09


手紙にあった通り、わたしたちはM-18の棚に進んだ。いろんなワインがあって、目が回りそうになる。キョロキョロしながらも、安室さんに手を引かれながら後ろについていった。

「えっとM-18番の棚は……」
「あれだね………危ないっ!!!!」
「?!」

コナンくんの危ないという声とほぼ同時に、何処からか勢いよく矢が飛んできた。狙いは……多分、沢木さん。足元に仕掛けられた糸が引っ張られ、矢が飛んでくるようになっていたらしい。コナンくんの咄嗟の言葉に踏み止まったお陰で、怪我人がいなかったことが何よりの救い。ワインの樽に刺さっている矢は、見覚えがあった。思わず安室さんに擦り寄ると、肩をギュッと抱いてくれた。もしかしてあの矢は……。

「目暮警部と一緒の……!」
「警部さん! ここにボウガンが仕掛けられてるよ!」

ボウガンは近くにあった。そこにはスペードの「八」が置いてある。

「やはり仕掛けたのは村上で、あの手紙も村上が…!」
「だとしたら何故村上は「九」を飛び越えて「八」の沢木さんを………」
「! まさか!!」

そこでみんなが考えたのは、恐らく同じこと。嫌な予感がする。考えられるのは、最悪の事態……。そんな……。足が震えそうになったが、それを抑え、走っていったみんなを追いかけた。

ワインセラーを出てレストランへと戻る。入口である扉が閉まっているのを見つけた。

「あれ? 入口、ここだったよね……?」
「えぇ」

何で開かないんだろう? またもや嫌な予感がする。奈々さんがコートを取っていきたいと言ったのを遠くで聞きながら、わたしはガチャガチャとドアノブを回す。……やっぱり、開かない。

「きゃぁぁぁぁ!!!」

しかしその瞬間聞こえてきたのは、耳をつんざくような奈々さんの悲鳴。彼女が指さしている方向に目線を向ける……向けようとして、後悔した。咄嗟に安室さんが目を覆ってくれたが、もう遅かった。わたしは、見てしまったのだ。

ずっと現れなかった旭さんが、冷たく水槽の中に漂っているところを。





旭さんはすでに亡くなっていて、その胸元にはスペードの「九」が挟まっていた。一気に現場に緊張感が走る。それに加え、先ほどわたしが開けようとした入口、非常口、全てが塞がれているらしい。おまけにここは圏外……応援を呼ぼうと思っても呼べない。わたしたちは、完全に孤立してしまっていたのだ。これも、犯人の狙いなのだろうか。

「あんたのせいだ!」

度重なる不幸に、遂に仁科さんと奈々さんが毛利先生に詰め寄った。どうしてくれるんだ、そういう二人を止めることは、誰にもできなかった。無理もないよね、殺人犯に狙われているのは、もしかしたら自分かもしれないなんて。毛利先生も娘の蘭ちゃんも、「すまねぇ」と顔を顰めた。村上っていう人は、毛利先生にどれほどの恨みを抱えているのだろう。そこで少し考えを止める。……あれ? 少し可笑しくないかな? 最初の目暮警部や妃さん、阿笠博士などは毛利先生とはとても親交深いけれど、ここにいるほとんどは毛利先生とそこまで関わりがない。……村上は、毛利先生に恨みを持ってて関わりのある人を狙っているんだよね? それなら…………? 何かがおかしい、そう思って、安室さんに話しかけようとすると。

「村上が順番を変えていなかったってことは、次に狙われるのは奈々ちゃん、君ってことだ」
「や、やめてよ。そんな名前も知らない男……」
「でも心当たりはあるんですね?」

安室さんの鋭い指摘に奈々さんはぐっと唇をかんで俯く。警部さんたちにも促された奈々さんは渋々口を開いた。

それは、三ヵ月前のこと。
仕事帰り彼女は、一人で愛車を運転して帰宅していた。その時に携帯電話を片手に通話しながら運転していた彼女は、赤信号に気づくのがギリギリになってしまいラインよりもだいぶ前に出てしまったらしい。その時に横の車道を走っていたバイクと接触しそうになったという。幸い衝突はなかったけれど、慌ててハンドルを切ったせいでバランスを崩したバイクの運転手は転倒し、怖くなってそのまま逃げ出した。

「バイクの型はオフロードでしたか?」
「ううん、普通のバイクだった……」

どうやら今回の犯人が使っていたものとは別らしく、とりあえず奈々さんの話は無関係ということになった。でもやっぱり、あんな危険な運転を常にしていたら事故にも遭うよね……。バイクの人、大丈夫だったのかな。

とりあえずここからの脱出を優先しようとなり、女性とコナンくん以外の人で手分けして出口を探すことになった。「気をつけてくださいね」と安室さんに言われ、わたしはコクリと頷いた。去っていく背中。奈々さんもいるから、みんながいない間はわたしたちが守らないと……! そう意気込んで、彼女に、比較的近い距離に移動する。何もないといいけどなぁ……。

それからしばらく経ったが、まだ誰も戻ってこないような状況だった。犯人がいつ、どこから狙ってくるか分からないまま待ち続けるのは、案外怖い。募る恐怖は奈々さんも同じらしく、ソワソワと時計を見ている。

「みんな遅いわね。出口、見つからないのかしら……」

不安そうに言う奈々さんに「ですね……」と返した。まだかなぁ、そう思ってると少し離れた場所で蘭ちゃんがコナンくんを叱っているのが見えた。どうやらここを出ようとしたコナンくんを蘭ちゃんが止めたらしい。いくら頭がよくても、コナンくんはまだまだ子どもだ。好奇心旺盛すぎるのも困るよね。そう考えた時。

「あら? 停電?」
「え?」

突然辺りが真っ暗闇と化した。



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