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「先ほどのタイマー、時間は見ましたか?」
「んーと、確か………」

正確な時間は分からなかったため、もう一度爆弾を見に行く。さっきより緊張感が走る。これが、爆弾……。

「43分6秒だよ」
「となると爆発時間はちょうど0時3分か……」

安室さんの言葉に首を傾げる。何でそんな微妙な時間なんだろう? 分からなかったけれど、わたしはとりあえずまだ40分以上時間があることにホッとした。レスキュー隊が間に合うかもしれない。僅かな希望を胸に託して。

「あれ、どうすればいい…?」「とりあえずそのままで。もしかしたらレスキュー隊や爆弾処理班が来るかもしれないので」

「ただし他の方が不用意に触れないように見張ってもらえませんか?」そう言われ、ぐっと拳を握る。「任せて!」大丈夫、それくらいなら、わたしにもできる。扉に背を預ける。あ……ここからじゃ爆弾は見えないか。見張らないといけないのは分かってる。でも、扉から離れるのは……怖い。それを素直に伝えると、安室さんはクス、と笑った。

「こちらに爆弾を持っていきましょう」
「うん!」

恥ずかしいけれど、許してほしい。それくらい、今の状況は異常だから。安室さんが近くにいるかいないかは、とても大きい。

「振動を感知する機能はなさそうですが……ゆっくりと落ち着いて持ってきてください」
そう言われた通り、恐る恐るその紙袋に手をかける。お、重い……。気を抜いたら落としてしまいそうだ。手にギュッと力を込める。手汗がじわりと滲む。握りしめた手は、血色が悪く、白くなっていた。時間はかかったが、何とか爆弾を扉の前に持っていく。「ありがとうございます」それを脇において、扉の前に座り込んだ。わたしの傍らには、もう一つの紙袋があった。これは、………へのプレゼント。お昼に、蘭ちゃんと園子ちゃんと一緒に選んで決めたもの。綺麗な色の、ネクタイだ。まさか、こんな事態になってしまうとはなぁ……。思わずため息が出そうになる。





それからおよそ20分ほど経ったが、レスキュー隊や爆弾処理班が来る様子はなかった。瓦礫をどかすのに思ったより時間がかかっているのかもしれない。膝に顔を埋めて何とか恐怖をやり過ごそうとしたが、もうそろそろ限界だ。あと20分ちょっとで……。爆発音はさっきからずっと鳴り止まない。なんでこんなことになっているんだろう? テロ? 思わず安室さんに聞きたくなるがなんとなく怖くて口は慎んだ。「名前、」不意に安室さんの声が響き、わたしはガバッと顔をあげる。な、なんだろう……。

「爆弾の解体を、君にお願いしたい」

「……え?」存外間抜けな声が漏れた。聞き間違いだろうか。わたしが? え? 頭の処理が追いつかない。

「時間がないんだ。このままだったら間に合わない」
「でも……」
「頼む。名前しかいないんだ」

そんなこと。無理だよ。安室さんならまだしも、一般人でしかないわたしが、爆弾解体なんて。できない。思わず俯いてしまう。

「名前」

爆弾のタイマーを見る。18分。わたしの……わたしたちの命のタイムリミット。妙に実感して、ガタガタ、と今になって恐怖が溢れる。待っていれば誰かに助けてもらえると思っていた。でも、現実は。

「大丈夫、僕もいるから」
「……!」

扉の向こうから、優しい声が聞こえる。安室さん………。一度深呼吸をする。そうだ、このままわたしがうだうだしていたら、安室さんも、わたしも、きっと死んじゃう。二度と、会えなくなる。このプレゼントも、渡せなくなる。そんなの、絶対嫌だ。生きて、もう一度安室さんに会う。そのためには、この爆弾を、解体しないといけない。

「安室さん……」
「ん?」
「わたし、解体するよ」

安室さんがいてくれるから。一人じゃない。彼も言ってくれたではないか。きっと一緒にいてくれる。
「ありがとう」と本当に嬉しそうな声が聞こえた。幻聴かもしれないけれど。安室さんが、穏やかに笑っていてくれるような気がした。

「何かハサミのようなものは持っていませんか?」
「あ、ソーイングセットの小さいやつなら!」

ポーチから小さなハサミを出す。これで準備はバッチリだ。わたしの様子を見て、周りの人がザワザワしている。何をする気だ、とその顔がわたしに問い詰める。急に背中がヒヤリとした。そうだ、わたしが、ここにいるみんなの命も背負ってるんだ………。ううん、今は考えたらダメだ。振り払って、「どうすればいい?」と安室さんに聞く。

「まずは外カバーを外しましょう。上に持ち上げたら外れるはずです」

その指示に従い、爆弾に手をかける。そっと上蓋を外すと、よく刑事ドラマで見かけるような発色のいいコードが並んでいた。これを、切っていくんだ……。ゴクリ、喉を鳴らす。「まずは下の方にある黄色いコードです」震える手を抑え、黄色いコードを探す。

「落ち着いて」
「うん」
「大丈夫。僕の言う通りにすれば、爆発はしないから」
「うん」
「…必ず助けるから」
「……うん」

一度目を閉じ、コードにハサミを通した。パチン。刃を降ろす。





それから約10分間。わたしはひたすら指示されたコードを切っていた。汗が止まらない。指の震えは収まったが、いつ爆発するか分からないという恐怖感の中、コードを切るのは気が滅入りそうだった。もう二度としたくないな……。そう思いながらわたしは手の甲で汗を拭った。時間はあと10分ちょっと。「何とか間に合いそうだな……」その言葉にホッとする。

「後は黒いコード。…それでタイマーが止まるはずだ」

言われた通り、黒いコードを切る。爆発しないことに安堵しながら、ふぅと息を吐く。………ピ、ピ、ピ。あれ、可笑しいな。

「安室さん……」
「何だ?」
「黒いコード切ったけど、タイマー止まらないよ………」
「何だと?!」

急にそう叫んだ彼に、一気に緊張感が増す。タイマーは、カウントを刻み続けている。「もう残っているコードはないよな?!」焦ったように言う言葉に………頷くことはできなかった。



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