クリスマスプレゼントは?


犬飼くんに手を繋がれて自分の部屋へと向かう。
廊下を歩いていると普段とは違って、人の往来が多く、途中であれこれ声をかけられたり、揶揄われたりした。一般職員の人なんかはお酒が入っているのもあるのだろう。手を繋いでいる私たちを見て「お熱いね!」「若いな!」「良いクリスマスを!」なんて声をかけてくる。
私はなんて返そうかと戸惑っていたが、犬飼くんは「ありがとうございます〜」とさらっと返してその場を離れていた。


犬飼くんの後ろ姿をみると、隊服でもなく制服でもなく私服で、久しぶりに私服を見たかも、なんて呑気なことを考えていた。
いつもの香水の匂いではない匂いがついている。部屋でご飯をみんなで食べていたのだろう。そう言う私も匂いがいろいろ染み付いているはずだ。

さっき犬飼くんが出てきた部屋は諏訪さんの部屋だから銃手のみんなで忘年会をしていたんだろう。
そうなると企画したのは諏訪さんか。
けど、なんで犬飼くんとあのタイミングで出会ってしまったのだろう。


「鍵開けてくれる?」
「あ、ごめん、うん」
いろいろ考え事をしていたら自分の部屋についていたことに気づかなくって、犬飼くんに言われて慌ててカバンから鍵を出す。
鍵を開けて扉を開いて、ごくごく普通に犬飼くんを部屋に招き入れてしまってから気づく。
送ってもらっただけなら玄関先でお礼を言って帰ってもらったらよかったのでは??

しかしもう遅い。なんなら犬飼くんはご丁寧に玄関の鍵を締めていた。チェーンロックもかけている。
そして靴まで脱ぎ始めた。

え、居座る気なんだろうか。

玄関で突っ立っている私を放って靴をきれいに並べて、コートまで脱ぎ始めた。玄関に置いてあるコート掛けに服をかけている。手慣れている。

けど、送ってもらった手前早く帰れとは言えないので、犬飼くんにはリビングに行ってもらって私は飲み物の準備をする。
私は少し眠たさもあって、上手く物事が考えられなくなっているようだった。

「おれ、音チャンと同じで紅茶がいいな」
「うん、わかった」

犬飼くんのリクエストに応えて丁寧に入れた紅茶を持ってリビングに向かう。
私の部屋にきた時にはいつも座るソファの定位置に座って雑誌を読んでいた。

「はい、どうぞ」
「ん、ありがとう」
サイドテーブルに紅茶の入ったカップを置いて、私も隣に座る。
来客があると思っていなかったから部屋は少し散らかっている。犬飼くんが今読んでいる本も前に誰かが遊びにきた時に置いていった女性ファッション誌だ。
これが欲しい、買ってもらいたい。なんて言ってたっけ。

犬飼くんがなんでこれを読もうと思ったのかはわからない。暇潰しだろうか。


「音チャン、これ」
犬飼くんが雑誌をパタリと閉じたと思ったら一つの紙袋を渡してきた。


「え」
左手でずいっと目の前に出された紙袋。私は反射的に両手で受け取る。
「えっと、これは?」
「クリスマスプレゼント」

「クリスマスプレゼント…!!」
まさかプレゼントをもらえると思っていなかった。
何故たまたま会った私にクリスマスプレゼント?!
この紙袋だと肌ケア用品だろうと予想する。
ひょっとしてさっきの集まりでプレゼント交換とかして手に入れた物だろうか?

「見ても良い?」
「どーぞ?」
許可が出たので袋を除くと小さなハンドクリームが3本可愛くラッピングされていた。
クリスマス会で当たったものの、自分では使えないから私に横流ししたとかそんな感じだろうか。

「かわいい、ありがとう」
きっと良い匂いのするハンドクリームなんだろう。ありがたく使わせていただこう。

「どういたしまして」
隣で様子を伺っていたらしい犬飼くんはにっこり笑っている。モテる人はやることがスマートだ。


「お返し、えっと…」

貰うだけではなんだか悪い気がして、慌てて周りを見る。借りを作るのもあまり好きではない。

私はさっきまで出ていたクリスマス女子会のビンゴ大会で当たった景品を思い出した。
そういえば中身はなんだろう。このまま犬飼くんに横流ししても大丈夫だろうか。我ながら良い考えが浮かんだものだ。

「ちょっと待っててね」

念のため中身をチェックしてみることにする。
クローゼットの扉の前に置いてある紙袋のところに移動して、開けてみた。
大きいけどそんなな重たくない。ブランケットとかそういう物だろうか。

紙袋の中には景品がそのまま入れられていてすぐに中身を確認することが出来た。

これはまさか……
「サンタの衣装だね〜」
後ろから覗いていた犬飼くんの声が耳元でして驚いて振り返る。
紙袋を覗き込んでニヤニヤしていた。

「これ、おれにくれるの?」
私に覆いかぶさるように手を伸ばし、犬飼くんは持っていた紙袋に手を突っ込んだ。
「いや、さっきビンゴ大会で当たったやつで…」

出てきたのはサンタはサンタでも、スカートは短いし、露出が多いサンタの衣装だった。女性用なのだろう。
誰だ!こんなプレゼント選んだ人!!


「ごめん、こんなの貰っても困るね、また改めて用意するから!」
慌てて犬飼くんからそれを取り返そうとするけどそれを許してはくれなかった。
さっと手を上に上げて私の手の届かないところにやってしまう。

「ありがとう。ありがたく貰うね」
「へ?!」
これを犬飼くんが着るのか、大丈夫なのだろう。
思わず変な目で見てしまう。
どんな格好をするのもその人の自由だけど、意外だ。

「おれが着るんじゃないよ?」
犬飼くんはそう言って私の体にサンタの衣装を当ててくる。
それが意味するところはつまり。

「クリスマスプレゼント、おれにもくれるでしょう?」

私に着ろって事ですか?

表紙