one more time!

目が覚めて真っ先に思ったのは「やってしまった」という事だった。いまいち昨日の事は覚えていない。ボーダーの暑気払いと称した飲み会で、成人済みの有志がかなり集まって大規模な飲み会が繰り広げられていた。私も非番だったので、それに参加していた。なぜなら片思いの相手が参加すると風の噂で聞いたからだ。しかし、そこで話しかける勇気がなかなか湧かず、女友達とカクテルをがぶ飲みした。そこまでは覚えていた。横目で片想い相手をチラチラ見ながら女友達に私が彼のどんなところが好きで、かっこいいと思ってるのかをひたすら語った。

そして今、何故かその片思い相手がベットの隣にいるのだ。見たところ、ラブホテルではなく、普通のワンルームの部屋のようだ。彼の家なんだろう。来たことがないから仮定の話にはなるが。部屋の掛け時計を見つけると時刻は4時を少し過ぎたころだった。まだ外は暗そうだ。相手は眉間にしわを寄せた状態でまだ眠っており、若干酒の匂いとタバコの匂いを纏っている。私と同じでかなりお酒を飲んだのだろう。私は恐る恐るベッドから抜け出す。
「あたま……痛い…」
思わず、ふらっとよろめいた。私は何にも着ていなくて、裸の状態だった。そして、下半身の違和感がすごかった。痛みがあった。おそらくこれはヤってしまったのだろう。相手もちらっと見たところ、上半身は裸だった。お酒の飲みすぎによる頭痛なのか、今の状況をみて頭が痛いのかわからないが、相手が起きてしまうとまずいと思った。逃げるに限る。目覚めてすぐの頭にはもうすでにキャパオーバーだった。ここから離れて、自宅に帰ってゆっくり考えて落ち着きたい。そもそもこんな彼の匂いがいっぱいの部屋では落ち着いていられなかった。ベッドの下に散らばっている自分の服を、ゆっくりとした動作で拾い上げて、音をたてないように身につける。ショーツが汚れるのも気にしていられなかった。帰るまで持ってくれたらいい。4-5歩歩くとどろっとしたものが中から出てくる感触があった。思わず手で確かめる。これは……


「……で?逃げてきたわけだ」
同い年でボーダーに所属している女友達の部屋にそのまま逃げ込んだ。あまりの動揺に自分1人の家には帰れそうもなかった。彼女はボーダー本部基地内の居住区に住んでいる。昨日の飲み会も一緒に参加していたのだ。彼女はかなりの酒豪で私よりもかなりの量の酒を飲んでいたはずなのに、元気そうだった。こんな早朝に部屋にきたのにも関わらず、穏やかな笑みを浮かべている。そしてインスタントの味噌汁を私に入れてくれていた。二日酔いの体に染みわたる。

「はい、まぁ」
「二人でいないなぁとは思ってたけど、諏訪やるね。男じゃないか」
そう、その私の片思い相手とは諏訪洸太郎である。
「やるって、まぁ、ほんとヤっちゃったわけなんだけど」
「しかし、諏訪がそんなにつぶれるほど飲むなんて珍しい」
言われてみればそうだ。いつも風間や太刀川がつぶれているのを介抱する役が多いのに。前にも風間を背負って帰っている姿を何度も見ている。
「で?諏訪とはどうするの?」
「どうもこうもないよ、このままなかったことにしたい」
「なんで?」
彼女は私の言葉にぎょっとしてこちらを凝視してくる。私が入隊の時からなので約3年ぐずぐずと片思いを続けているのを知っている。そしてそれをずっと見守ってくれていて、今回も応援してくれていたことを。
「私、たぶん諏訪としてるとき、素顔だったと思う」
「…諏訪知らないんだっけ」
「知ってたらびっくりだよ。というか、知ってるのアンタと上層部しかいないと思うよ」
私は親に隠れてボーダーに入隊したため、ばれないようにボーダーにいるときは常にトリオン体でいるようにしている。今でこそ広報部にいるのでそこまで命の危険はないが、1年前までは戦闘職にいたため、危険なことはするなと親にばれたらすぐに辞めさせられていただろう。戦闘職から広報部に異動になった時に、元の姿にしようかと考えたこともあったが、ほとんどの人がトリオン体の私しか知らなかったので、いちいち説明するのが面倒だったこともあり、今でもトリオン体で過ごしている。そのせいか、諏訪も良いのか悪いのか私の素顔を知らないはず。昨日の飲み会だって、最初はトリオン体で参加していた。そうトリオン体で参加して普段なら飲まないアルコールを飲んでしまったので、かなり酔ってしまったのだ。そして、今朝あわてて諏訪の部屋から出た時に自分が元の姿に戻っていたことに気づいた。多分酔った勢いで換装を解いてしまったんだろうと推測する。

「諏訪も酔いつぶれてアンタの顔覚えてないって事?」
「そうだと願いたい…」
もし素顔を覚えられていてもボーダーでは私は素顔とはだいぶ違う姿でいるので、まさか私だとは気付くまい。大学で諏訪と素顔ですれ違うことがあるかもしれないけど、大学内では学部が違うし話したこともないので、バレる確率は低いはずだ。それにボーダーの飲み会だったんだから、ボーダーの誰かだと思って探すならボーダー内のはず。

「諏訪がどこまで覚えているかだろうけど…」
「絶対教えないで!ね!!」
普通に考えて、まず飲み会に参加していた人に聞くはずだ。きっと諏訪は目の前にいる彼女に私の事を聞くだろう。諏訪と彼女は同じ隊長同士仲がいい。手を合わせて懇願する。口の堅い彼女だが、悪乗りが大好きなのだ。面白いとおもったらぽろっと言ってしまうかもしれない。
「まぁ、いいけど」
「ありがとう!迷惑かけないようにするから」
「それより体大丈夫なの?」
彼女に指を差される。
「大丈夫、だよ」
「初めてだったんでしょ?痛くなかったの?」
「……」
そう私は処女だったのだ。あわてて部屋を出てしまったので確認できていないが、きっとシーツに血が付いていた事だろう。掃除が大変だろうから申し訳なかったな。
「とりあえずシャワー浴びる?そのままうちに来たんでしょ?」
「うん、話聞いてもらったら気分もだいぶ落ち着いたし、そうする」
彼女の優しさにほっとして、お言葉に甘えることにする。まだあれこれ相談したいこともあるし、内緒にしていることもある。


私が呑気にシャワーを浴びてる時にまさか諏訪がこの部屋に乗り込んでくるだなんてその時の私は想像していなかった。

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