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『一昨日、東洋火薬の火薬庫からオクトーゲンを含む大量の爆薬が盗まれた事件で、警視庁は百人を越す警察官を動員して捜査に当たっていますが、依然として、犯人の手がかりは掴めておりません』

昼時を少し過ぎたポアロ。客が誰もいなくなった中、テレビの音が響く。

「物騒だねぇ……」
「そうですね」

男性キャスターによって伝えられたその内容に、梓さんが眉を顰める。テーブルを拭きながら、僕もテレビを見上げる。

(オクトーゲンをプラスチックで固めるとプラスチック爆弾になる)

この犯人が爆弾を作るかは分からないが、その可能性も高くないことはないだろう。近々、警察庁も動くことになっているが、犯人の目的は何なのだろうか。テロか、個人的な使用目的か。
風見を使ってリークした情報によると、警視庁はまだ何も掴めていないようだ。捜査資料でももらいに行こうか。国民に被害が及ばないためにも、なるべく早く。

(時間はまだあるしな……。)

時計はまだ正午を少し過ぎた頃。名前との約束も夜遅いため、ポアロのバイトが終わっても時間はある。『それでは次のニュースです』ん?僕は見覚えのある光景に目を開く。

『昨夜遅く、杯戸町の黒川さん宅から火が出て、付近の家数件が延焼しました。人気のないところから火が出たため、警察では放火との見方を進めています。なお、最近多発しています一連の放火事件と手口が似ていることから、警察では同じ犯人の可能性も高いと見て捜査を……』

「この家は……」
「安室さん、ご存知なんですか?」

映し出された、燃えるその家は、数日前に話題になったところだった。黒川邸。家主が殺され、その後放火。二つに因果関係はないだろうが、何故家主もいなくなったこの家が……。

その途中、不意に店の電話が鳴り響いた。梓さんが子機を取る。「はい喫茶店ポアロです!」

(盗み出された爆薬、放火……。関係性は分からないが、時は一刻を争うな)

楽しそうに今日を心待ちにしていた名前の顔が頭に浮かぶ。なるべく行ってやりたい。いつも我慢ばかりさせてしまっているから。しかし、この状況では……。

「あのー、……安室さん、」
「どうされました?」

子機の受話口を押さえながら、梓さんが小声で話しかけてくる。「安室さんに代わってくれって」 そう言う梓さんの顔は、少し険しい。

「何か、相手の方の声が少し変で……」
「変?」
「はい。まるで機械を使ったような……」

不安そうにする梓さんから、とりあえず子機を受け取る。「もしもし?」

『安室透か?』
「えぇ」
『ニュースを見たか。爆薬を盗んだのは俺だ!』
「何?!」

告げられた内容に思わず声をあげる。梓さんがどうしたと驚いたようにこちらを見てきた。すぐに冷静さを取り戻し、眉をしかめる。……犯人だと? いたずらの可能性も考えたが、わざわざ機械を使うところから、信用性は高いかもしれない。
子機を持ったまま、バックヤードに移動する。このまま梓さんに聞かれるのはなるべく避けたい。『お前の携帯番号を教えてもらおうか』

「あなたのような方に教える義務はありません」
『ほー、俺からの唯一の連絡手段を断ち切ってもいいのかな?』
「……っ、分かりました、番号は…」

心の中で舌打ちをしながら「安室透」の番号を告げる。

『よし。今すぐ携帯電話を持って堤向津川の緑地公園へ来い。面白いものを見せてやる』
「緑地公園?」
『急がないと子供たちが死ぬぞ』
「なに?!」

そこで通話は切れた。緑地公園だと…?今は考えている暇はなさそうだ。エプロンを脱ぎ捨て、困惑する梓さんに渡す。

「安室さん?」
「マスターに今日の分の給料はいらないと伝えてください!」
「えぇ?!」

そのまま店を飛び出し、車に乗り込む。法定速度ギリギリに、緑地公園へと発車する。

『絶対絶対行こうね!』

名前の笑顔が脳裏によぎる。また断らないといけないのか。……落胆するが、仕方がない。アクセルを踏み込んで、車をとばした。





公園に着き、辺りを見渡す。面白いものとは一体……。車を飛び降り、川沿いの原っぱに目を向ける。「おや」 そこには見知った顔があった。そしてその後に空中を漂う物に、視線を動かす。……まさか。

「みんな、こんな所で何しているんだい?」
「安室のお兄さん!こんにちは!」

そこにいたのはお馴染みの少年探偵団の三人。三人の手元には、一つのコントローラーがあった。

「そのラジコン、君たちのかな?」
「これ?ううん、違うよ!」
「くれたんですよ!ヒゲを生やしたおじさんが!」
「これは爆撃だ!って言ってな!」
「!!」

彼らの言葉にすぐに顔をしかめる。まさか、やはり!!その黒いラジコンを見ると、どうやら胴体の下に何か付いているようだ……くそ!

「貸してくれ!」

僕の並々ならぬ気迫にすんなりとコントローラーは渡された。タイマーらしきものは見当たらない。衝撃で爆発するのか、犯人が遠隔操作をしているのか、分からないが、とりあえずラジコンを着地させなければ。「危ないなら下がってて」 と片手で彼らを制する。「危ない?」 と不思議そうに言われるが全てを説明する時間はない。僕は顔をあげる。

「みなさん、離れてください!これは爆弾です!」
「えぇ?!」

周りに向かって叫ぶと、どよめきが起きた。端的に言ったことが幸いし、子どもを連れて、みんな一目散に逃げる。「君たちも離れて」と少年探偵団に伝えると、戸惑いながらも彼らは走り去った。

(どこか安全に着地できるところ……川べりのあそこか)

衝撃を与えないように、ゆっくりとラジコンを操作する。大きさ的にはさほどの威力はなさそうだが……。それでも用心するに越したことはない。

周囲が見守る中、ゆっくりと機体を着地させる。そのままプロペラが止まっていくのが分かり、ほっと一息をつく。ざわめく周囲に、「一先ずは大丈夫ですが、近づかないでください。それと、警察を呼んでください」 と告げる。それと同時に携帯電話がなった。

『見事だ。よく防いだな』
「……どうやらこちらを見ているようですね」

犯人からの電話。警戒しながら辺りを見渡す。川の向こうのビルの屋上に、人影が見えた。遠すぎるので、残念ながら詳しくは見えないが。

『その爆弾はもう爆発しないから安心すればいいぞ』
「何のつもりですか」

電話口を睨みつけるようにそう言う。犯人の目的は一体。

『いいかよく聞け。1時丁度にもう一つ爆弾が爆発する。場所は米花駅前広場だ』
「あなたの目的は何ですか」
『ヒントは木の下だ。ただし木の下に埋めてあるわけじゃない。早く行かないと誰かに持って行かれちまうかもしれないぞ』

僕の質問に答えることなく、犯人はそれだけ言うと電話を乱暴に切った。腕時計を見やる。……1時まであと15分少々しかない。風見を呼んで協力体制を敷くべきかと考えたが、どうやらここで時間を潰すわけにはいかなそうだ。クソ、と僕は走り出した。



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