05


米花駅に到着すると同時に、僕は車を降りて近くの木の下を調べる。しかし不可解なことは何もなさそうだ。犯人は埋めてあるわけではないと言っていた。どうやらその言葉は本当らしい、辺りの木に下に掘り返された跡はない。

(単純に木の下ではないということか………そういえば持っていかれるとも言っていたな)

持っていかれるとはどういうことだ?手に持てるようなものなのだろうか。
人の溢れる駅前。避難をさせる時間は、もちろんない。爆弾を見つけ、すぐさま解体………いや、或いは。

「みゃー」
その時、ふと近くのベンチの下から鳴き声が聞こえた。どうやら猫のようだ。『拾ってください』そう書かれたペット用キャリーケースをおばあさんが見つけている。キャリーケースを持ち上げ、中を開ける。中にいた猫は人懐っこそうにおばあさんに擦り寄った。捨て猫か。……ん?待てよ。

(木の下、木の下にあるものは根っこ。ねっこ。猫………!)

ある仮説が頭の中によぎる。「すいません」と老人に声をかけ、キャリーケースの中を見る。やはり、そこにはタイマーが取り付けられた爆弾が入っていた。時限式か。タイマーは5分を切っている。

「すみません、こちらお借りしてもよろしいですか?」

「え?」と言う老人から承諾を得る前に踵を返し車に乗り込んだ。残り時間はもうない。解体する時間はないから、爆発させるしか方法はない。どちらにせよ、この場所で爆発させるわけにはいかなかった。ここらの地理を頭の中で思い出す。……確か、高速道路の先には空き地があったはず。

アクセルを踏み込み、車を飛ばす。時間はない。ギリギリ間に合うか。

「っ、クソ!」

高速道路の手前、運悪く渋滞に捕まってしまう。思わずハンドルを拳で叩く。抜け道はあるが、それはもう少し先だ。大幅なタイムロス。確か爆弾は残り30秒を…

「ん?」

助手席に置いたキャリーケースを見ると、タイマーは26秒で止まっていた。故障か?それとも何か理由が?分からないが、どうやらタイマーが動き出す気配はない。
近くに犯人がいるのかと辺りを見渡すが、そこにはマンションや公園があるだけだった。

不幸中の幸いか。しかし、どちらにせよ危険なのは危険だ。
なるべく早く人気のない場所に到着せねば。
しばらくして渋滞から抜け出し、抜け道へと車を飛ばす。すると横からピ、ピと音が響く。

「クソ、動き出した?!」

再び動き出したタイマーを見て、思わず汗が伝う。いや、大丈夫だ。この距離なら。落ち着け、降谷零。焦りは最大のトラップだと友から習ったではないか。

空き地が見え、そのまま転がるように車を飛び降りる。人気はない。好都合だ。キャリーケースを掴み、空中へ向けて思いっきり投げる。

瞬間、激しい爆音とともにオレンジ色の閃光が辺りに広がった。プラスチック爆弾だ。爆風に耐えられなくなり、車へもたれ掛かる。しかし被害は最小限に抑えられた。ほっと一息つく。顔を伝う汗を拭う。後少しだった。とりあえずはよかったが………。民間人への被害が広がる前に、何としてでも犯人を捕まえなくてはいけない。

『もしもし?』
「風見か? 今から指定する場所にすぐに来い」

そのまま風見に連絡をした。すぐに風見は何人かの捜査員を率いて到着した。近くの橋の下に集まる。経緯を説明すると、驚いたような表情を浮かべる。どうやら警視庁では既に捜査が始められているようだ。

「なぜ犯人は降谷さんに……」
「それは俺にも分からない。ただ、まだ気は抜けないぞ」

犯人の目的は未だ不明だ。だが、あまり考える時間もない。今のところ犯人からの連絡はないが、これで終わるわけがない。次にいつ鳴るか分からない携帯電話を睨みつける。

「使われたのはプラスチック爆弾か?」
「はい。ラジコンの爆弾も、まだ調査段階ではあるけれどキャリーケースの爆弾も、どちらもそうです」
「やはり…」

青みを帯びたオレンジ色の閃光は、プラスチック爆弾の特徴だ。
おそらく爆薬は東洋火薬の火薬庫から盗まれたもの。続けて風見が、ラジコンの爆弾は雷管をつけて衝撃爆弾に、キャリーケースの爆弾はタイマーを接続して時限爆弾にしてあったことを知らせる。

「しかしなぜタイマーが1度止まったのか分かりませんね……」
「タイマーが1時26秒前で止まった件については原因は不明だが、考えられることは二つある。一つはタイマーが故障を起こしてしまった場合。もう一つは犯人が何らかの理由により遠隔操作で止めた場合だ」

そしておそらく後者だろう。だが、残念ながら理由は分からない。

「犯人は『降谷』ではなく『安室』に連絡をしてきた。警察への恨みの線はなさそうだ」

残るは安室個人への恨み、もしくは毛利先生の弟子である安室への挑戦といったところか。わざわざ変声機を使ってきたところから、おそらく知り合いなのだろうと考える。

「他に今ある情報は?」
「それなら、ラジコンを受け取った子どもたちの証言を元にした犯人像が」

差し出された紙を受け取る。帽子に長い髪、そして長い髭。サングラスをかけ、コートを着ている。
おそらくこれは変装の可能性が高い。となると、顔見知りの犯行か。「あと」 と風見が付け加える。

「女の子がラジコンを受け取った時、甘い匂いがした、とのことです」
「匂い?」
「えぇ。どういったものかはあまり覚えてないそうですが……」

甘い匂いとなると、香水か、洗剤の匂いか、もしくはそれ以外のものか。頭の隅に留めておくことにする。
他の捜査の進捗状況を聞くが、目立ったものはなさそうだった。とりあえず今日の予定は断るか……。嬉しそうに顔を綻ばせていた名前の顔を思い出し、思わずため息をつきそうになる。また寂しい思いをさせてしまう。罪悪感にかられる。だが、今はどうしようもできないのが現実だ。犯人が捕まるまでは、しばらくポアロも休まなければいけない。『すいません、急用が入りました。今日の予定はキャンセルで』事情は説明出来ないので、簡単にそうメッセージを打つ。降谷としては送れないので、安室として。自分の冷酷さにまたため息が出る。メッセージを送信しようとした瞬間、持っていた携帯電話が震えた。



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