして話を進める。
「決着つくまでに何お願いするか考えておいてね!ちなみに勝っても負けても作戦室まではきっちり護衛するから」
辻くんの事だからきっとそう言っておかないとお願いごとにそれを頼んできそうだから、先に言っておく。
「それはすごいありがたいんだけど、あの、」
何か言いたそうにする。
「ん?なあに?」
「お願い事、なんでもいいの?」
長身の辻くんに見下ろされているはずなのに、こちらを覗う姿はどこか可愛い。
「うん、もちろん。誕生日だもん。私が出来ることならなんでもするよ」
「わかった、じゃあ始めよ。俺、隣のブースに行ってくる」
辻くんはランク戦で見せるようなきりっとした表情になって、ブースを出ていく。
こうやって見ればほんとかっこいいんだけど、いかんせん普段の女子を目の前にした辻くんを知っているだけになんとも言えない。
そんなことを考えていると爆弾を落とされた。
「俺が勝ったら……」
私は勝負をする前から負けているようだ。そんなことを聞いてしまったら平常心ではいられない。