09
どこかで地鳴りのような音がした。そう思ったときには、もう辺りは瓦礫にまみれていた。
「ゴホゴホ……何……?」
砂ぼこりが辺り一面に広がり、照明も落ちてしまったそこは、正に地獄だった。何があったか理解出来ず、みんな恐怖に震えている。支えが効かず崩れてしまった足で無理矢理起き上がる。も、もしかして爆弾……? 急いで出入口と非常口を確認するけれど、そこはすでに瓦礫に埋もれているか、変形してしまい開かないようになっていた。逃げることができない。呆然としながら震える手でスマホを取る。安室さん……。そこにはいつもでは考えられないような凄まじい量の不在着信が来ていた。圧倒的に量を占めるのは安室さんで、他にも蘭ちゃんや園子ちゃんからも来ていた。夕方別れたばかりの彼女たちは、今日わたしがここにいることも知っている―――心配してくれたのだろう。
「あ、安室さん………」
安室さんは来ているのか。それともいつも通り、遅れてくるのか。もしかしたら仕事でドタキャンされているかもしれない。そういうお仕事だから。だからきっとここには来ていないはず。着信の量、時間を調べれば彼が近くに来ていないことなんて有り得ないはずなのに、わたしは気付かないふりをした。安室さん、ここにいないよね? こんな危ないところ、来ていないよね……? 遅刻もドタキャンも許すから、お願い。今日だけは来ちゃダメだよ。
「安室さん……」
電話をかける。ワンコールもしない間にその電話は取られた。まるで連絡が来るのを待ち望んでいたように。
『名前!!無事か?!』
「うん、とりあえずは…でも大変なことになってるよ…。安室さん、まだ来ていないよね? 危ないから来たら絶対ダメだよ…!」
『何言ってるんですか!!』
電話口で安室さんが叫ぶ声が聞こえた。と同時に、扉の向こうから、聞こえるはずのない声が響いた。
「え……?」
『すいません、あなたの思いに反して実はもうそこまで来ています』
「安室、さん………」
電話口と扉の向こう、二重になって聞こえるその声に、じわりと涙が滲む。バカ、なんて危ないことを……。
「ケガはないの…?」
震える声でそう聞いた。扉に思わずそっと触れる。わたしの手の中でスマホのバッテリー切れの音がした。
「……僕の心配をしている場合か」
どこか呆れたような、少し怒ったような。いろんなものを含んだ声が聞こえる。そりゃあ心配するよ。安室さんは、怪我を怪我だと思わないような節があるから。いつも無茶して、ボロボロになっているから。「そちらこそ怪我はしてませんか」「も、もちろん!!」反射的にガッツポーズをして元気なことをアピールする。誰も見ていないのに。でも安室さんがクスリと笑ってくれたのが感じられたから、いいってことにしよう。
「…でも、安室さんが来てくれたってことはレスキュー隊もきっと来れるってことだよね!」
「………どうでしょう」
「え?」
「何度か瓦礫が崩れた音や小さな爆発の音も聞こえたので、時間がかかっているかもしれません」
「そ、そんな……」
少し軽くなった気持ちが、みるみる沈んでいく。レスキュー隊が来てくれるまで、後どのくらいなのかな。それまで、ここが崩れないことを祈ろう。
「……そうだ、名前。周りに何か不審な物は置いてないか?」
「え?」
「キャリーケースやトランクみたいな…」
「ど、どうだろう……ちょっと待ってて!」
キョロキョロと辺りを見渡す。するとロビーのカウンターの向こう側に何やら白色紙袋に入った大きな何かを見つけた。鉄製の、四角の箱。表紙についてるのは、デジタル時計……? とりあえずそこに置いたまま、もう一度安室さんがいる扉に走る。
「なんか、大きい箱みたいなのがあったよ。重そうで、デジタル時計?みたいなのがついてる……」
「!!気をつけろ、それは爆弾だ!!」
「ええ?!」
思わず大きな声を出す。咄嗟に口を抑えたがすでに遅い。叫んだ安室さんの言葉も聞こえたらしく、周りの人が「爆弾だって?!」と騒ぎ出す。瓦礫の影にみんな逃げ込むから、わたしはまるで一人ぼっちのように見えてしまう。ば、ばくだん……。聞きなれない単語に、頭がクラクラしそうだ。ぎゅっと手を握る。
「……大丈夫だ」
「…え?」
「死なせはしない。必ず守ります」
扉の向こうから力強い声がする。そうだ、1人じゃない。この扉の向こうには、安室さんがいてくれる。
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