04
「トランプ……?」
わたしや蘭ちゃんが首を傾げる。「そうです」安室さんが鋭い目をしてそう言った。阿笠博士が無事だと知り、コナンくんも戻ってきたところで切り出された言葉。安室さんに同意するようにコナンくんも頷く。
「うん!犯人はトランプの絵札に合わせて犯行をやってるんだよ!」
コナンくんは息を切らしながら説明してくれた。最初に襲われた目暮警部は名前が「十三(じゅうぞう)」だから、スペードのキング。スマホで検索してみると、確かにあの時に見た西洋の刀らしきものを持っていた。なるほど……。そして蘭ちゃんのお母さんは旧姓が「妃」だからスペードのクイーン。阿笠博士は「士」の字が十と一の組み合わせだから、スペードのジャックということだった。そして3人共の近くに、それぞれのトランプに描かれたものが置いてあった。だからどこかで見たことがあった気がしたんだ……。
「でもどうしてトランプなの? それもスペード……」
「スペードには「死」の意味があるんです」
わたしの疑問に安室さんが答えてくれる。同じようにハートには「愛」、ダイヤには「お金」、クラブには「幸福」の意味がある、と続けて教えてくれた。「死」か……。すごく物騒だな。あれ? ということは。
「じゃあ犯人はトランプになぞらえて、名前に数字が入ってる人を殺そうとしているの……?」
恐る恐る安室さんに聞く。「えぇ」その肯定の言葉に体が震えた。「それもおじさんに関係のある人物をね!」先程安室さんも言っていたことをコナンくんがみんなに伝える。みんなが驚く中、わたしはギュッと拳を握った。なんて事……。まだ幸い死者は出ていないけれど、その推理が正しかったら、後少なくとも10人は狙われるってことじゃないか…? 先ほど安室さんが「まぁ大丈夫でしょうが」と言った理由が、ようやく分かった。名前に数字が入ってないわたしたちはとりあえずは安心ってことなのかな? いやいや、そういう問題じゃない。これからも次々と身近な人が狙われていくなんて。不安はドンドン募っていく。
「犯人の目星はついているんですか?」
安室さんが硬い表情でそう聞く。白鳥刑事が唯一の手がかりであったバイクは盗難車だった、と苦い顔で言う。そんな、誰か検討もつかないの…? 重い空気が病室に漂った時、「犯人は恐らく村上丈だ!」ドアが開き、警察病院で入院していたはずの目暮警部が入ってきた。トレードマークの帽子とジャケットを羽織っている。怪我はまだ治っていないはず。白鳥刑事が心配しても「縫ってあるから大丈夫だ」と言うばかり。安静にしてなくて大丈夫なのかな、と疑問に思うも、とりあえず今は元気そうでよかった。人知れずホッと息をついた。「村上丈とは?」安室さんの言葉に目暮警部が答える。どうやら村上丈はカード賭博のディーラーで、10年前に殺人事件を起こして、つい1週間前に仮出所したばかりらしい。ちなみにカード賭博のディーラーとはトランプの賭博でお客さんにカードを配る人を指しているそうだ。不思議そうに顔を傾げるわたしに、安室さんがコソリと教えてくれた。そのまま目暮警部は10年前の村上丈の写真を見せてくれた。大勢の中にいる、隈のある男性。これが、村上丈……。
「村上か…。確かにあいつなら俺に恨みを抱いても無理はない」
「どうして?」
「俺が奴を逮捕したからだ!」
「そんな!刑事が犯人を逮捕するのは当たり前じゃない!」
その蘭ちゃんの言葉に、毛利先生は苦い顔をする。何かあったのかな……? 10年前に。あれ、10年前って確か…。最近も出てきた言葉だ。何時だったかな。
「その事件なら私も聞いたことがあります!確かその男は所轄に連行された後……」
「白鳥くん! その話はもういい!」
目暮警部がピシャリ、と白鳥刑事を咎めるようにそう言った。え、何で止めたの……? 犯人に関係することじゃないの? 分からないけれど、目暮警部と毛利先生のなんとも言えない様子にわたしたちは黙るしかなかった。安室さんもコナンくんも、鋭い目で彼らを見る。
「しかし村上はなぜ真っ先に俺を襲わないんだ? 俺に恨みがあるなら直接………」
「それは君を苦しめるためだろう。真綿でジワジワ首を締めるようにな……」
「………」
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その後毛利先生たちは次に狙われる可能性のある「十」の文字がつく女の人の警護へと向かった。蘭ちゃんたちは白鳥刑事の車に乗り、今日は帰るらしい。わたしも彼らと別れ、安室さんの車に乗った。
「ねぇ安室さん……」
「ん?」
「また誰か狙われるのかな……。ボーガンとかで、撃たれるのかな……」
あの場面に遭遇してしまったわたしは、ひたすら恐怖を押し殺すしかなかった。ボーガンに、毒。人の命を簡単に奪いかねないその行為。それも理由は毛利先生を苦しめるため。手はどうしても震えてしまう。
「……お前は、俺が守ると言っただろう?」
するとまた、温かい感触が身体中に広がった。運転席から安室さん……零くんが、わたしの肩をそっと抱き寄せてくる。背中をゆっくり撫でられると、幾分か気持ちは楽になった。「……うん」そう言うけれど未だに暗い顔をしているわたしに零くんが苦笑する。「とりあえず帰るか」そうして、車が発車する。こんな不安なんて、どうか取り除いてほしかった。
―――その夜、蘭ちゃんから電話がかかってきた。そしてあの時目暮警部に遮られたことを白鳥刑事から聞き、それについて教えてくれた。村上が妃さんを人質に取ったこと。毛利先生が妃さんを撃ったこと。その後、すぐに刑事をやめたこと。そして二人が別居したこと……。
「ねぇ。何で先生は撃ったのかな……?」
すぐに安室さんに電話をしてそのことを話してみた。電話口で安室さんが『うーん』と唸る。わたしはもう忘れかけていた夢を思い出した。安室さんが、わたしを撃つ夢だ。あの時のわたしがどんなことを思っていたのかは忘れてしまったけれど、でも、すごく悲しいことじゃないのかな。好きな人から撃たれるなんて……。寂しそうに話す蘭ちゃんに、何も言ってあげることは出来なかった。
『………事実がイコール、真実というわけではないだろう?』
「え………?」
『まぁ、僕は毛利先生ではないから全ては分からないけれど。でも、それでも何となくは……分かるかな』
「どういうこと?」そう聞き返しても彼はその後は答えてくれなかった。だから、安室さんのその言葉の真意は、分からなかった。
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