ウォーアイニー!
「好きです」
私は目の前のボーダー随一のイケメンにそう言われて目が飛び出そうな程驚いた。
技術者として働く私でも知っているほどの知名度を誇る彼だ。
「えっと、玉狛の烏丸君だよね」
念のため確認した。
私は人の顔と名前を覚えるのが苦手なのだ。
「そうです」
本人が肯定してくれたので、やはり目の前にいる彼はA級1位部隊太刀川隊に所属していた烏丸京介君なのだろう。
そして今は玉狛支部所属。
なんでこんなに詳しいかというと同期の女の子でファンの子がいるから。
横であれこれ言われていれば嫌でも覚える。
「私であってる?」
念のためこれも確認した。本部基地の廊下で出会い頭に言われたのだ。違う人と勘違いして言ってしまったのかもしれない。
「はい。間違いありません」
「そ、そう」
断言されて戸惑う。
私たち今初めて話したよね?多分。
私はボーダーに所属する中では古株の方だが、戦闘職の子とは面識はほとんどない。
こんなイケメンな子に話しかけられたら流石に覚えているはず。
私の戸惑いに気づいたのだろう。
少し距離を取っていた私に対して、一歩前に出て距離を詰めてきた。
人気のない廊下で良かった。
これで人に見られていたら変な尾ひれやらなんやらがついてボーダー内に広まっていたかもしれない。
「好きです」
「うん、気持ちはうれしい」
先ほどと同じことをストレートに言われて、思わず赤面してしまったが、落ち着こう、落ち着こう自分!と言い聞かせる。
そう、私は大人。
成人した、立派かどうかはわからないが、大人だ。
大人の対応をしなければ。
いくらイケメンでも、
彼が実は好みドストライクな顔をしていても、
だめなのだ。
「えっと、烏丸君、私何歳か知ってる?」
「レイジさんと同じ年の21歳と聞いています」
それを聞いて、そうか玉狛には同い年の木崎がいたか、と気づく。
「うん、そうだよ。烏丸君は今16歳だよね」
「はい、そうです」
16歳、高校一年生。
若い。
若すぎる。
「好きって気持ちはすごくうれしいけど、その気持ちには答えられないよ」
「なんでですか」
さっきまでずっと同じ表情だった烏丸君が少しむっとしたのがわかった。
年相応の表情はするらしい。
少しそれを見て可愛いなと思ってしまった。
「未成年の子と付き合うほど私は馬鹿じゃないよ」
「じゃあ馬鹿になってください」
「ならないよ!まず犯罪だから!捕まるよ私!」
烏丸君の勢いについ冷静さを失い声を荒げてしまった。
馬鹿になってくださいって。
無表情で言うからサイコパスかと思った。
高校生の勢いってすごい。
「同意の上で付き合うんだから問題ないはずです」
「君はまだ未成年だから、責任能力がないの!」
「というか、俺付き合ってくださいとは言ってないのに、付き合うこと考えてくれたんすね」
また烏丸君の表情が変わる。
にやっと少し口角をあげた烏丸君。
ぐっ、イケメン。
「いや、それは……」
上げ足を取られて口ごもってしまう。
確かに好きですとしか言われていない。
それを私はなんて思い上がりを。
好意だけ伝えてくれただけかもしれないのに。それこそ好きにもいろいろある。
尊敬とかそういうのかもしれない。
そうだ。
そういうことにしてこの場は切り抜けよう。
「まぁ、俺は付き合ってほしくて告白したんすけど」
「……」
先手を取られた。
逃げ場がない。
「で、どうですか?俺」
「だから、未成年とは付き合えない」
これは譲れない。
断言する。
もしここで付き合ってみろ、ボーダー内のファンクラブから血祭りにされる。
あの年増のババアとか若い子に言われるんだ。
それはつらい。
未成年に手をだしたクソ野郎と同い年の奴にも後ろ指さされるに決まっている。
それは嫌だ。
「じゃあ、あと4年待っててくれますか?」
烏丸君は表情を変えずにとんでもないことを言った。
4年って。
確かに君成人してるけど。
「その頃には私25だよ」
「足し算なら俺もできます。流石に高校生なので。」
そんなことはわかっている。
言いたいのはそういうことではない。
男子高校生が4年も待てるわけがない。
きっと同い年とかの可愛い女の子に目移りするはず。
思春期を舐めたらだめだ。
きっと私に対する好意も年上に対する憧れとか、いろいろだろう。
そのうち熱も冷めるはず。
ん、これでいけるんじゃない?
私はひらめいた。
「じゃあ、烏丸君が成人して、それでも私の事好きで、私も付き合ったりしている人がいなかったら、その時は付き合おう」
私はそこまで自信過剰ではない。
このボーダーbPモテ男をたくさんの可愛い女の子達が狙っているのだ。
それに靡かなければ男ではない。
玉狛支部なんて木南ちゃんとか、宇佐美ちゃんがいる!ほら。
そんな子たちと一緒に過ごすうちに、あれ、俺ひょっとしてこいつの事好きかも…なんて烏丸君も気づくはずだ。
それに私だって、4年たてば彼氏がいるかもしれない。
何なら結婚しているかもしれない。
そんな打算的な考えで提案した。
人気のないうちにこの話を終わらせて自分のホームへ戻りたかった。
ラボが恋しい。
「わかりました。その時は結婚を前提に付き合ってください」
烏丸君がどさくさに紛れてとんでもないことを付け足したが、私はそれには特に何にも思わずに了解し、その場を立ち去った。
それが間違いだった。
後日廊下を歩いているときに、久しぶりに同い年の風間と諏訪に会って話しかけられたと思ったら
「木崎に聞いたぞ、お前烏丸が成人したら婚約するらしいな」
「未成年に手を出すとか勘弁してくれよ。レイジ心配してたぜ」
「は…?」
言われた言葉に頭が理解できなかった。
あわててラボに帰って寺島にも聞いてみると、どうやら最近烏丸君に告白した女の子が「俺、成人したら婚約する約束したから、付き合えないごめん」と断られたらしいのだ。
女の子がそれって誰!?と聞いたら烏丸君は私の名前を出したと。
しかも笑っていたそうだ。
あのほとんど無表情の烏丸君が。
「私、ボーダー辞めようかな」
「冗談は顔だけにして、さっさと仕事して」