06


『よく爆弾に気づいたな』

電話を出ると、変声機を使った犯人の声が聞こえた。風見に視線を向ける。横に首を振られる。どうやら逆探知はできないようにされているらしいな…。

「いい加減遊びはやめたらどうです」

存外冷たい声をしていた。どこの誰であれ、この国を脅かす者は公安として見逃せない。

『一度しか言わないからよく聞け』

その言葉と同時にスピーカーモードにする。メモを構えた捜査官を捕らえる。

『東都環状線に五つの爆弾を仕掛けた』
「………!なんてことを!」
『その爆弾は午後3時を過ぎてから時速60キロ未満で走行した場合爆発する。また日没までに取り除かなかった場合も爆発する仕掛けになっている』

時計を取り出し時間を確認する。今の時間は2時50分。あと10分ほどしかなかった。解除の時間は絶望的だ。

『一つだけヒントをやろう。爆弾を仕掛けたのは「東都環状線の××の×」だ。×のところには漢字が一字ずつ入る。それじゃあ…頑張ってな安室透』

ブチと乱暴に切られた携帯電話を仕舞いながら、風見に「とにかく本庁に連絡しろ」と指示を出す。なぜ環状線に爆弾を仕掛ける必要性があったのか。五個という数字に疑問を抱く。ただの恨みや挑戦なのだろうか。それだけなら駅を巻き込むような大胆なことはしないはずだ。何かを破壊したいような、そんな意思が感じられる。

××の×………。何の漢字が入るだろうか。

「座席の下、網棚の上、あるいは車体の下………」

考えられる限りを呟く。すぐさまそれをメモした部下たちに、他の警視庁と合流しろと伝える。今回は大規模で捜査するべきだろう。「降谷さんはどうされるんですか」風見の言葉。

「東都環状線の駅員にも事情を伝えろ。各駅停車でも何でも、どの電車も停車駅が近づいても止まらないように指示を出すんだ。もちろん60キロを下回らないように……70はあってもいい。俺は表立って捜査できないから、何か分かったらすぐに連絡する。頼むぞ!」

「はい!」と解散していった後ろ姿を見ながら、車に乗り込む。60キロを切った時点で爆発、ということは何かしらの速度感知機能が着いているのだろう。車内にあるのなら分かりやすいが、そんな目立つところにあるとも思えない。となると車外か。解除するには時間がかかる。……日没を過ぎたら、アウトだ。なるべく早く見つける以外方法がない。

3時を過ぎたとき、爆発した様子はなかった。とりあえず本庁からの要請が通り、作戦が成功したのだろう。ひとまずほっとしていた僕は、うっかり送信されていないままのメッセージのことを忘れてしまっていたのだった。





「じゃあ、車内から不審物は発見できなかったんだな」
『はい。現在走行中の二十一編成全車両、車掌がくまなく探したんですが、荷物は全て持ち主がいました。線の数ヶ所から撮影された映像でも車体の下に爆弾らしきものは見つかりませんでした』
「分かった。報告感謝する」

風見からの報告に、僕は頭を抱える。どうやらあちらも行き詰まっているみたいだ。時間が刻刻と過ぎていく。もうそろそろ夕日が出てくる頃だ。運転席から外を見ると、近くにあった木の影が大きく伸びていた。

日没になったら爆発する爆弾。
時速60キロ未満で走行した場合も爆発する爆弾。

(ん? ……影、日光…。そうか!)

「風見聞け!」

すぐさま風見に連絡をする。電話越しのガヤガヤとした物音に、向こうの混乱具合が分かった。

「爆弾の場所は、「線路の間」だ!」
『線路の……?! 本当ですか、降谷さん!』
「あぁ。5つの爆弾は全て、線路の間に仕掛けられているはすだ。爆弾はおそらく陽が当たっている間は爆発しないようになっているはずだ。そうだと仮定すると、時速60km未満で走行した場合、爆発するのは車体の影に隠れて爆弾に陽が当たらないから。また、日没で爆発するのも、陽が出ていないから。東都環状線の車体の長さと時速60kmを掛けると1部の線路を通過するのに必要な時間は………。おそらく爆弾は13秒で止まっているはずだ!」

「だからすぐに環状線を他の線に移せ!おそらく環状線の線路から外れさえすれば走行を止めても問題はないはずだ!」

風見が、僕の推理とほぼ同時に辺りに指示を出した。
日没まであと僅か。今から爆弾を捜索し、それから解除か。……ギリギリだろうか。いや、日本警察なら、きっと。

しばらくし、全車とも車庫入れに成功したと風見から連絡が入る。
五つの爆弾の解除に成功したとの報告が入ったのは、日没の僅か15分前だった。





仕掛けられた爆弾は、盗み出された爆薬の量からしてもわずか四分の一ほどらしい。まだまだ犯人の狙いは終わらないだろう。助手席のクロークから地図を取り出し、風見から送られてきた情報を元に爆弾のあった場所に印をつける。

「……橋の上?」

ほとんどは普通の住宅街。しかし一つだけ、橋の上に仕掛けてあったらしい。その橋を指でなぞる。隅田運河のすぐ上。これは……。

つい最近見たばかりの橋のはずだ。石造りのそれは、スマホで検索するとすぐに出てきた。森谷教授設計の橋……。そういえば一昨日放火された黒川邸も、森谷教授設計だったな。偶然だろうか?それとも…。

風見に確認の電話をかける。最近放火された家。その設計者の名前。おそらく、僕の予想が正しければ一つの共通点が浮かび上がるはずだ。

『降谷さんの言っていた通りです。放火された邸宅、黒川邸を始め、水嶋邸、安田邸、阿久津邸とすべて森谷教授が三十代前半の頃に設計したものでした』

その返答に僕は息をつく。やはりそうか。………だとしたら、おそらく放火事件と爆弾犯は同一人物。そしてその目的は…。森谷教授への怨みか、もしくは。

とにかく、一度森谷教授に会う必要があるみたいだ。風見にもその旨を連絡し、同行するように指示をする。
車を発車させ、森谷邸へと向かう。途中、先程爆弾のタイマーが一度止まった場所に通りかかる。何か狙いがあったのだろうか。マンションと公園があった場所。昼間は目立たなかったが、公園の側にはガス灯が光っていた。



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